第8話 閣議
その日野神慎也は、閣議に呼ばれていた。閣僚とは読んでで字の如く閣僚の会議だ、だから閣僚と、その事務方以外が閣議に入ることは、異例という次元ではなかった、言うなればありえない、しかしこと内容がトップシークレットである。閣僚全員が集まると目立つ、ならば野上慎也が来る方がまだ目立たないということだ。
「でどうなんだねと」まずは官房長官が口を開いた。
「どうと言いますと」
「まりえプロジェクトの進捗だよ」進捗だあ、野上慎也心の中で舌打ちをした。進捗と言う性格のものではない。
「失礼を承知で言わせていただきますが、まりえプロジェクトは進捗と言う性格のものではありません。恐らく、いえ確実に阿部まりえが生きているうちは、続ける必要のあるプロジェクトです」
「生きているうちとは」
「言葉のとうりです、阿部まりえは今二十歳ですから、平均寿命が八十年としてあと六十年ですね、私を含めてここにいる全員が、死に絶えた後まで誰かに引きついで、行かなければなりません」
「まあなんだね」とかなり年配の農水大臣が口を開いた。
「ひと昔前のスパイ小説とかなら、強制拘束でもして一生外に出さない、なんていうのがあったがね」
野神信也はその閣僚を睨み付けた。なんて不謹慎なあ発言だろうと野上慎也は思った、おまけにシャレになっていない、ここは、閣議の席だ、しようと思えばできる権力の中枢なのだ。
「では、阿部まりえに信号無視でもさせて、逮捕、起訴、非公開裁判でもして、無期懲役を言い渡しますか、それとも、どこかの部署に命じて、事故に見せかけて殺害しますか」
「まあまあ野神君、たしかに不謹慎な発言だが、その辺で勘弁してやってくれ、農水大臣も反省しているし。ほかの閣僚の皆さんは、そうは思っていないから」首相が助け舟を出した。国会でなら野党の追及がやまない内容だが、ここはうちうちの閣議の席だ。
「すみません」野上慎也は短く誤った。
「まあ野上君も大変だと思うが。閣僚の皆さんも、まりえプロジェクトが最初に発足してからだいぶ顔ぶれがかわったんで、ここで一つ内容を確認する意味の兼ねて、もう一度説明してもらえないかな」
「はい分かりました。ではまりえプロジェクトの内容については、分かっていらっしゃるという前提で話を進めさせていただきます。まず内容としてはもうすでに全世界に広がっています」
「いいかね」と文部科学大臣が手を挙げた。
「はい」
「ネットに乗せた内容は、既に削除されていると聞いているが」
「はい。ですが,既にダウンロードされている可能性もありました。何しろ我が国でさえ、警察庁、防衛省、内調、総務省と全世界に網を張っている部署があるわけです。となればほかに国が世界に張っているネットの網に引っかかり、その場でダウンロードされている可能性は大きいです。その証拠に、阿部まりえには正体不明の友達が四人います。うち一人は留学生です」
「それは、どこぞの国が、接触を試みていると言うことかな」
「そのとうりです」
「どこの国か分かっているのか」
「いえ、留学生は国は特定できています、内偵を入れましたが、巧妙すぎて、証拠が取れませんでした、おそらく国家レベルの作戦と思われます」
「ならなんらかの手を打つべきではないか」といってその閣僚は口をつぐんだ、またそんなことしているに決まっていつだろうという雰囲気になろそうだったからだ。でも野神真也の返事は、意外だった
「手は打っていません」
「それは」閣僚は出鼻をくじかれた感じだった。
「手が打てないと言うのが正解ですね」
「それは」
「ご承知の通り、この案件は既に世の中に出てしまっています。そういう意味で機密ではありません、いかに世の中から目を向けさせないようにするか。現に阿部まりえがこの理論をネットに乗せたとき私は褒めるメールを打ました。良く勉強してますね、感心しました、また何か浮かんだら教えてくださいみたいにね、すると阿部まりえはこう思うはずです、学校の先生に褒められる程度なのかと、まさか世界を変える理論とは思わなくなる。そういう情報操作をこまめにして行くしかなのです。そうう意味でどこぞのエージェントになんらかのアプローチをすっればかえって目立ってしまいます。ちなみにそのほかの正体不明の友達も日本人ではありますが、どこぞの国のエージェントだと思われます」
「つまりこういうおことだよね」と総務大臣が口を開いた、一応野神真也の上司だ、そう言う意味で野神真也の言葉補足しょうとしゃしゃり出てきた。
「すでに世界に出てしまっているので、阿部まりえをどうすることもできない、とにかく国を挙げて、目立たないようにしょうということだね」
随分大雑把に要約してくれたなとは思ったが、まあそういうことだと野神真也は思ったので、あえて否定はしなかった。
「そういうことですね」
「だから下手に内偵をかけると、目立つから何もできないということだね」先ほどの農水相が理解したぞと言わんばかりに言う。
野神真也は自らの部屋に戻って考えた、大雑把とは思ったが、確かに閣僚たちに説明すにあの程度で良かったと思い始めていた。さらに詳しくなんって言っていたら、説明時間は三倍、それで理解されなかった可能性もある。
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