第12話 過ぎ去りし栄光
突然話しかけられたタクススは、肉を咀嚼しながら相手の瞳を見つめる。
碧眼の男の子。
茶髪を短く整えており、さっき見た山賊と同じような服装を身に纏う。
青い上着に獣の羽毛を羽織っている彼は、タクススと同じものを頬張っている。
「親父に連れられて、たま~に他所の街でも食事をするんだけどさ? やっぱ俺にはさ~この店の料理が一番なんだよね!!」
(静かに食事をしたいのに……鬱陶しいなこの子)
構って欲しくないオーラをこれでもかと纏う彼女。
内心不満を抱きながらも、無表情のまま男の子に語り掛ける。
「……そ、そうなんだね……美味しいからね……凄く、うん……」
「だろぉ~!? コザックおじさん、腕がいいもんな~!!」
「シャガ、その辺にしときな。お客さんが困ってるだろ?」
タクススの振舞いを見て察したコザックは、シャガという名の男の子を優しく諭す。
ぎくりとしながらも、彼女はフォークを動かすことを辞めない。
「は~い……」
「すまないね、お客さん。コイツいつもこんな感じなんだよ」
「……い、いえ……お構いなく……」
「シャガ、ところでお前さんの親父は戻って来たのかい?」
「うん。今は炭鉱のアジトにいるよ」
「そうか」
(炭鉱……?)
店員と子供の会話に聞き耳を立てていたタクスス。
先ほどから何となく疑問に思っていたことがある。
「……あの……シャガ君だったっけ……?」
「ん? なにお姉さん」
「……シャガ君のお父さんって山賊?」
「そうだよ。山賊のお頭」
「……え?」
「あー……その反応だと、やっぱお姉さん、この街の人間じゃないね」
「……ま、まあ……」
「そうだね……お姉さん、この店に入ってみて何か気づいたことってある?」
「……気づいたこと?」
席の後ろを振り返るタクスス。
店内を見渡し、シャガの問いがどういう意味かを瞬時に理解する。
「……山賊……が多い?」
「そうそう。今でこそ畜産業で立て直したとは言え、鉱山が閉まっちゃった時の寂れ具合は凄かったんだよね……そんな時、俺の親父を筆頭に、この街の復興に努めたってわけ。今では街の皆と仲良しだね」
「あんまデカい声で言うなよ、大ぴらには出来ねぇんだからよ」
「分かってるよ、コザックおじさん」
街の内情を話す2人は、長らくの旧友のように言葉を交わす。
そんな空間に居合わせた彼女。
書物では得られない貴重な話を聞けた時間であった。
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食事を終えたタクススは、待ち合わせの場所でローズとの合流を図る。
染みついた肉の香りで、何処へ行ってきたのかがバレると思いつつ、目を凝らし探す彼女。
挙動不審にも見える行動で向こうも気が付いたのか、ベンチから立ち上がった人影がコチラへと近づいて来る。
「やあタクスス、もういいのですか?」
「……ええ……食事も取りましたし、大丈夫です」
「そうですかそうですか。では宿でも探しましょうか」
「……今日は宿ですか?」
「おや、野宿の方が良かったですか?」
「……い、いえ……そういうわけでは……」
(この時間帯だとまだ山賊が歩いているはず……絶対ローズさんの機嫌が悪くなるよね……)
僅かな時間を共にしたシャガの言葉を思い出すタクスス。
折角機嫌が良くなった彼女だが、街をうろつこうものなら、十中八九また機嫌が悪くなるだろう。
苦肉の策になるが、今回は宿泊するのを見送ろうと決心するタクスス。
考えを悟られないように声を振り絞る。
「……えっと……長旅になりそうだから、お金を節約したほうが良さそうだなぁ~って思ったので……」
「私、そんなにお金持ってないように見えます?」
「……い、いえ……!! そんなことはっ!!」
「ふっふふ……冗談ですよ。そうですね、折角なのでご厚意に甘えさせていただきましょうか」
なんとか誤魔化せたのだろうか。
ほっと胸を撫で下ろすタクスス。
彼女の胸中など露知らず、ローズは何処かへと歩み出していく。
「……えっと……ローズさん、何処へ……?」
「おや? 野宿をするのでしょう? ならばとっておきの場所を見つけたのですよ。湖へ行きましょう」
先ほどの別行動の時間で見つけたのだろうか。
タクススの手を引くと、彼女が提案した場所へと向かい始めた。
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