第11話 共存する両者

 夜風を浴びながら、バイクのサイドカーに座るタクススとローズ。

 自らを山賊と名乗る男に、案内がてら大型の重機に乗せてもらっている。


「へぇーお嬢ちゃんたちアセンリーから歩いて来たのか。健脚だなおい!!」


「……ど、どうも……」


「伊達に軍隊で鍛えていませんからねぇ……そんな私に山賊と名乗るとは……」


「お、おいおい!! 俺を捕まえる気か!?」


「捕まえる気ならとっくに捕まえていますよ」


「そ、そうか……はぁ~肝が冷えたぜ」


 ほっと胸を撫で下ろす山賊。

 つまらなそうに、線と化す景色を眺めるローズに代わって、疑問に思っていたことを尋ねるタクスス。

 走行音に負けないように、彼女にしては珍しく声を張る。


「……あの……ちょっといいですか?」


「何だいお嬢ちゃん」


「……私の想像している山賊と、アナタの言動……だいぶ食い違っているって言うか……」


「はっはっは!! 悪さしてるには変わらねぇよ!! 金持ち限定だがな」


「……金持ち?」


「ああ、それ以外の相手には何もしねぇ。金持ちからぶんどった金を庶民にばら撒く。それがお頭の方針だからな」


「ほぉ~義賊ごっこですか? おめでたいことですよ」


 風景を眺めていたローズが、上目遣いで山賊を睨みつける。

 いつもと比べて、言葉の節々に棘があるような気がした。


「私からしたら、ただの盗人と同然なのですがねぇ」


「はっ!! そんなのは分かってるさ、お頭も俺達もな……いつ捕まっても良いように活動しているよ」


「これはこれは。良い心がけですねぇ」


 それっきりローズが口を開くことは無かった。

 張り詰めた場の空気に狼狽えるタクスス。

 何て言おうか悩んでいると、目前にぼんやりとした光が見えてくる。


「お!! 見えて来たぞ!!」


「……あれがアウレラですか……? なんか……薄暗いですね……」


「昔よりはだいぶ活気がないからな……まあ、仕方がねぇよ」


 街の入口付近に到着した3人。

 山賊の男に礼を言うと、手を振りながら見送るタクスス。

 彼もそれに答えるように手を振りながら、来た道を引き返していく。


「……行ってしまいましたね彼……」


「そうですねぇ」


「……あの、ローズさん」


「なんでしょう?」


「……さっきから機嫌が悪くないですか?」


 ほんの数日の付き合いであるローズ。

 片時も離れず行動しているので、タクススは彼女の胸中を何となく察せるようになっていた。


「あー……バレましたかやはり」


「……かなり分かりやすかったですよ」


「はぁ……職業柄、あの手の連中とは話す機会が多いのですがね……言うこと成すことその場しのぎで、信念が無くつまらないのですよ。さっきの男も、口ではああ言っていましたが、実際の所はどうなんですかねぇ」


「……」


「ふー……ちょっと気分転換したいので、別行動しません? 私はこの辺をうろついているので、何か食べて来て良いですよ。お金は渡すので」


 そう言うとローズは、布で出来た小さな袋を渡す。

 手の平で受け止めると、思わず地面に落としそうなほど、ずっしりとした重さがある。


「ではでは~」


 手を振りながら暗闇の中に溶け込んでいくローズ。

 煙草でも吸っているのだろうか。

 背中を見せる彼女の周囲から白煙が見える。


「……取り合えず、何か食べに行こっと」


 ローズの姿が消えるまで眺めると、後ろを振り返り街の方を向くタクスス。

 街灯に照らされた道の先に、今は閉山されている巨大な炭鉱が、堂々とそびえ立っている。

 道路の脇には、宿泊施設や飲食店と思わしきレンガ造りの建物が隙間なく存在している。


「……何処に行こっかな……適当な所でいっか」


 直感に導かれるまま、ふらふらと近くの店に来店していくタクスス。

 電球の切れかかっている看板が目印の、酒場のような場所へと入店する。l

 古びれた外見に反して、店内には満席になる程の人々が、騒がしく酒を嗜みながら食事を取っている。


(うわぁ……人が多い……煩い店に来ちゃったな……)


 引き返そうか迷った彼女。

 だが、入店した際に、カウンター席の奥で調理を行う店員と目が合ってしまった。

 引くに引けなくなった彼女は、そのまま目前にあるカウンター席の空いている場所に腰を下ろす。

 木で出来た椅子と机は、年季が入っているのか所々削れていた。


「いらっしゃい。何にします?」


「……えっと」


 落ち着いた振舞いでタクススに話しかけてきた店員。

 見た所60歳近い年齢だろうか。

 白髪を頭部の後ろの方で団子状に縛っており、威厳のある表情をしている。


「……えっと……この店のお勧めをお願いできますか?」


「お勧めね……了解。『焼け』な」

 

 注文を受けた老人は、早速調理に取り掛かる。

 言葉の力で肉の塊に火を灯す彼。

 焼かれていく塊からは、肉汁がとめどなく溢れて来る。


「『漂え』……はいよ、お待ち」


 焼きあがったそれを中に浮かせ、包丁で薄切りにしたものを皿に盛り提供する彼。

 出来上がった薄切りの肉から、濛々と湯気が立ち込めている。


「……ありがとうございます」


 一言感謝を述べると、フォークを使い熱々の切り身を口に運ぶタクスス。

 噛めば噛むほど幸せが彼女を包み込む。


「どうだ!? 銀髪のお姉さん!! コザックおじさんの料理はうめぇ~だろ!!」


「……そうね……ん?」


 知り合いのように声を掛けられたので、何も疑問を抱かず返事を返す彼女。

 声のする方向は隣の席からだ。

 そこへ顔を向けると、10歳程の年齢と思わしき1人の男の子が、コチラに奇麗な瞳を向けて話しかけてきていた。


(……誰? この子……)

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