第9話 シンリーキャラハン

机の前の電話が鳴った、辰巳情報サービスからのホットラインだ。

「はい野神」野神真也は短く言った。

「第一部長にお客様です」

まりえプロジェクトでは第一課長だが、辰巳情報サービスでは野神真也は第一部長なのだ。

「客、誰」

「シンリィー、キャラハンという外国人のお客様です」

「君ねえ、今、僕は、まりえプロジェクトの本部に居るんだよ、確かにそっちにいることにはなっているけれど、わかるだろう適当に、、、、、」

「いえそれは重々承知しておりますが」この有能な秘書は、野神真也の物言いに若干腹を立てたようで、野神真也の言葉を遮った。

「ですがキャラハンさん全て分かっていようで」しまった、怒らせたかなと思ったが、まあ仕方がない。

「で今どこにいる、部長のお部屋に」

「はあ」とつい声を出してしまった。

「戻るにしても、時間がかかるよ」

「それもご承知のようです」まあそうだろうなと野神真也は思ったなにせシンリィーなのだから。


シンリィーは野神真也がハーバードにいた時の同級生で、すこぶる優秀だった。どこぞの役所にでも入るのかと思ってたら、しがない政府系のシンクタンクに入った。

そもそもそんなところに行くタマではないので、一体何をしていることやらと言った具合だ。しがないシンクタンクと言うところが味噌だ、辰巳情報サービスしてにしてもしがないシンクタンクだ、まさかそこが政府情報関係のセンターオフィスと知る人間は政府内でも一部だ、内調でさえ何故お前がしゃしゃりでてくるというクレームがきた事がある。まあシンリーのところも同じだ。


シンリィーとの約束は日比谷公園の噴水の前だった。

本当の密談はこう言うところの方がいい、まず盗聴の心配はない、無論双方に護衛がついて百メートル四方には誰も近ずけない。シンリィーはクリクリヘアーのブロンドで、年を考えない若作りの格好をしている。わざとなのか、本気なのか、アラホウであると言うことを考えると、痛い格好とも言える。見ようによっては、アメリカ人の若作のオバさんと、銀行員のような男が狭いベンチに座っているいる、本来ならあまりのアンバランスにかえって目立つが何しろ百メートル四方で警護が数十人づつ付いているので、一般人の目がないのが救いかもしれない。

「で、なんだよ」と野神慎也は不機嫌そうに口を開いた。

「あら、ご挨拶ね、学生時代の同級生がワザワザアメリカから会いに来たっていうのに」

「何を嗅ぎつけて来たんだよ」

「手伝ってあげようと思ってきたのに、まりえプランについて」

「話すことなんて何もない」

「なんか心配している、私はCIAでもFBIでもない、しがないシンクタンクの研究員だから」

「嘘をつけ、お前が国家安全担当の大統領補佐官直属だと言うことくらい、誰でも知っているんだよ」

「やだ、真也だって一緒じゃない、あっ違うか、あたしは、補佐官とはとても仲がいいけれど、真也は、閣僚のみなさんに喧嘩を売っているらしいからね」

「誰がそんなことを」

「風の噂よ」

「とにかく話すことは何もない」

「どうして、男って生き物は意地を貼るかな、手詰まりなのはわかっているんだから」

「なんか気分悪いな」

「阿部まりえの、身元不明のお友達の三人は素性がわかいないんでしょ、調べてあげたのに、冷たいな」

「本当か」

「ええ」

「やっぱりCIAじゃないか」

「違う違う、CIA とFBIに知り合いがいてね、お願いすると調べてくれるのよ、真也たちが動くと目立つし、内偵が入っているとばれたくなくて、放置しているんでしょう。アメリカが動くと意外と目立たないのよね」

「でどこなんだよ」

「やっぱり興味があるんじゃない」

「うるせいよ、早く言え」

「結論からいうと、イギリスと中国とカナダ、」

「カナダ」と野神真也は聞き返した。

「あら、意外そうね」

「あ、ああ」

「国家レベルではないみたいよ、本気で国を憂える人間が、そう言うことができる立場にあって、独断で監視をつけたって感じね。まあ、いっぱい監視と、護衛を付けているから。どうということはないか」

「そんなことはない。色々大変なんだ」

「で真也は阿部まりえをどうしたいの」

「どうってお前、守るんだよ」

「何から」

「阿部まりえにちょっかい出そうとする全てからだよ」

「その最大のメリットは」

「社会正義」

「本気で言っている」

「ああ」

「まあ確かに珍しいケースよね、普通は秘密を守るために、監視護衛をつけるけど、肝心の秘密はもう世界中に出回っている。

ねえ例えばこうは考えられない、阿部まりえを中心に世界を変えようとする勢力が台頭、阿部まりえを担いで、世界を変えようなんて集団が現れたりして、まあその方が世界のためかもれないけれど」

「オイオイそんな怖いこと言わないでくれよ」

「本当にそう思っている?」とマジマジと野神慎也はシンディーに見つめられた。それは本当にごくたまに見せる本気の顔だ。

「どういう意味だ」

「別に、あたしの知っている昔の慎也ならってだけ」野神慎也は言葉に窮した。流石にシンディーの真意がはかり兼ねた。すると急にいつもの調子に戻り。

「ねえ。そこで相談なんだけど」という

「なんだよ」

「阿部まりえにあわせてよ」

「本気か」

「ええ、もちろん」とシンディーはノー天気にわらった。どう見ても怪しいおばさんだ。

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