第11話 ドーンキャンベル

野神慎也の机の電話がなった。秘書が来客を告げた。

「来客」

と野神慎也は思った。それは二つの事柄においてだった。

まず野神慎也は辰巳情報サービスしてにいることになっている。まりえプロジェクトの本部にいる事は誰も知らないことになっている、そしてまりえプロジェクトの本部は存在が隠されている。来客などある筈がない。シンディーのときだって、奴は辰巳情報サービスに来たのだ。

野神慎也は恐る恐る尋ねた。

「誰」

「それがー」と煮え切らない。

「ハーアーイと電話からノーテンキな声が聞こえた。

親父だ、いやホワイトハウスの幹部の所在は把握している。確か親父は補佐官室いにいるはずだった。まあ親父ならそんな工作は朝飯前だろうが。

なによりトップシークレットで 最大級のセキュリティーが掛かるまりえプロジェクトの本部にいとも簡単に訪問できると言うことがあらためて親父の力に空恐ろしさを感じた。


「慎也、久しぶり」

「あ、はいご無沙汰しております」悪口オンパレードの野神慎也も本人を前にすると大人しい。話は休憩室だった、まりえプロジェクトの本部に部外者はこないので、来客など想定していないので応接室なんて物がない。会議室は幾つもあるがすべて埋まっている、休憩室というのは細やかな野神慎也の抵抗だった。

「お聞きしたいんですが如何やってこの本部に」

「ミスター山本に電話したらここをおしえてくれた。ついでに入り方も」ミスター山本というのは山本浩一陸将で現在の統合幕僚会議義長だ。幾ら統幕議長だからといって、この国家機密を簡単に教えるなんてどうだと思ったが、まあドーンにあがなうことは出来なかったと言うことだ。

ミスタードーンはそのデップリしたワイシャツに絶対ベルトが回らないからだろうと思っているいるが、ぶっといサスペンダーでズボンをつり、鼻の下には巨大な口髭をはやしている。

「やあ、慎也、年取ったな、何年ぶりだ」

「十年ぶりです」

「そんなになる、お互いに歳をとるよな」

「ミスタードーン、そんな話をしにきたわけではないですよね。だいたい所在をホワイトハウスにしたままここにいるなんて」

「お忍びだよ」

「その割にお付きが五十人くらいいますよね」

「あっあれはね、リンダにちょっと真也に会いに行くって言ったら、ボブとジョンに言付けちゃってさ、絶対に行くなって、どうしても行くなら護衛をつけるっていうからさ」

ボブは国防長官、ジョンはCIAの長官だ。ちなみにいにリンダは親父の補佐官としての秘書だホワイトハウスのスタッフには個々に秘書が複数つく、そしてすべからく有能だ。それもびっくりするほどにバーバラにしろリンダにしろ本人の分身のようだ。おそらく親父がいなくても、誰にも知られずにその変わりがっ十分にできるのが

「大統領とか主席補佐官には言ってきたんですか」

「なんで」

「なんでって。上司でしょう」

「上司?」なんでそこではてなマークが付くんだよと心の中で突っこんだ。

「ああ、そういえばそうだ。忘れていたよ。慎也、思い出させてくれてありがとう」何処まで惚けたオヤジだ。

「はあ」大統領と主席補佐官は上司とは思っていなかったということか。

つまり単独で動いているということか。

「とにかく、こちらからも警護を」

「いやいいよ、だって五十人も居るんだからこれ以上増えたら目立つからね」

その風貌ですでに目立っていると位う言葉を野神慎也は飲み込んだ。

「どこに泊まっているんですか」

「いやーまだ決めていないんだよ、慎也のところに泊めてくれよ」

「はああ」

「いいだろう、どうせ独身なんだし」嫌そういう問題ではない。

「夕飯は炉端焼きがいいな。うまいんだろう。あっシンディーも呼ぶか」


結局都内の炉端焼き屋で怪しいげな外国人二人と野神慎也は食事をする事になった。一応セーブはしたが、三人あわせて八十人からのシークレットサービスやspが周辺にいる、幾ら警護のプロ達とはいえこの人数になると流石に目立つ、ちなみにほぼ満席の店内の半分は警視庁、防衛省、シークレットサービスの混成だ。

