第10話 バーバラ

とは言われたものの、さて阿部まりえをシンディに合わせるもはどうしたものか。

シンディの本心がわからない。

何をねらっている。

確かにシンディは正義を重んじる奴だった。

本気で世界を変えたいとおもう娘だ、いや、娘というのは学生時代の話だ。それに学生時代だって、決して美しいとか、可愛いという感じではなかった。

それにしても、最後の真顔の言葉が気になる、まさか、しかしいくらシンディーでもそんなこと、いやまて親父の意を組んでいるとしたら。

親父なら出来るかもしれない。確かに国を思う気持ちは強かった。

だから政府組織に入るとばかり思っていたのに、しがない政府系のシンクタンクの研究員だ。もっともそれは野神真也も同じで、辰巳情報サービスは実質的に政府のブレーンを担っている。考え方は二つだ、アメリカが阿部まりえをどう捉えているかだ。まりえプランが世界の政治体制を崩壊することは確かだ、かつてぶっ壊すと のたまわった首相が居たが、そんなものではない。もしこの理論で政府を変革しようと思えば、最低でも明治維新くらいのインパクトだろう。まさか本気でシンディーはそんなことを 考えているのか。

そしてそのために阿部まりえと会いたいと。

だとすれば二人を逢わせるわけにはいかない。

そんなことをしたらこのまりえプロジェクト自体がの意味がない、というかここ数年、莫大な予算と各省庁横断的に人を集めたこのプロジェクトがやってきたこと自体が全く無駄だったという事になってしまう。

もしそんな事にでもなればまた閣議に呼び出され、何もわかっていない閣僚からトンチンカンな質問と意味不明な叱責を受ける事になる。

そして単なる情報として、知っておきたいだけと言うなら簡単だ阿部まりえに合わせてもいい。むしろアメリカまで絡ませれば、負担が軽くなってそれはそれで良い。


野神真也は自分の席に深く腰掛け後ろにそった、背骨が伸びて気持ちがいい。さてどうしたものか。と考えて野神真也はある事に気付いた。なぜシンディーは阿部まりえに会わせろと言ったのか、アメリカが阿部まりえに会いたければ、勝ってに接触するはずだ。既成事実か、許可はとったぞという。ならシンディーは阿部まりえにすでに接触しているか。野神真也は電話に手を伸ばしたが思いとどまった。そう言うことのためにセブンガールズが付いているのだ。

野上慎也はもう一度電話をてにとった。

かけた場所は、シンディー職場だ。シンリーの職場はワシントンの裏路地にある。怪しげなビルの中にある。目立たないようにと思ったんだろうが、怪しげすぎて、逆に目立つ野上慎也も一度しか行ったたことはないが、まあ凝りすぎて、策にハマった形だ。

「あら。慎也どうしたの」とノー天気な声が聞こえた。シンディーの秘書のバーバラだ。秘書と言ってもほぼパートナーだ、シンディーのことは逐一知っているはずだ。

「シンディーが来たぞ」

「あらおかしいわね。今はフロリダにバカンスのはずなのに」とぼけると言うより、ジョークで言っている。つまりは人に聞かれたら。そう言うことになっていると言うことだろう。

「ドーンの親父はどこにいる」

「あら慎也。合衆国大統領国家安全保障担当補佐官に向かって親父呼ばわりは。暗殺されちゃうわよ」

「お前が言うと洒落になっていないんだよ」

「ミスタードーンはホワイトハウスで暇しているわよ。」

「親父は動いていないのか」

「重石だからね」

「今回のことは。親父とシンディーだけで動いているのか」

「他を絡ませるとめんどくさいのよ。特に主席補佐官が」

「ああ、たしかにな」

「ドーンの親父。ことドーンキャンベル。国家安全保障担当補佐官、これは結構な確率で主席補佐官が兼務している。でもドーンは合衆国政府でもビックネームだ、CIA長官から国防長官を歴任している。更にFBIにもいたらしいい。歴任している人間は他にもいる、というか、既定路線なので割といるがドーンの違うところは、それぞれの組織の影響力が半端では無い。ほぼドーンが牛耳っていると言っても過言では無い。だから歴代の政権でドーンは補佐官になる、これは敵に回すとめんどくさいので身内に取り込んでおこうということだ。その分敵も多い、その際たるものがげん主席補佐官だ、ところがドーンの親父にものは申せない。なぜなら実働部隊を掌握しているからだ。その気になればクーデターだって起こせるのではないだろうか。現大統領としてはめんどくさいので主席補佐官に押したが。そこはドーンの親父、そんな忙しいポジションは嫌だといっていたが、後々のことを考えた大統領が頭を下げて国家安全保障担当補佐官になってもらった。親父自身は前の前の政権で主席補佐官ををしているはずだったが。その忙しさに切れてしまい、本来は相当に忙しいはずなのに、特別扱いで暇をしていると言うわけだ、とは言え、FBI、CIA、国防総省の長を長くやって来たのだから能力的には問題ないはずだから。単に我がままな親父になっているといわけだ、その親父が懐刀のシンディーを極秘裏に日本によこし、政権内部をおかしな力で押さえている。

何を企んんでいる。

「なあバーバラ、親父と直接話したい」

「ああ、今はやめといた方がいいかな」

「なぜ」

「今結構ナーバスになっているから、いくら真也でも暗殺部隊送り込まれちゃうかもよ」

「だからお前それ洒落になっていないんだよ」

「いや、冗談抜きのマジよ」

「なんだよそれ」ドーンの親父からすれば、朝飯前のことだ。親父が本気になれば、陸上自衛隊に守らせても、同じことだ。

「そういえば慎也、なんか閣僚のみなさんと関係が悪化しているらしいじゃいない、ミスタードーンが心配していたわよ、慎也も大人気ないなって、政権幹部とは良好な関係を構築しないといけないって」

お前だけには言われたくないと野上慎也は思った。合衆国大統領を頭ごなしに怒鳴りつけるようなやつだ。

「まあ親父によろしく、シンディーを派遣しってくれてありがとうございますって伝えといてよ」

「オッケイ」


仕方なく、野上慎也はシンディーを泳がせることにした。


その夜、野上慎也は谷田部綾香に電話をした。基本的に電話連絡は緊急に限られる。ただの携帯ではない。谷田部綾香以外の人間が使おうとすると全データーが消去される特別仕様だ、それも人知れず、過去2回、データーが消えていたことがあった。誰かがいじったのは明らかだが、意図的なのか偶然なのかいまだわからない

「私だ」

「スパイごっこですか」谷田部綾香は笑いながら返事をした。この電話に着信があるということは通常ではない。谷田部綾香も緊張はしているはずなのでそれを誤魔化すために軽口を叩いているのがわかる。

「いや、たいした用事ではないんだが、近日若作りの怪しげなアメリカ人のおばさんが君たちに近づいてくると思うが、適当にあしらっておいてくれ、邪険にすると後がめんどくさいから」

「どういう素性の人なんですか」

「合衆国のパシリできた薄汚いおばさんだ、他国なんだけど、お客さんの素性を調べてくれたり、役に立って入るから、おっぱらえないえない。」

「何か喋ってはいけないこととかありますか。」

「別に君たちが知っていること程度は、化物おばさんは分かっているから、気にしなくていいよ。隠しておける事柄はないから」

「あのー」

「何」

「形容詞が段々ひどくなていくんですが」

「会えば僕の気持ちが分かるよ」


シンディーの本当の目的がわからない。すくなくとも親父か独自で動いているのが気になる。政権に黙ってまりえプロジェクトに絡んでくというなら、通常政権が考えないことを考えているということか。それはすなわちまりえプロジェクトの具現化。

いやまさかそんなこと、いくら世界を憂慮しているとはいえ、アナキストや革命家ならいざ知らず、政権の中枢にいる人間がその政治体制を自ら壊すか、いやあの二人ならやりかねない。野神慎也は前後策を練るため、プロジェクトの最高会議を招集するための指示を出すため。電話をとった。そして考えた、ではそれを自分は防止できるのか。そして、決して考えてはならないことを考えた。


自分は本当にそれを防止したいのか。


野神慎也は持っていた電話を戻して椅子に深く座り、大きなため息を一つついた。



「さあ、さあ。なんでも好きなもの頼んで。全然遠慮しなくていいよ。和牛のステーキとかでも構わないよ」

ホテルのレストランである。Aチームが全員いる。今日はCチームが阿部まりえ担当だった。当然全員が緊張の絶頂で座っている。ホテルのレストランと言っても客はまばらで。3人の警護サブの娘たちが目配せをしている。まばらな客は只者ではなく。完全な貸切でさらに盗聴や通話を防止するためもジャミング電波が張り巡らされている。ならいっそレストランではなく部屋を借りた方がいいのではと思ったが。ここは緊張させないように、気を使っているということか。

「あの、これはいった」と谷田部綾香が口を開いた。

「えー、若い人たちとお茶でもしたいなって」

「お茶のわりに、物々しいいですね。ここにいる人みんな、お仲間ですよね。盗聴防止の電波もとんでいるし」

「さすが、タダの女子大生ではないということね」谷田部綾香は答えなかった。

「慎也にはなんて言われたの」

「薄汚い化け物おばさんが来るから適当にあしらっておいてねって」

「ひどーい。夜道にきおつけて。電車のホームの一番前には立たないようにって言っておいてね」と笑いながら言った。

「あっごめんね、自己紹介、私は真也と大学時代の同級生で今は政府系のシンクタンクでOLをしているのよね。休暇に同級生に会いにきたってわけ」

いや違うだろうと全員が思った。

「私たちは」

「ううん。大丈夫。みんなのことはBチーム、Cチーム含めて全員の三代前まで知っているから。ちなみにお客さんのことも知っているよ。やだそんな不思議そうな顔しないでよ。そういうお友達がいるのよね」

この怪しげなオバさんが言っている意味は全員が理解出来た。そしてそのことに全員ビビった。

「やだ、そんな緊張しないで、あたしは皆んなの味方だから。リラックス、リラックス」

リラックス何て出来るわけがない。皆んな、顔を見合わせた。

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