第8話 Let's クッキング!
突如現れた真っ黒い影のような大男とのバトルを制した夕也、激しい戦闘の影響か勝利と引き換えにスーパーで買ってきた食材がぐちゃぐちゃになってしまう…!
こんなので夕飯作れるの〜!?
次回、アサヒさん、追加で食材買ってきてくれませ「できるわけねぇだろ。」ですよねー。
「冗談は置いといてアサヒさん、このぐちゃぐちゃの食材たちどうすればいいと思いますか?」
正直直視したくない買い物袋を見ながら言う。ずっと見てると吐きそうになるなこれ。
「どうすればいいって言われても…、こんなん救いようがないだろ。残念だが廃棄じゃないか…?」
「なんか守護霊パワーとか言って元通りにできたりしないんですか。」
「お前は俺たち守護霊をどういうもんだと思ってんだよ。」
実際問題どうしようなこれ。今からまた買いに行くのもなんか嫌だしなぁ。時雨さんもちょっと嫌そうな顔をしている。さっきあんなバケモンに会ったばっかなのにまた外に出るのは嫌だよなと思いながら時雨さんを見ていると、何か決意を固めたような顔をして口を開いた。
「夕也くん、アサヒさん。もう一回お買い物行きましょうか!こんなことなっちゃうなんてツイてないなぁ、でもこれってたぶんツイてない私のせいなんですよね…。ごめんなさい夕也くん…。」
自分が悪いわけじゃないのに謝る時雨さんの表情は無理矢理作ったような笑顔であり、彼女の手は少し震えていた。怖い思いをしたんだから当然だ。それでも気丈に振る舞う時雨さんに対して温かい気持ちが湧いてくる。
守護霊がいないということは今までたくさんの苦労があったはずなのに、周りのことを思いやることができる時雨さんはまっすぐで優しい子なんだな。こんな優しい子に怖い思いをさせないように俺も少しは頑張らないとな。
「ううん、時雨さんのせいじゃないよ。確かに普段ツイてないかもしれないけど、少なくとも今回のこれは俺が調子に乗ってやりすぎたし。多分あいつと戦った時の衝撃かなんかでぐちゃぐちゃになっちゃったんだと思う。」
時雨さんは目を丸くした後、やわらかく微笑んだ。
「ありがとうございます。優しいですね、夕也くんは。」
その笑顔に俺は心を奪われる。
今日見た時雨さんの表情の中で一番綺麗だったからだ。
そういえば今日は時雨さんの様々な表情を見たような気がする。顔を真っ赤にして恥ずかしがったり、楽しそうに笑ったり。大男に驚いて泡を吹いていたときのことは…彼女のためにも忘れてあげよう…。とにかく、今日会ったばかりだけど時雨さんの色々な顔を見ることができた。
しかしそのどれよりも、今俺の目の前にある笑顔が一番素敵だった。
「俺はただ本当のことを言っただけだよ。」
そう言って俺も微笑み返す。涼しい顔をしているつもりだが正直心臓バックバクだ。
声はひっくり返っていなかっただろうか。変な顔していなかっただろうか。この動揺を悟られていないだろうか。思考がめちゃくちゃだ。
時雨さんと話しているとなんだか幸せを感じる。癒やされていると言えばいいだろうか。なにせ今まで自分の周りにこんなにもまっすぐな子はいなかったからな。別に悪いやつがいたってわけじゃないけど、こんなにも話してて落ち着くような子はいなかった。
こんな子と高校初日から出会えた俺ってめちゃくちゃ幸せ者なんじゃないか?もしかしたら高校での運全部使っちゃったかもしれない。でも、時雨さんに出会って運を使い果たすなら本望か…。
なんか時雨さんの顔がまた少し赤くなってきている。今日一日いろいろあったし疲れでも出てきているのだろうか、なんて考えていると、
「おいお前ら!よく見ろ袋の中身、一部は無事だぞ!」
「アサヒさんほんと!?」
俺たちはどうやらツイていたらしい。
「ほんとだほんと。卵も1パックのうち2個くらい生きてるぞ、二人の分合わせて4個だ。あとは袋入りの人参と玉ねぎも袋の外側が汚れてるだけで中身は無事だ。あとは…まぁ…うん…。」
ツイていたって言うにはちょっとギリギリのラインだな…。それでも少しでも買い出しが無駄にならなくて良かった。
「時雨さん、卵2個と少しの野菜だけ持って部屋に戻るってのもなんか変な感じだし、まとめて料理作っちゃうからさ、もし嫌じゃなかったら今日はここで一緒に食べちゃわない?」
「全然嫌なんかじゃないです!むしろ私に作らせてください!夕也くんお疲れでしょうし…。」
「え、いいの?ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。ほんとは結構疲労が来てたんだ。あ、でももちろん手伝うからしてほしいことあったらなんでも言ってね。」
「うん、なにかあったらお願いしますね!」
驚きの返事だった。まさか料理を作ってもらえるなんて。女の子の手作り料理食べちゃっていいの!?