「うーん旨い、大将、良い仕事してますね」親父が片言の日本語でしゃもじのお化けを持っている人に声をかけた。

「ありがとうございます、でも大将はあっちなんですけれど」と笑いながらう。

「おお、失礼しました。私としたことがミステークでした」と親父が大声で笑った。このオヤジがアメリカ合衆国政府の裏番だとは誰も思わないだろう。

「ミスタードーン、統幕議長に電話したってことはもうバレているといことですね」

「ああ、ミスターヤマモトが一席設けるって言うんだけど。お忍びだって固辞した。ノコノコ行ったら誰つれてくるか分からないからさ」

「そうですね」と野神慎也は答えた、そうだ、あまり会いたくない閣僚が来てしまうだろう。

「慎也」とシンディーが言った」

「何」

「ミスタードーンにあまり食べたり飲んだりさせないでね」

「なんで」

「医者から止められているから」

「ああ」シンディーがそんなことを言うことは。何か重大な健康的な何かを抱えているということか、オヤジだってもう良い歳だそろそろ八十になるのではないか。



風呂場からシャワーの音が盛大に聞こえる。さらに唸り声のような鼻うたがかぶる。

泊めろとは言われたが、まさか本当に来るとは思わなかった。本来ならお付きと帝国ホテルのスイートあたりだろう。なぜうちなんだと野神慎也は思ったがオヤジには誰も逆らえない。風呂から出てきたオヤジは綺麗に丸くでぱった腹にバスタオルだけ撒いて上機嫌で冷蔵庫を漁る、

「なんかないのか」

「ビールくらいしかないですよ」

「日本のビールいいね」と言ってあられもないお姿で缶ビールを煽った。

「なんでうちなんですか。もっとセキュリティーのしっかりしたところに泊まればいいじゃないですか」

「ここが一番しっかりしているんだ。ホテルは信用できない、要人となれば仕方が無いから、みんなで確認するが、自分のためとなるとね」

「イヤ、十分要人ですよ」

「この部屋はよくできてる。感心したよ」

「いえ私ではなく、まりえプロジェクトの三部がやってくれました」

「だからこそここにきた、まあ座っているくれ」俺の部屋だという言葉を飲み込んで、野神慎也はミスタードーンの前に座った。どうやらやっと何故来たのか話す気になったようだ。

「実は私は正義感の強い男だ。国防省に入ったのだって国のためというより国民のためだ、だからこそ軍人にはならなかった、その姿勢は40年間貫いてきた。お陰で山のような敵を作ってしまったが。同時に山のような仲間もできた。国防省とCIAを行き来して両方のトップもやった。しかしなかなか、思う様な世界は作れない。そんな時軍事担当の補佐官の打診を受けた。私は飛び上がって喜んだ。これでこの国をよくできると、ところがどうだ。いざホワイトハウスに行ってみると。大統領は支持者最優先だ、主席はそれを遂行しているだけだ。その時は幾ら点数稼ぎでも、いい方向にうごかしているなら、それを手伝おうとおもった。政権が変わると今度は主席補佐官に任命された。今度こそ国が変えられると思った。ところが大統領はとんでもないない奴で、これまた撃沈だ。そこからは主席にと言われても全て断った。国防担当補佐官は変な奴にかき回させるのが嫌だったから仕方なく引き受けた、そこからの私は生きる屍だ。そんな時なんとこの私が余命宣告された」

「余命」と野神慎也は小くさけんだ。

「まあそれはどうでもよろし良い、ただ思った、自分はこの世界を変えるために、権力を握った。ほぼなんでもできる。なのにだ世界は何も変わっていない、貧困や格差、人種の差別、は以前この世界に蔓延している国によっては弱い者が理不尽に辛い目に遭っている。私はこれほど権力を握ったのに、何一つ解決してあげていな、なのに余命宣告だ。そんな時に天からの助けが舞い降りた。それがまりえプランだ」

「まってくださいそれは」

「そうだ、今慎也が思った通りだ」

「いやでも、それは」

「私の前でそんなに驚いたフリはしなくていい。慎也だって思っていたはずだ。そしてそういう風に思っている人間は割といる。世界はそれほど捨てもんじゃ無い。お客さんがいるだろう、慎也のところでは目立つので、調査しにくいと思って、詳細な内定を掛けさせた。留学生の子の元締めはその国の内務大臣だった。あの国は軍事政権で、なんとかやっているが問題は山積みだ。政権とは別に独断でやったようだ」

「あそこは外務省に正式に問い合わせがありきました。惚けさせましたが」

「だからだろう、ラチが開かないということで、実力行使に出たと言うわけだ。ちなみに他のお客さんも国としてではなく、政府の一部がやっていることだ。まあうちもそうだが」やっと白状した。今回のことはオヤジの独断というわけだ。

「別に慎也も立場があるだろうから、なにしろということでは無い」いや何もするなというのは十分しろと言っている様なものだ。

「慎也、日本風にはなんて言うんだっけ、ああ慎也腹を括れ」

「いや、」不穏な沈黙が流れた。そしてどれくらいたったかわからない頃親父が助け船をだすように言った。

「さあ寝るか、明日は若い娘っ子達とディズニーランドだ」

「直接会うんですか」

「えっ。良いって言ったじゃないか」

「いやそれはシンディーにで。孫くらいの子達と何を話すんですか」

「話さないよ、遊ぶだけだ」

嘘つけと野神慎也は心の中で叫んだ。

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