第7話 漢のタイマン
「おっしゃ行くぞ!」
霊装籠手を装着した俺はボクシングスタイルで大男に突っ込んでいく。
まずは左のジャブ、右フック、続けてワン・ツー!
「グゥオ…」
大男にちゃんとパンチは効いているみたいだ。なんも考えずに拳で突っ込んだけど闇みたいな真っ黒いボディに手が吸い込まれるとかいう想像しなかったのか俺は。まぁダメージ入ってるっぽいし俺は吸い込まれてないしいっか!
ただこっちも無傷というわけにはいかない。大男を殴ってる間にちょこちょこ反撃を受けているが俺は止まらない。なぜかって?
「まだまだ行くぜラッシュだオラァ!止まんねぇぞぉぉぉ!!」
俺は今ハイになっていた。昔読んだ漫画で大事な女の子を守るためにたった一人でヤンキーの溜まり場に乗り込んでいく主人公にちょっと憧れていたのだ。大事な女の子のために戦うシチュエーションなんてめっちゃ燃えるじゃねぇか!実は人生で一回でいいからこういう経験してみたかったんだよ。いやほんとに痛いのは嫌だしマジで一回でいいんだけど。もっとも相手はヤンキーどころか3メートルのバケモンなんだけどな!
「いいぞ夕也そのままラッシュで押し込め!いけ!そこだ!右!左!アッパー!」
ちょっとアサヒさんがうるさい。ボクシング中継を見てるおじさんみたいだ。なんか変な眼帯してるし。なんだあれ?
それでもアサヒさんのコーチング?と言っていいのかわからない声かけは案外的確で、大男がどんどん怯んでいく。
「いけ夕也!フィニッシュだ!一発ぶち込め!」
「言われなくても!霊装出力全開放!フルパワー右ストレートだぁぁぁぁ!!!」
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あー、体動かねぇ〜。ちょっとテンション上がってエネルギー使いすぎちゃったなぁ。
アサヒさんちょっと俺の体なんとかして引っ張って家まで運んでくださいよぉ〜。
「無理に決まってんだろ。」
ですよね〜。
全力右ストレートをぶっ放した結果、大男は消滅していた。先に攻撃してきたのあいつだし正当防衛だよね?過剰じゃないですよね?
そして全力を出した俺は動けなくなっていた。人通りの少ない道で買い物袋を抱えて座り込む不審者の完成である。文字にするとめちゃくちゃ怪しいやつだな。
ずっと泡を吹いていた時雨さんも正気に戻ったようで、座り込む俺の前でしゃがんでじっと俺の顔を見つめてくる。なになになに!?俺の顔なんかついてる?!?そんな見つめられたら恥ずかしいって!
「夕也くん!」
「は、はいなんでしょうか!」
「守ってくれてありがとうございます!実は途中で意識戻ってたから、夕也くんの最後の右ストレートばっちし見てましたよ!」
「あ、あぁ、どういたしまして。え?最後の見てた?」
「はい!しっかり見てました!フルパワー右ストレートだぁぁ!って言ってたところ!」
「Noooooo!!」
テンションハイになっておかしくなってる姿見られてたの!?マジで言ってる!?恥ずかしすぎるんだが!?もう嫌だぁ〜!
「アッハッハッハッ!!!かっこいいとこ見せれて良かったな夕也ァ!!」
アサヒさん全くそんなこと思ってないでしょ…ただおもしろい絵面が見れたとかそんだけですよね絶対…。
「夕也くん、あんなおっきくて怖い人相手に全力で戦う姿かっこよかったですよ!」
でもこの子が笑顔でいられるなら別にいいか…。
ん?今かっこいいって言った!?まだまだいくらでも頑張れる気がしてきました!男って単純なんです!体の疲労もなんか取れてきたし、帰りますか!
「待たせちゃってごめん、もう動けるよ。帰ろうか。」
「はい!もし倒れそうになったら私が受け止めてあげますからね!」
「それは頼もしいな。」
こうして他愛のない話をして俺たちは家に帰りましたとさ。めでたしめでたし。
「なにがめでたしめでたしだよ。エネルギーの配分くらいしっかりしやがれ。」
そんなことを言いながらアサヒさんは俺のことを気遣ってくれているのだ。ありがとうアサヒさん。俺はずっとあなたに護られてるんですよね。
「当たり前だろ、俺はお前の守護霊だからな。」
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「あーやっと着いたぁ!体重かったぁ!ただいま我が部屋!」
おかえりって言葉が帰ってくるわけはないけど家に帰るとただいまって言っちゃうんだよな。
「おかえりなさい!夕也くん!」
おーっとまさか隣のこの子からおかえりと言ってもらえるとは。なんかあったかくていいな。結婚したらこんな感じなのかな。いやいやいや、なんか今日の思考キモいぞ宵宮夕也!時雨さんに嫌われないように気をつけねば。
なんで時雨さんが俺の部屋にいるかというとまとめて買ってきた荷物を分けるためだ。だからって時雨さん一人暮らしの男の家にためらいもなく上がったね。警戒心もうちょっと持ってみません。いや俺は別に変なことしないですけどね?いやほら世間にはね?危ない人もいるからね?これからのために警戒心を持とうねっていう話ね?
「なんか夫婦みたいだなお前ら。」
「アサヒさぁぁぁぁぁん!?どうしてそういうことぶっ込んじゃうのかなぁ!?」
「ふ、夫婦だなんて、は、恥ずかしいです…!」
顔を真っ赤にしてうつむく時雨さん可愛いな。俺今日何回可愛いって言ったよ。
このままだと可愛さに殺されてしまう!殺される前に話題を変えよう。
「さて、買ってきた荷物を分けましょうか。」
そう言って買い物袋を開いた俺は後悔した。なぜなら中身はまさしく「ぐちゃあ」という効果音が似合うような惨状であったからである。
「「「うわぁ…」」」
三人の声が揃う。いやほんとに、うわぁとしか言えないよこれ…。
肉が、野菜が、卵が、みんなぐっちