第10話 山賊の街・アウレラ

 人の波は静まり、倉庫にはアルテンとタクスス、ローズの3人しかいない。

 地面に蹲る彼は、至る所に殴打された跡が見られ、皮膚が紫色に変色してしている。

 もみくちゃにされるのを、安全な場所から観察していた2人。

 欲をむき出しにする客が居なくなると、蹲る彼の元へ歩を運ぶ。


「自業自得とは言え……酷い有様ですねぇ」


「う……うぅ……」


「ふっふふ……不景気でピリついているとは言え、あそこまで人は凶暴になれるのですね……いい実験結果が出ました。ですね? タクスス」


「……」


「おや? タクスス~? お~い?」


「……」


 満足した結果が得られ、ご満悦のローズ。

 対照的に、タクススの表情は未だ冴えない。

 火傷を負っていない青白い肌は、より一層青ざめている。


(数日前の事を思い出しちゃったな……今でも頭に残ってる嫌な声……さっき聞いた声と同じ……気分が悪くなって来ちゃったな……)


「隙だらけですねぇ」


「……!? ちょ、ロ、むうぅぅぅぅ!!」


 タクススへ軽やかに近づくと、手を背中に回し優しく抱きしめ、彼女の艶やかな唇を奪い去るローズ。

 不意をつかれた銀髪の少女は、嫌が嫌でも赤面する。


「……んんんっ!! ローズさん!! いきなり何をしてるんですか!?」


「いやいや、元気が無かったので、ちょっと励まそうと思いまして……もう少し過激に励ましましょうか?」


「……結構ですっ!! もう……!!」


 乱暴に拘束から逃れるタクスス。

 少し残念がっているローズは、気を取り直すとアルテンの元へと再度歩み寄る。


「えー……ではそろそろ失礼しますね。その前に……アナタには聞きたいことがあるのですよ」


「う……なんだよ……?」


「アナタの部下が所有していた覚せい剤、アレは山賊に売りつけると仰っていました。これは本当ですか?」


「あ、あぁ……アイツらは常連客だからな……それがどうかしたか」


「山賊がいる街はアウレラですか?」


「そうだが……」


「……分かりました、ありがとうございます。……では、『灼けて』ください」


「……!? ちょ!!」


 刹那に周囲を照らす閃光。

 一言しか発する時間の無かった彼は、倉庫内を漂う塵と同化していく。

 無言でこの場を後にするローズ。

 タクススもその背中を追っていく。


「……あの、ローズさん」


「なんでしょう」


「……アウレラって言ってましたよね、さっき」


「はいはい」


「……炭鉱が栄えた街に山賊が居るって……どういう状況なんですか」


「閉山した炭鉱内に住み着いているのでしょうか。私も詳しくは分かりませんね。よりにもよって、次の街とは……」


「……迂回しますか?」


「それはそれは、相当遠回りになりますからねぇ……一応タクススを追っているていで動いていますので、もたもたしていられないのです」


「……じゃあ……」


「面倒ですけど強行突破ですね。最悪殺せば良いですから」


 かったるそうに肩を落とす彼女。

 荷物を背負っていないにも関わらず、その肩には重荷が積まれているようであった。


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 アセンリ―の街を出発し、数時間が経過していた。

 日が落ち込み、辺りは暗くなっている。

 口に水を含みながら山道を進む2人。

 周囲には人気が無い。


「……結構、遠いですね……肩痛い……」


「タクスス、荷物持ちましょうか?」


「……い、いえ……大丈夫です」


「そうですかそうですか。しかし参りましたねぇ……道に迷ってしまいましたよ」


「……道に迷ったんですか……えぇ? 道に迷った……?」


「ふっ……私、やらかしました」


 可愛くウインクするローズ。

 場を和ませようと茶目っ気溢れる振舞いをするが、その姿は見ていられない程痛々しいものである。


「……この時間に山に居るって……ちょっとした遭難じゃないですか」


「そうなんですよね~どうします? この辺で野宿しますか?」


 気楽に話す彼女。

 その背後で、獣の唸り声がやまびこのように反響している。


「野宿は辞めてさっさと街に行きましょうか」


「……それが良さそうですね」


「おい、お前ら」


 背後から急に呼び止められた2人。

 心臓の鼓動が強くなる。


「おやおや、何でしょう」


「こんな夜中に女が外出しているのは危ないだろ」


「……す、すみません……」


「山賊に襲われたら危ないだろ? まあ、俺がその山賊なんだがな。はっはっはっ!!」


 人によっては鬱陶しく思う親切心。

 うっかり聞き流しそうになってしまうが、すぐさまある言葉を思い出し、顔を見合わせる2人。


(山賊……? コイツが?)

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