第3話 灰かぶりの令嬢

 夕闇の中、赤き風が未だに周囲に漂っている。

 無人の街を探し続け、ローズ達4人が見つけ出した人物は、水が止まった噴水に腰をかけ、焦点の定まらない目で辺りを見渡している。

 女性のような人影。

 数日は手入れされていないと思われる銀髪は、灰を被ったように汚れており、輝きを失った真紅の眼からは生気を感じられない。

 景観に溶け込むような純黒な衣服は、所々灼け焦がれたように傷だらけである。


「ローズ少佐……恐らくアイツであります」


「でしょうねぇー……周辺には生き残りの人間はいないですし」


「……なら早いとこ殺しちまおうぜ?」


「ソテツさん、早まる気持ちも分かりますがもう少し様子を見ましょう」


「けどよぉ……」


「もう少しだけお願いします」


(全く……私の考えがまとまっていないのに……)


 物陰に隠れたまま、目前の少女にどうやって友好的に接するかを悩んでいるローズ。

 今後の目的のためにも、なるべく友好的な関係を築きたいと彼女は思考を駆け巡らせる。l

 煙草に火を付け、どうしたものかとうんうん唸りながら悩んでいると、痺れ切らした部下たちが物陰から姿を現し、噴水に腰かける女性に襲い掛かっていく。


「う~ん……ん? アレ? 皆さん!?」


「少佐!! もう我慢ならねぇ!! アイツ以外にいないでしょ!!」


「いや~そうなんですけどね? もしかしたら違うかもな~って」


「大丈夫だよぉ!! マユミ!! ツリバナ!! 行くぞぉ!!」


 腰に装備していた小型の銃を構え、威勢よく突撃していく3人。

 ローズは唖然としながら後を追いかける。


「本部に報告もせず、指示を無視して突撃って……私、もしや舐められてます?」


 後先考えない3人に振り回されるようにして、噴水近くまで接近するローズ。

 亡霊のような女性は、4人の白い軍服姿を見ると、酷く怯えたように体を震わせる。

 そんな彼女を威圧するかのように、ソテツは声を荒げる。


「そこを動くなっ!!」


「……な、何ですか、アナタたち」


「お前!! 名前は!?」


「……タクスス」


「お前がこれをやったのか!?」


「……」


「答えろ!!」


「……煩いですよ」


「はぁ?」


「『死ね』」


「……何をして……うぅ!?」


 胸を押さえ、突然苦しみだすソテツ。

 手に握りしめていた拳銃を地面に落とし、力なく倒れ込んでいく。


「ソテツ兵長!? ……し、死んで……おい、お前!! 何をした!?」


「死の言葉……? 本物は始めて見ましたね……ほうほう」


「ローズ少佐!!」


「しかし……見事に面倒になりましたね。う~ん……しょうがないですねこれ。ツリバナさん、マユミさん」


「はい?」


「なんでしょう?」


。 ……『灼けて』ください」


「……!? ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


「ローズ少佐ぁ!! 何でっ!?」


 ローズの言葉に部下の体は、太陽に近づき過ぎたかのように、内部から蒸発して跡形もなく消え去ってしまう。

 燃え尽きたのを確認してから戦闘帽を脱ぐと、黒髪を垂らし、タクススへ向かってお辞儀をしながら挨拶を行う。


「大変申し訳ございませんでした。私、セーブル・ローズと申します。この度は私の部下が大変ご迷惑をおかけいたしました」


「あの……煩いんですけど」


「……おやおや? なんか想定と違いますね。ここは返しにお名前を言って頂けるのでは……」

 

「『死……』」


「ちょっ!? それは……辞めていただきましょうかっ!!」


 会話して数秒で殺されそうになるローズ。

 彼女が生存するには、タクススが言葉を発するのを防ぐ必要がある。

 時間にしてコンマゼロ秒にも満たない刹那の時間。

 彼女の若い脳が弾き出した答え。

 それは……


「え……? むぐぅ!?」


 右手でタクススの後頭部を手繰り寄せ、左手を背中に回し、彼女の唇を奪うローズ。

 彼女は熱烈なキスをした。

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