第14話 意図しない遭遇

 小鳥のさえずりが鳴り響くほとり。

 澄んだ空気が辺りに充満する中、落ち葉が舞い散る地面で睡眠をとっていた2人。

 意識が覚醒しそうになるが、旅の疲れが残っていたのだろうか。

 2度目の眠りに誘われるタクスス。

 そんな彼女の行動を妨害するように、遠くから落雷のような銃声音が聞こえて来た。


「……何、今の……」


「んん? 朝っぱらから元気ですねぇ。ふぁ……おはようございます」


「……お、おはようございます……あの、今のって……?」


「狩人でしょうかね? この地域では狩りが行われているらしいので。ちょっと見に行って見ましょうか」


 地面から体を起こす2人。

 荷物を背負うと、重たい瞼を擦りつつ、音の下方角へと足を進めていく。

 青々とした木々が生い茂る中を進み、集落のような場所にやって来た。

 湖のほとりにポツンと位置するこの場所は、狩人の拠点なのだろう。

 建物のそばに、猟銃といった狩りで使われる道具が無造作に置かれている。


「おやおや、銃を外に放置とは……安全管理がなっていませんね、ここの人間」


「……なんか、人気がないっていうか……不気味です」


「そうですねぇ……面倒ごとが起きる前に戻りましょ……」


「おいコラっ!! 何してんだお前ら」

 

 コチラの会話を遮るように、背後から喧嘩腰に話しかけられる。

 白髪姿の腰が歪んだ男性。

 もめ事が起きないかどうか心配していたローズは、もう少し早く帰れば良かったと舌を鳴らす。


「……えっと……散歩していたら銃声が聞こえて来たので、何か起こったのかと思いまして……」


「あ~ん? そう言って盗みにでも来たんじゃねぇだろうな? 火傷の姉ちゃん。それに……何だお前、ぐ、軍人か?」


「ええ、この周辺をパトロールしていました。殺人でも行われたのかと思いまして」


「……はっ!! ご苦労なことだな。他の家の人間が誤射でもしたんじゃないか? 殺人なんて、この街ではそうそう起きねぇよ!!」


「……そうですか。疑ってしまい申し訳ありません。ではこれで」


 一礼して来た道を引き返すローズ。

 タクススも遅れて一礼すると。ローズの後を付いて行く。


「……良いんですか? ローズさん」


「ええ。何か隠していそうでしたが、面倒なことになりそうなので」


「……その話、俺にも詳しく聞かせて欲しいな」


 再び背後から声を掛けられた2人。

 さっきの老人がいちゃもんでも言いに来たのかと思った。

 だが、明らかに声質が違う。

 警戒したまま後ろを振り向く彼女達。

 野生の熊と勘違いしてもおかしくない程の、体格の良い野性的な男性が仁王立ちしていた。

 ボロボロの黒い羽織を上半身半裸の状態で着こなしている彼。

 昨晩見た服装とは似つかわしいが、ただものではない威圧的な雰囲気に、ローズはすぐさま勘づく。


「山賊が私達に何の用でしょうか」


「銃声の音が聞こえたもんでよ。急いで駆けつけたらお前らがいたもんだからな」


「生憎、そんな道具は持っていませんよ。セクハラになりますがボディーチェックでもしてみます?」


「結構だ。それで……誰が何を隠しているんだ? あぁ?」


「おやおや……人にお願いをするなら、もう少し下手に出てはいかがでしょうか……?」


「ちょ、ちょっとローズさん……落ち着いて……」


「そうだよお父さん!! いくら何でも喧嘩腰過ぎるよ!! ……あれ? お姉さんって……」


 一触即発の場面を迎えていた両者。

 空気を伝う熱情を収めるきっかけを作ったのは、ある意外な人物であった。

 

「……アナタ、シャガ君?」


「そうそう!! 昨日ぶりだね!!」


「なんだシャガ、知り合いか?」


「うん。昨日酒場で一緒にご飯を食べてたんだ」


「……肉の匂いがしたと思ったら、昨晩は酒場に居たのですか。そこで山賊の子供と食事を……」


「……す、すみません。山賊関係の話をしたら、また機嫌が悪くなっちゃうと思ったので……」


「まあ、この際いいでしょう。うぅむ……喧嘩する気分ではなくなってしまいましたよ」


「ちっ……命拾いしたな小娘」


「命拾いしたのはどちらでしょうかねぇ……?」


「ふん。軍人相手なら俺が有利なんだがな……まあいいさ。それで……結局あの銃声は誰の仕業だったんだ?」


 再度質問を投げかけてきた山賊の大男。

 気が乗らないローズであったが、仲良く会話を行うタクススとシャガの様子を見て態度を改める。

 彼女はため息をつきながらも、端的に先ほどの状況を説明し始めた……

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