時雨さんとは今日会ったばかりなのになんかすごい距離近づいちゃったな。
そうだよ、あまりにも一日が濃すぎて忘れそうになるけど俺たち今朝初めて出会ったんだよな。
遅刻しそうになってたら銀髪美少女に出会って、クラスの席が隣で、お互い一人暮らしで同じアパート、しかも部屋も隣ときた。驚くことばかりだったけどやっぱり何より驚いたのは守護霊がいなかったことだ。それでいて《見る》ことができるのだ。あまりにも特殊な子である。
あと、今日初めて会ったはずなのになぜか昔からいっしょにいるような安心感があるんだよな。
時雨さんの雰囲気がそうさせるのかな。
それじゃあこの限られた材料でご飯作りますか!
時雨さんが!
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調理が終わり、料理をテーブルに運び、二人で向かい合って座る。俺は椅子よりも地べたに座る方が好きなので俺の部屋は基本的に座布団スタイルだ。椅子がないわけじゃないけどな。
今はそんなことはどうでもいい。
何よりも目の前にあるものが大事だ。
そう!時雨さん手作りの料理!
オムライスだ!
かろうじて生き延びた具材から導き出された料理がこれである。調味料とか米は前から用意しておいて良かったよ。さすがに米まで無かったらもうおしまいだった。
黄金に輝いて見えるオムライスにはケチャップでハートマークが描かれている。
なんでハートマーク?俺のこと好きなんじゃねって勘違いしちゃうからやめて!とか思ったがそういう感情を込めたわけではないらしい。
時雨さん曰く、オムライスにはハートマークを描くものなんじゃないの?とのことだ。
なんか悲しい。誰ですかそんなの教えた人!
「ふっ、ふはっ!ざ、残念だったな夕也。お前にラブ♡のハートマークじゃなくて。ふっ!」
クッソ腹立つなこの守護霊。
まぁこの人のことはほっといて食べよう!
時雨さんと一緒に手を合わせる。
「「いただきます。」」
オムライスを一口食べる。
めっちゃ美味しい…!
なんて言うんだろう。卵のまろやかさ?芳醇な味わい?ハーモニーがベストマッチでフィーバー?
「夕也お前絶対食レポやんない方いいぞ。」
アサヒさんに突っ込まれた。俺もそう思うよ。
俺の壊滅的な食レポが本当に申し訳なくなるくらい美味しい。ちょこちょこ手伝いながら彼女の調理姿を見ていたけど何かを入れたとか特別な調理工程があったところは見られなかった。それなのにこんなにも美味しいなんて…!
