第9話 となりのあの子はツイてない
時雨さんという隣人と出会った次の日、つまり高校生活二日目の朝、俺、宵宮夕也は今日も爆走していた。
「アサヒさんなんで今日も起こしてくれなかったんですか!」
「俺は声かけてるって言ってんだろうが!お前がいつまでも起きねぇんだよ!」
またやってしまった、寝坊だ。
どうやら本当に俺は目覚めが悪いらしい。
爆音目覚まし時計買います。
とはいえ昨日よりはまだマシな時間に出発できたので合体せずとも学校には間に合いそうである。さすがに2日連続で遅刻回避のために合体するのはどうかと思うので自力でなんとか間に合いそうで良かった。
爆走の甲斐あってギリギリ学校に間に合ったので自分の教室へと向かう。
教室を覗くとあいも変わらず座席が綺麗に男女で左右に別れている。そして俺の席といえば教室のど真ん中、クラス唯一の男女隣り合わせ席、カップル席だ。そして俺の隣りの席にはもちろん彼女が待っている。時雨さんだ。
「おはよう時雨さん。」
「おはようございます、夕也くん。」
朝から素敵な笑顔を向けてもらえるのってなんかいいな。
これからこんな日々が続いていくのかなぁ。
これノベルゲームだったらここらへんでオープニング始まりそうだな。
さぁいくぜ華の高校生活!
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高校生活が始まって2週間が経った。
学校の授業や、クラスの雰囲気もだいたい慣れてきたし、クラスでは仲の良いグループなどがそれぞれ形成されつつある。俺は特定のグループに入り浸るというよりみんなと広く絡むって感じだ。
クラスにうまいことなじめていると思う。時々羨望というか嫉妬というかなんか変な視線を感じる気もするけどクラスとは良好な関係を築けてるよね?
帰り道は時雨さんと一緒に帰ることが多かった。いや別に変な意味とかねぇから!同じアパートで部屋が隣なわけだし学校終わって真っ直ぐ帰るときに一緒になるのとか普通だから!おかしくねぇから!
朝?俺が寝坊するから一緒に行くことはないですけど?
とまぁそんなこんなで毎日時雨さんと一緒にいる時間があるわけだが、初めて出会ったあの時ほど近づいてはいない。あのときは急にいろいろ起こりすぎてお互い距離感がバグっていたのだ。今はクラスの中で普通に仲の良い異性ってくらいの関係性になっていると思う。
別に寂しくなんてないですけどね!
とにかく時雨さんと出会って2週間。
この2週間で大きく実感させられたことがひとつある。守護霊ってほんとに大事なんだなぁ…。
なぜそんなことを思うかと言われれば理由はただひとつ。時雨さんマジでツイてない。
毎日なにかしらのアクシデントが彼女を襲う。
コケるとか、物落っことすとかは可愛いものだ。
この前なんて学校で教室にあったホワイトボードが倒れてきたり(俺が受け止めた)、帰り道に犬が飛びかかってきたり(咄嗟に庇った俺が顔面をベロベロ舐められた)、草野球をしていた子どもたちのホームランボールが飛んできたり(ギリギリで俺がキャッチした)と、とにかくツイてない。
そして基本的に俺は時雨さんと一緒にいることが多いので、なにかとアクシデントに巻き込まれる。すべてを受け止めるのもそれなりに疲れるものであるが、女の子が傷つくよりは男の俺が傷ついた方がいい。男が、女がなんて考え方は時代遅れとか言われるかもしれないがこれは俺の心構えなんだから別にいいだろう。俺頑丈だし。
今日も一日の授業が終わった。俺は部活にやる気がないので帰宅部である。高校生活にも慣れてきたしそのうち帰宅RTAでもしてやるか。基本的に時雨さんといっしょに帰るから現状そんなことをする予定はないが。
「時雨さん、帰ろっか。」
「はい、帰りましょう!」
二人並んで帰路につく。学校の授業内容理解できたかだの最近面白いことあったかだの何気ないことを話しながら帰る。時雨さんはたくさん笑ってくれるから俺も話していて楽しい。
こうやって落ち着いて歩いてられるっていいことだなぁ。できることならもうあんなバケモンとは戦いたくないよ。
「私、夕也くんに感謝してるんです。夕也くんの優しさにとても助けてもらいました。」
「え?そんな感謝されることしたっけ?」
「初めて出会った日から何回も私を助けてくれているじゃないですか。夕也くんがいなかったら私は今頃病院のベッドに括りつけられていたところでしたよ。」
なんだそういうことか、感謝されるために守ってるわけでもないし気にしなくていいんだけどな。危険な目に遭いそうな人を見捨てるなんてできるわけないし守るのは当然だ。てか時雨さんを守らないと俺にも被害の余波が来ることになるから自分を守ることにも繋がるんだし。それより病院のベッドに括りつけられるで済むかなあれ、死んじゃうんじゃないかなあのレベルの不運は。やっぱり天然というか、抜けてるところがあるよなこの子。
「どういたしまして、でもあんまり気にしないでね。時雨さんが怪我しないことが一番だから。」
「ふふっ、そういうところも優しいなって思いますよ。」
そういうことを言われると照れてしまうな。こんなに俺に好印象を抱いてくれているんだから時雨さんに失望されるようなことはしないように気をつけないとな。俺なにか後ろめたいこととかないよね大丈夫だよね?なんか急に不安になってきたぞ、後で自分の黒歴史振り返る会でもするか。アサヒさんといっしょに。
「なんで俺も付き合わなきゃなんねぇんだよ。」
まぁまぁいいじゃないですか昔の自分を振り返るのも時には大事ですよ。
「だから一人で振り返れっての。」
俺とアサヒさんがいつものようにバカ話をしていたのがまずかったのかもしれない。後ろから近づくそれに気づくのが遅れてしまった。
突如俺たちの横に止まる黒いミニバン、中から現れた男たちが時雨さんを車に引きずり込む。
「えっ?きゃあぁ!」
「え?は!?時雨さん!!」
「時雨!!」
あまりにも急だったために反応が遅れてしまった。咄嗟に手を伸ばすが車の扉を閉められてそのまま走り去られてしまう。
あまりの展開の早さに理解が追いつかない。
誘拐!?なんで時雨さんが!?
どんどん息が荒くなる。呼吸が苦しい。視界も狭くなってきた。焦っても仕方ないのはわかっている。わかっているが落ち着けるものじゃない。
「アサヒさん!どうしよう!時雨さんが!」
「俺が!俺がもっと気をつけてれば!」
「落ち着け、お前のせいじゃない。」
「でも!」
「でもも何もねぇ。それを言ったら守護霊なのに気づかなかった俺が悪い。」
「そ、そんなことない!」
「俺たち二人とも意識が足りてなかったんだ。それより今は時雨を助けることを考えるぞ。」
そうだ、俺たちがパニックになってる場合じゃない。時雨さんは今もっと怖い思いをしているはずだ。早く彼女を助けないと!
「ありがとうアサヒさん、少しだけ落ち着いた。とにかく時雨さんを助けに行こう。合体だ!」
「おういくぞ!」
「「合体!!」」
「車が行った方向はあっちだったよな?まだそこまで遠くには行ってねぇはずだ、追うぞ!」
「はい!」
時雨さんを誘拐した車を追いかけて俺たちは走り出した。
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