第1話⑥『今の世の中』と書いて、『絶望的な日常』と読む

【佐藤 崇(タカシ)】

『佐藤』も『タカシ』も、日本では多い名前の1つだ。


本人確認をされないこの場所では、堂々としていればいい。



“なるべく、素性は隠したい”

偽名を使えば、本名を知られずにすむ。



「佐藤様は、どちらからいらしたんですか?」

「東京からです。やっていた仕事が一段落したので、ゆっくり温泉にでもと思って」


彼は仲居の前で、堂々と【佐藤 崇】を演じる。



【葵 要】を【佐藤 崇】だと信じて疑わない仲居は、事務的に食事を並べて行く。



「ごゆっくり」

豪華な夕食を並べ終わった仲居は、部屋を後にした。

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