第5話 ~あのコを解放したいんです!!【前編】〜

 作戦会議を終え、駅のホームで解散した。結局、如月には『茜がヤツから俺と話すことを禁止されたことを聞いた』と相談をし忘れていたことを思い出して、スマホを取り出してそのことをメッセージで伝えた。すると、すぐ返事がきて『分かった。教えてくれてありがとう。あまり気に病むなよ!』と励ましてくれた。本当良い奴だな。



※※



 翌日、下足箱で茜とばったり出会った。無視されるのを覚悟で「おはよう」と挨拶をする。彼女は俺を見るなり慌てた様子で上履きを持って走り去っていった。いつも元気に挨拶してくれる分、なんだか寂しい気持ちになった。あんなに元気がない茜は初めてだ。彼女が走り去った方向を見つめていると、背後から「おはよう」という明るい声がした。如月と梨花さんだ。

「おいおい、朝から悲しそうな顔すんなよ。そんなんじゃ木内さんを奪還できねえぞ!」

「わかっているよ!!朝からやかましい奴だな」

 俺らが言い合っていると、梨花さんが何かを拾っていた。

「これって……」

 赤いリボン、茜のだ。さっきすごく慌てていたから、そのとき落としたのか?

「あとで教室に行ったとき届けておくよ」

 梨花さんからリボンを受け取ろうとしたとき、誰かが梨花さんの手を掴む。

「俺が届けておくよ。梨花」

 梨花さんの表情が強張る。

「あ…あんたは」

「久しぶりだなぁ。またお前と会えるなんてな。同じ学校だと風の噂で聞いてはいたが。まさか俺のことが忘れられずに追ってきてくれたのか?」

「そんなわけないでしょ!!誰があんたなんかに……」

 腕を胸元に引き寄せられ、「今度こそ俺の女になるか?」と耳元で囁いた。彼女の表情がみるみるうちに青ざめていく。ヤツの腕を如月が掴んだ。

「……いつまで掴んでいるんだ。早くその手を離せ!!」と怒りをあらわにする。

「お前梨花の何なんだよ?」

「梨花の彼氏だ!!」

「へぇーー。なかなか良い男と付き合ってんだな。良かったな」

 ヤツが手を離すと、彼女はよっぽど怖かったのか如月の後ろに隠れた。茜を虐げたり、彼女を怖がらせて喜ぶゲスな男は本当に許せない!!気づいたら俺は宣戦布告をしていた。

「桜木!!お前にこそ茜はふさわしくない。必ず別れさせてやる!!」

 周囲ではしばらく沈黙が流れていた。それから少し経った後、苦笑しながら「面白い。やってみろよ!!」と俺の挑発にのってきた。教室へと向かって行くヤツの姿を見送った後、一気に全身の力が抜けて床に座り込んだ。もう後には引けない。啖呵切ったからには絶対に。



※※



 梨花さんからリボンを受け取って席に着く。いつ渡そうか。話しかけようとすると、すぐ席を立って友達のところへ行ってしまうし、それに話しかけても無視されてしまう。仕方ない……返せるときに返そう。それにしても、アイツと付き合ってから本当に元気がない。髪型だっていつも凝っていたけど、最近はハーフアップで簡単に済ませている。それから、さらにやつれているような気が……。心配した梨花さんが茜のそばにずっといてくれている。見かねた俺らは当初の予定より少し早いけれど、作戦を実行することに決めた。


 俺たちの作戦は『2こと』といったシンプルなものだ。


 茜とヤツが2人になるのは昼休みと放課後のみ。HRが終わった後、教室を出ようとする彼女を梨花さんが引き留めた。

「待って茜ちゃん!一緒に帰らない?」

「ごめんね。桜木くんと一緒に帰らないといけないから……」

 渋っているとヤツが迎えに来た。

「遅いぞ!HRが終わったらすぐ帰る約束だろ?」

「ごめんね」

「ほら行くぞ」

 彼女の腕を掴んで行ってしまった。ヤバい2人にさせないようにしていたのに、一発目で作戦失敗かよ!!俺たちもバレないように後をつけた。



※※



 桜木の家の最寄り駅に着くと、茜の足が止まった。

「どうしたんだよ?」

「行きたくない……もうイヤなの」

「おいおい俺に逆らうっていうのか?別に俺はいいんだぜ。お前の過去と写真を学校中にばらまいてやっても良いんだぞ」

 そう言ってスマホの画面を見せつけた。彼女は青ざめてそれ以上は何も言わず、引きずられる形でヤツの家に向かって行った。


 一体どんな写真なんだ?


 かなり気にはなるが、今は黙ってつけることにした。そこで如月が俺に耳打ちしてくる。

「どうする?動くか?」

「いや、まだだ。できればさっきの写真を手に入れたい。あれがある限り茜は自由になれないようだ」

「アイツは用心深いから、なかなか手強いわよ」

「一体どうすれば……」

 考えている間に2人は家に入ってしまった。すると、入れ違いでヤツの母親が出てきた。チャンスとばかりに気付いたら身体が動いていたんだ。

「すみません!!俺たち勇樹くんの友達なんですが」

「あらそうなの?ちょうど今、茜さんと帰ってきたわよ」

「今、家には2人きりなんですか?」

「ええ。私は今から夕飯の買い物なの。私が戻る頃には、いつも茜さんいないんだけどね」

 家族がいない間にやることなんて決まっている!!

「今日勇樹くんと一緒に勉強する約束をしていまして」

「そうなのね。鍵は開いてるからどうぞ」

「ありがとうございます!!」

 俺たちは部屋の場所を聞いて急いで向かう。

「いやぁ!やめて!!」

「茜!!」

 駆けつけたとき、2人ともひどく驚いていた。押し倒された茜の服が乱れていて、さらに胸元にはキスマークがたくさんつけられていた。

「何でお前らがここに!?」

 言葉よりも先に手が出ていて、気づいたらヤツを殴っていた。

「梨花さん!!茜を連れて出ろ!!」

 2人の姿が見えなくなったことを見届けた後、ヤツを睨みつけた。

「人んち入ってきて、いきなり殴るなんてご挨拶だな」

「うるせえ!!茜にあんなことしやがって!!許せねえ!!」

「何言ってんだよ。俺らは付き合ってんだ。あれくらい普通だろ。それに彼女も同意の上でやってたんだ」

 乱れたシャツを直しながら淡々と話す。

「嫌がっていたことが分からないのか?」

「分からないね。むしろ喜んでいたのかと思っていたよ。ほらアダルトビデオとかでもあるだろ。そういうの。それに興奮しないか?」

 ニヤニヤしながら言っているのを見ていたら、怒りがさらに増した。

「ふざけんな変態ヤロウ!!」

 叫びながらヤツの胸ぐらを掴み、殴りかかろうとした。すると如月に手を掴まれて「やめろ!!暴力じゃ何も解決しないぞ」と止められてしまった。

「離せ!!こんなヤツと話し合ったって無意味だ。それに画像を消さない限り、またアイツが苦しむことになるんだぞ!?」

 如月と言い合っていたとき、スマホを向けられていた。

「……こんな動画SNSに投稿するだけで、人の人生を簡単に狂わせることができるんだぜ?エグいよな〜。これアップしてもいいか?招かれざる客が俺に暴力を振るう瞬間を」

 追い詰めたつもりが追い詰められている。もし本当にアップされたら、俺一体どうなってしまうんだ!?



続く。






















 



 


 









 






 

 














 


 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る