第5話 矢田部綾香
Aチーム筆頭の谷田部彩香は阿部まりえの事が嫌いではなかった。
いやどちらかと言えば好きな方だ。プライベートで友達になっていれば。確実に同じようなグループを作っていた。そして親友となって居ただろう。
谷田部彩香の父は警察官僚だった。阿部まりえがどういう人物なのか、知らされないまま、この任務を頼まれた。そして天下国家のためと信じて、粉骨砕身この任務についた、はじめ阿部まりえは最重要人物にして、危険人物と言われた。それを父から聞いて危険はないのかと一番最初に思った。話を聞くと阿部まりえが危険なのではなく、阿部まりえを拉致して利用すると危険なのだと言われた。父が警察官僚である。正義感は位人一倍強いと思っていた。さらに天下国家という言葉に自分がいかに弱いかも思い知った。お前しかできないという言葉にほだされて、この任務を引き受けた
でも同じように引き受けた娘が自分を含めて二十一人もいたのだ、ちょっと騙された感じもしたが、仕方がない。
初顔合わせは2月だった。まりえプロジェクトの本部で、二十一人が顔を合わせた。そこでチーム編成をされて、それぞれのヒストリーが確認された、問題のないところでは、そのままのヒストリーだった、非常に長帳場になるのでほぼ現実のヒストリーで調整された。でなければどこでボロが出るかわからない。チームは三チーム、これが別々の友達のグループということになる。AチームとBチームは別のグループで、阿部まりえを介してしか接触はないということになっている。ところがそこにこの三チーム以外の友達が接触してきた。かくして阿部まりえの取り巻きは二十五人となったのだ。
谷田部彩香には二人のサブが付いている、一人は情報操作担当で阿部まりえのネットSNSの全てを確認している。セブンガールズにはサブが二人づつ居るので、その情報操作のサブが七人いるということだ。みんな
同じ事をして情報の欠損がないか定期的に付け合わせている、もう一人のサブは警護担当、
こちらの七人は一旦事があれば、自分の身を呈して阿部まりえを守れと言われている。
とはいえ、みんな同じ年の娘たちだ、ただ特技を持っているということに過ぎない。警護と監視とはいえ、やっていることは、一緒の講義を聞いて、一緒に昼を食べ、一緒にお茶をして帰るの繰り返しだった。谷田部彩香は阿部まりえを監視の対象というより、本当の親友のような気がしてきた。それはまず、阿部まりえが本当に素直で、正義感にとみ何事に一生懸命でさらに健気だった。自分はこの娘のためになんでもしょうという気にさせられる、そしてそれは、谷田部彩香だけではなかった、セブンガールズとそのサブ、いやそれどころか、後からまじった、出どころの知れない娘たちもだった。
例えば
Aチームには三班が所属している、他のBチームとCチームは2班づつなのでセブンガールズ最大チームと言っていい、だから出どころの知れない娘たちのうち外国人の娘はAチームが抱えていた。学食で昼食をとっている時だった。学食のテレビがニュースで世界の貧困と内戦のニュースをやっていた。
「ここ、あなたのお国」と阿部まりえが外国人の娘に尋ねた。
「いえ、」と外国人の娘は簡潔に答えた、しかしそのすぐあとに悲しそうな目をして続けた。
「でもとても近く」
「そう、でも近いということは心配だね」と阿部まりえはその窮状に共鳴するように答えた。
「仕方がない。私はかなり恵まれている方だけれど。」
「なんとかしたいと思う」と初めて阿部まりえの方か問うた。それは、「ここ、あなたのお国」なんて聞くよりも、もっとずっと重い問いだった。
「もちろん、私が日本に来たのだってそういうところを心ざしたから」チームの人間が
知らん顔をしながら、聞き耳を立てる。
「あなたは、本当に自分の国のことを考えているのね」
「ええ、もちろん」
「だったら、とてもいい方法があるんだけどね」
阿部まりえがとてもいい方法と言って、その場にいた全員が緊張した。
「例えばねこうしたらどうだろう」といって阿部まりえが話し始めた。それはまさにまりえプランだった。
谷田部彩香は緊張し、平静を装いながらも内心では驚いていた。阿部まりえ本人の口からまりえプランを聞いたのだ。そういえば、谷田部彩香でさえ、まりえプランについてはおぼろげな認識だった、調べることもできなかった。ネット上では確実に消去されている、また調べたことなどすぐにばれる。あるいは情報操作サブに言えば、一部にバレないように調べる事は出来るだろうが、少なくとも任務には関係がない。自分は阿部まりえを監視、警護するのが任務だ。
阿部まりえは身振り手振りで、説明して行く、それは人を惹きつけるには十分過ぎる話だった。知らん顔を装っていたはずのチームの誰もがいつのまにか、前のめりで阿部まりえの話に埋没し、うっとりと聞き入っていた。そして谷田部彩香すら阿部まりえの話に引きつけられて、その話の海に埋没して行くようだった。
そして谷田部彩香は思ったのだった。まりえプランは素晴らしい理論だ。この提唱者を警護する。なんて素晴らしい仕事だろう谷田部彩香は自らに与えられた任務に身震いを覚えるような感覚に震えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます