第6話 〜あのコを解放したいんです!!【後編】〜

 あの画像を見た学校の連中はきっとヤツの味方をするだろう。それにひきかえ俺は……。普段からの態度も良くないから、誰も信じてくれないのも目に見えている。体が震え始め、掴む手の力も抜け始める。ヤツはその隙をついて俺を思い切り突き飛ばした。

「カケル!大丈夫か!?」

 声を掛けながら、如月が俺のそばに駆け寄った。「大丈夫」と言いながら立ち上がる。そのとき、下の階からドタドタと階段を上がってくる音がした。どうやら心配して戻って来たみたいだ。

「どうしたの?何かあった!?」

「何でもないよ。それより聞いてくれよ。さっき梶原に暴力を振るわれそうになったんだ!!ほら!証拠もバッチリ撮ってある!」 

 さらに見せた後、続けて言う。

「しかもさ、この俺からお前を奪うって宣言してきたんだけど。コイツを追っ払いたいからさ、コレをSNSにアップしようと思うんだ!!そうしたら、俺らを引き裂く連中はいなくなる。良い考えだと思わないか?茜」

 彼女は俯いてしばらく黙っていた。今のアイツはヤツの操り人形状態だ……。だから、当然アップしろって言うに違いない!!もうこれで完全に終わりだ……。

 全てを諦めたそのとき、「ダメ!!」と言う高らかな声が沈黙を引き裂いた。顔を上げると茜が真剣な表情でヤツを見ていた。するとヤツが高笑いをして「俺に歯向かうっていうのか面白い!!梶原だけじゃなく、お前のハメ撮り画像も一緒にアップしてやろうか!?これで中学時代と同じように……いや、一生学校に来られなくしてやる!!」と高らかに放ちスマホをいじり始める。

「なんで……?」

 彼女に問いかけると、笑顔を見せながら言った。

「アンタだけに辛い思いはさせたくないだけ!!深い意味はないわ」

「ねえ……どうするの?この状況。あんなヤツに負けたままでいいの!?」

 梨花さんがオドオドした様子で訴えている。

「ねえ大介くん!!さっきから何やってんの?」

 如月が高速フリックでスマホを操作している。こんなときに一体何やってんだ?

「んーー。ちょっと待ってて梨花。コイツより先に仕掛けないといけないから」

 そう言って彼はひたすらスマホと睨めっこをしている。一体何をする気なんだろう。

「はい!お待たせ。アップしたぞ!!お前の悪事を全てな!!」

 そう言ってスマホの画面を見せてくれた。

「囁きサイトとutube(動画サイト)にお前の音声を上げといたぜ!!これでお前も終わりだなぁ!!」

 スマホ画面を覗き込むと、ヤツの表情がみるみるうちに青ざめていった。

「そんなのいつ録っていたんだよ?」

「実はこの部屋に入ったときから、ずっとボイスメモを起動していたんだ。動かぬ証拠があるから、カケルの写真がアップされてもコレで反論はできる。だけど、木内さんの画像はアップされてはマズいからな。それにどうせ後で上げることが分かっていたから、ヤツがアップする前に動いたんだ!!」

 ドヤ顔で語っている。まあ俺も茜も如月のおかげで首の皮一枚繋がったワケか。

「もう!!それならそうと先に教えてよね!!心臓に悪かったわ」

 梨花さんが頬を膨らませて訴えている。その様子が可愛いと思ったようで、笑顔で彼女の頭を撫でながら言った。

「ごめんごめん。敵を欺くにはまず味方からっていうだろ?それに梨花が全力でテンパってくれたから、コイツに気付かれずに済んだんだ。ありがとう」

 顔がりんごのように真っ赤に染まる。骨抜きにするとはさすがだな。

 すっかり腑抜けているヤツに如月が取り引きを持ちかけた。

「カケルと木内さんの画像を一枚残らず全て消し去れ。それから木内さんとも別れろ。そして今後一切関わってくんな。この約束を守ってくれたら、この音声も消してやるよ。お前もまだまだ楽しい学校生活を送りたいだろう?まあ、お前が彼女たちにしたことを考えたら、これだけじゃ物足りないけどな!!」

 般若のような表情で追い詰める姿を見て改めて、敵に回したくないと思った。

「わ…分かった!消すよ、消します!!」

そう言いながら画像を消去する。

「それから今までの木内さんに対する罵詈雑言もだぞ!!」

「はい!!」

 ヤツは焦りながら消去作業をしている。見ていて滑稽だ。

 数分後、作業の確認を終えて家を出ようとしたとき、ヤツの母親と鉢合わせた。

「あら、もう帰るの?差し入れ買ってきたのに」

 お菓子がたくさん入った袋を見せながら言う。

「すみません、急用を思い出したので失礼します。お邪魔しました〜〜」

 如月がスッキリした表情で家を出た。分かりやすい奴め。



※※



 みんなで駅へ向かう途中、茜の足が止まった。

「どうしたの?」

「みんな、助けてくれて本当ありがとね!!」

 深々と頭を下げる。

「いいよ。礼なんてさ、友達なんだから。それにカケルのおかげで梨花のことも知れたしな」

「うん……」

 夕焼けが顔に当たって茜の頬が赤く染まった。そういえば、何か大事なことを忘れているような気がする。

しばし考え、ようやく思い出した!!ポケットに手を入れながら彼女に声を掛けた。

「そういえば今朝、赤いリボンを拾ったんだ。コレ茜のだよな?」

「ありがとう!!お気に入りだから、すごく嬉しい!!」

 嬉しそうに受け取って、ゴムの上から付けて見せた。やっぱ似合うな。

「それから、謝らないといけないことがあるんだ……」

「なーーに?」

「茜の気持ちも考えず、たくさん告ってごめん!!知らなかったとはいえ、俺もアイツと同じことをしていたなんてな。今思い出しても最低だったと反省してる!!本当ごめんなさい!!」

 土下座をするんじゃないかと思うくらいに頭を深く下げて詫びた。

「いいよ、もう。気にしなくて」

 許してもらえて良かった。もう付き合いたいという気持ちよりも、またこうして話せるだけで充分嬉しかった。

「それよりも、こっちこそごめんなさい。事情があったとはいえ、話しかけてくれたのに無視して……」

「気にするなよ。過ぎたことだし」

「うん!!ありがとう」

 言いたいことを全部言えてスッキリした。本当はもっと話したいし、訊きたいこともあるんだけど、今日はこのまま解散となった。名残り惜しい気持ちになった。それに明日は土曜だから学校も休みだ。思い切って予定を訊いてみた。初めて誘うから、めちゃくちゃドキドキする。

「あのさ……明日って空いてる?」

「うん……」

「まだまだ話したいことがあるんだけどさ。良かったら……明日一緒に出掛けないか?」

「それって……デートのお誘い?」

 頬を夕焼け以上に赤らめて、上目遣いで俺を見る。めちゃくちゃ可愛い過ぎる!!

「そうなるのかな」

「楽しみにしてる」と満面の笑顔で返した。 

 小さくガッツポーズをすると、如月たちがニヤニヤしながら見ていたから、思わず手を後ろに隠す。これは後からめちゃくちゃ訊かれるやつだなぁ。

 帰路につきながら、茜と明日の連絡を取った。行き先は彼女の希望で東京スカイタワーに決まった。待ち合わせ場所と時間も決まり、あとは明日を迎えるだけ。楽しみ過ぎて寝不足なんてダサいから、早めに布団に入った。



続く。











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