第4話 この世界に何を願う

「ん……んん!? んっ……!! んんんん!!」


「ん……ちゅ……」


 銃を突きつけられたと思ったら、身内で殺し合ってキスをしてきた。

 それにこの人……思いっきり舌を入れて来てる!?

 何で!? 初対面なのにっ!?

 無理やりこじ開けられた口内で、何度も何度も舌を絡めとられるタクスス。

 短時間におかしな出来事が立て続けに起きたため、彼女の脳は今にもパンクしそうになっている。

 力ずくで離そうにも、ローズの腕力が強いため、引きはがせそうにない。

 なされるがまま暫く情熱的なキスを受けると、満足したのか拘束が解かれる。


「ごち……いや~危うく死ぬところでしたよ」

 

「……アナタ、後半は完全に味わっていましたよね!?」


「いえいえ、とんでもございません。落ち着かせるために必死でしたよ」


「……そもそも何でキスを」


「口を防ぐための最善の手ですからね」


「……うぅ……訳が分からない……」


 頭を抱えて項垂れるタクスス。

 火傷の痕なのか、それとも赤面しただけなのか。

 彼女の顔は、酷く火照っている。


「おや? 落ち着きましたか? ではちょっとだけお話をさせてください。間違っても死ねなんて言わないで下さいね?」


「……何か知っているんですか? その言葉について」


「いや~噂程度ですよ? 禁忌とされた死の言葉を使える者は、他人を即死させられると文献で見ましたので……本物を見るのは初めてですよ」


「……」


「それは置いておいて……先ずは名前をお聞かせ頂けますか?」


「……タクスス・ステラ」


「おや、ステラ家の人間でしたか!! この地方では有名な貴族の」


「……もう私以外はいないですけど」


「そうですかそうですか……私、セーブル・ローズと申します。軍隊での階級は少佐です」


「……軍人?」


「ええ、バリバリの軍人です」


「……そんな人が何でここに……?」


「実はですね……ハゲの上司から指令を受けて来たのです。この惨劇を引き起こした人物を見つけてくるようにとね」


「……やっぱり私を殺す気で」


「私の部下3人はそのつもりで来てましたね」


「……アナタはどうなんですか?」


「よくぞ聞いて下さいました!!」


 紳士的に対応していたローズの語尾が突然強まる。

 あまりの変わりように、タクススは短い悲鳴を上げる。

 そんな彼女を気にせず、ローズは興奮した面持ちで話し始めた。


「私はね……見逃す気満々で来たのですよ」


「……見逃す?」


「そう。今の世界は平和すぎますからね……退屈で仕方がありません。アナタみたいな人間が各地で暴れてくれれば、世の中面白くなりますよ……そうだ」


「……何ですか?」


「もしよろしければですけどね……私と行動しません?」


「……えぇ……」


「そんな嫌そうな顔をしないで下さいよ~アナタの力を借りたいのです。対岸国に喧嘩を売りに行きましょう!!」


「……対岸国って……エレーケスですか?」


「はい!! あの国とこのイルドアランを巻き込んで、大規模な戦争を引き起こしましょう!! いかがです!?」


「……いかがですって……世界が今よりも静かになりますか?」


「驚くほど何も聞こえなくなるでしょうねぇ……!!」


「……分かりました。行く当てもないですし、協力しますよ。ただ……」


「ただ?」


?」


「くっく……!! ええ、喜んで死なせて頂きますよ」


 深々とお辞儀をして感謝の意を伝えるローズ。

 彼女の20年の歴史で今が一番充実している……そんな表情をしている。

 再度顔を上げると、無線のような機材を取り出し、何処かへ連絡を始める彼女。

 声だけは迫真の様子で会話を行う。


「……こちらローズ!! アナベル中将!! 目的の人物を発見しました!! ただ……すみません、見つかってしまい取り逃しました……私も傷を負ってしまい……はい、はい……私の部下が全員、うぅ……申し訳ございません……!! 引き続き追跡を行います!! 無理はしませんので……失礼します!! ……こんなもんでしょう」


「……あの……アナタ、きっと碌な死に方しませんよ……?」


「でしょうねぇ……私もそう思いますよ」


 他人事のように返事をするローズ。

 彼女は、意気揚々と壊滅した都市の中心でで宣言する。


「さあ、ステラ!! 楽しい時間を始めましょう!!」


「……ステラって名前嫌いなんで、タクススって呼んでもらって良いですか?」


「……さあ、タクスス!! 楽しい時間を始めましょうっ!!」

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