第7話〜あのコと2人きりなんて緊張します!!〜

 翌日、待ち合わせの時間より1時間早く、展望台のある最寄り駅に着いた。緊張のあまり、目覚まし時計よりも早く起きたくらいだ。家でのんびりしてから行こうかと思ったんだけど、何も手がつかなかった挙句、レディを待たせてはいけないという使命感があった。それに茜のことだから時間よりも早く来ることも分かっていたし。

 案の定、30分前にやって来てキョロキョロと辺りを見回して俺を捜している。その様子がとても可愛かったが、変な男にナンパされてはマズい!!彼女のもとへ行き「おはよう!!」と声を掛ける。

 白いパーカーに、チェックの茶色のフレアスカートコーデに可愛い以外の言葉が見つからなかった。それにチャームポイントの赤いリボンも1本の三つ編みの中に埋もれている。

茜の服装を見て、思わず自分の服装を見やる。大丈夫かなぁ俺……ダサくないかなぁ。

「どこか座って話せる場所ないかな」

 辺りを見回して探していると、急に腕を掴まれて「早く登ろ〜〜」とチケット売場に連れて行かれた。おいおい目的がすっかり変わっているぞ!!まあ、いいか。ウキウキしている彼女に水を差すのも悪いし、今はこの時間を楽しむことにしよう。



 展望台の頂上に着くなり、「あたしここからの景色だーいすき!!落ち込んでることがあったとき、いつも来ているんだ。どんな悩みもちっぽけに思えてくるから」と景色を眺めながら感慨にひたっている。今なら話が訊けそうな雰囲気だ。

「中学時代も来てた?」

「うん。酷い嫌がらせを受けていたとき、辛くて学校にも行けなくなってしまった時期があったんだ。それでずっと家で塞ぎ込んでいたある日、テレビでここの特集を見ていたときのコメンテーターの話がとてもステキでね」

「どんな内容だったの?」

「『見てください!!嫌なことや悩みごとをきれいさっぱり消し去ってくれそうですよね。ちなみに夜になると、とても幻想的なんです!!この展望台はパワースポットとしても有名なんです。皆さんぜひ一度足を運んでみて下さい!!』。この言葉がすごく刺さって、家族で行ってみることにしたんだ。それで来てみたら本当にその通りだった。あたし景色見ながら感動して泣いちゃったくらい」

 当時の出来事を思い出し、茜の目が涙で潤む。

「ごめんね。やっぱりまだまだダメみたい……。昨日のこともあってまだまだ完全には忘れられないみたい」

 手で涙を拭きながら謝る茜の頭を優しく撫でた。

「大丈夫だよ。今までの嫌なこと全部、これからは楽しい思い出に塗り替えていこう!!」

「うん!!」

 彼女の笑顔を見た瞬間、俺の心臓はバクバク鳴り響いていて、この音が聞こえてしまうのではないかと思った。それよりも、今はこの時間が止まってしまえばいいのにとさえ思えた。



※※



 昼時になり、展望台の近くにあるレストランでランチをすることになった。ご飯を食べながら、他愛無い話をしていた。なかでも一番盛り上がったのは初対面のときだった。

「今でも忘れられないんだけど!!あのときのカケル」

 腹を抱えて笑っている。

「やめてくれよ、その話。思い出すだけで恥ずかしいんだから!!」



ーー回想ーー



 入学式の日。首根っこ掴まれ、半ば引きずられるようにして学校へ連行されていた。

「学校なんか行きたくねーよ!!クソババア!!」

「うるさいわね!!イヤでも高校までは我慢して通いなさい!!それにここはいろいろな事情を抱えている人が通っているみたいだから、勉強嫌いなあんたも中学のときみたいに無理しなくていいのよ!?」


 俺は中学時代、成績が上がらなかったので塾に無理矢理行かされ、辛い日々を送っていた。

 校門に着くと、親と一旦別れた。逃げるチャンスだと思い、踵を返すと正面から可愛い子と母親がやって来た。振り向かない男子はほぼいないくらい、みんな彼女に見惚れた。当然俺もその1人。あんな可愛い子と3年間一緒とかサイコー過ぎる!!

「じゃあ茜。あたしは仕事に行くけれど1人で大丈夫?」

 不安そうな表情で彼女に訊く。

「大丈夫だよ!!梨花ちゃんとも同じ学校だし、それに何かあったら連絡するからさ。安心して仕事行ってきて」

 明るい声を聴いて安心したのか学校を後にした。母親もかなりの美人だったな〜〜。彼女に見惚れていたら、手から鞄がすり抜け、中身をぶち撒けてしまった。それに気付き、一緒に拾ってくれた。視線を落とす彼女のまつ毛が長くてめちゃくちゃ綺麗。

「はい、コレで全部かな?」

「ありがとう……」

 彼女と言葉を交わしてしまったよ。心臓がバクバクして耳まで熱い。

「ねぇ、何組?」

「さ…3組です」

 緊張のあまり噛んでしまう。めちゃくちゃ恥ずかしい!!

「3組なんだ〜〜!!あたしと一緒だね。あたし、木内茜。あなたは?」

 笑顔を向けながら訊いてくる。

「梶原……カケル」

 徐々に免疫ついてきた。しかし、1年間一緒なんて……。学校に行くのが楽しみになった。

「きういさん!!これからよろしく」

意気揚々と噛まずに挨拶できたことに喜びを感じていた。すると、クスクスと笑われてしまった。えっえっ、今のなんかおかしいところあったか?

「きうだよ〜〜。あたしは別にいいんだけど。きういでも。キウイフルーツみたいで可愛いし!!」

「イヤイヤ、良くないです!!じゃあ茜さんと呼んでもいい?」

「いいよ茜で!!あたしもカケルって呼ぶから」

慌てて訂正するものの、しばらくは俺の顔を見るなり思い出し笑いされてしまう始末。



ーー現在ーー



「あれは、あたしのなかで衝撃的だったな〜〜」

「俺も改めて思い返すと恥ずかしい……。でも茜のおかげで学校が楽しくなったのは間違いないかな」

 頬だけでなく全身が火照ってくる。冬なのに汗まで出てきた。

「あたしも」

 茜の頬も赤くなり、俺を見ながら照れている。

 言わなきゃ……じゃないと一生、後悔することになる!!茜の大切な思い出の場所で。それに今ならはっきりと、自分の気持ちを伝えられる!!茜のことが好きだということを。



続く。

 

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