「あの、夕也くん、もしかしてお口に合いませんでしたか?」
向かいに座る時雨さんが心配そうな表情をしながら聞いてくる。どうしてそんな不安げに聞いてくるのだろう?こんなに美味しいんだからもっと自信ありげに聞いてもらっていいくらいだ。
「すごい美味しいよ。毎日食べたいくらい美味しい。な、なんでそんな不安そうなの?」
素直な感想と、遠回しにもっと自信を持ってという気持ちを込めて答えたが、それに反応したのは時雨さんではなくアサヒさんだった。
「お前、自分が泣いてるのに気づいてないのか?」
「え?」
俺が泣いてる?まさか?と思ったが目元に触れてみると本当に涙が流れていた。
なぜだ?美味しすぎて?いや確かに美味しいけどいくらなんでも泣きはしない。玉ねぎが目に染みるわけもないし、花粉…?も飛んでない。さっき戦った大男のせい?などいろいろ考えていたが、向かいの時雨さんの顔を見たら答えがスッと心の中に浮かんできた。
なんだそういうことか。
「あたたかかったんだ。」
「温かかった…?確かにオムライスは作りたてですけど…、もしかして夕也くん猫舌でしたか!?熱くて思わず涙が…ということでしょうか…?」
天然が飛び出す時雨さんに思わず笑ってしまう。
「あぁいや、ご飯が温かいとかじゃなくて。この空気があたたかいなって。いくらアサヒさんがいるっていっても親と離れて暮らすのがほんとは少し寂しかったみたいだ。それが今日は時雨さんとほぼ一日一緒で、ご飯まで作ってもらっちゃって人と一緒にいるって思って気持ちがあたたかくなったって感じです。びっくりさせちゃったよねごめんね。」
「良かったぁ。お口に合わなかったとかじゃなくて安心しました。私も夕也くんといっしょにいるとなんだかあたたかい気持ちになります。今までツイてないことばっかりで、一緒にいると危ないってクラスの人に少し遠巻きにされてたこともあったんです。いじめられてたってわけじゃないけど、周りの人とは距離を感じることもあって、孤独だなって思うこともあったんです…。でも今日夕也くんと出会って、こんな私を守ってくれる人もいるんだって、嬉しくなったんです…!」
彼女の距離の詰め方が急だったり、ちょっとズレているところがあったりする理由がわかった気がした。人とのコミュニケーションが少しばかり足りなかったんだ。周りで見える人もいなかったのだろう。話がうまく噛み合わなくなってしまうこともあったんじゃないか。そんな中俺と出会って自分と同じ見える人がいることを知り、思わず距離を詰めてきたのではないだろうか。
「何度だって守るよ。これから先、君に近づく危険は全部俺が振り払う。絶対に。」
ほぼ無意識に口が動いていた。この子を守りたい。陳腐な言葉かもしれないがこれだけ運命的な出会いをしたんだ。今さら他の人と同じような距離感にできるわけもない。それに俺には彼女を守るためのちょっとした力くらいはあるんだ。昔からなぜ自分は人と違うものが見えるのだろう、戦うことができるのだろうと思っていた。このためだったんだ。この子を守るために俺は今まで自分の力を磨きあげてきた。まぁ、自分の力と言ってもアサヒさんがいなきゃ何もできないんだけど。
「フン、俺の力なんざいくらでも貸してやるから大事なもんしっかり守んだぞ。」
ぶっきらぼうだがやっぱりアサヒさんは優しいんだ。ほんとに最高の守護霊ですよ。
「プロポーズみたいなこと言ったわけだしな!」
「え?俺そんなこと言った?いや確かに時雨さんのことを守るよって言ったけど。そんなプロポーズって言うほどじゃないと思うんだけど…。」
「お前の飯を毎日食べたいだの俺が守ってやるだのってもうプロポーズみたいなもんだろ。」
「いや、いやいやいや!そうやって並べられるとなんかちょっとそれっぽいじゃん!そんな変な意図は無いんだって!」
「ぷ、ぷ、ぷろ、ぷろぽーず!?」
時雨さんの顔が真っ赤になってる。今までで一番赤いよ…。
え、これ俺のせいですか?
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そのあと少しギクシャクした空気が流れたが、なんだかんだで後片付けも終えて、今は玄関で時雨さんが帰るのを見送るところである。帰るといっても隣の部屋に戻るだけだが。
「それじゃあ時雨さん、また明日学校で。」
「はい!高校生活がんばっていきましょうね!」
この子と一緒なら俺はどんなことでも頑張っていけそうだ。
彼女を見送った途端一気に疲れが来たので急いで布団に滑り込む。明日は遅刻しないように気をつけないとな。
それじゃ、おやすみなさい…アサヒさん。
「おう、…を……だぞ」
あれ、アサヒさんがなんか言ってる。聞き返そうとしたが、もう既に限界だった俺の意識は深く沈んでいった…。
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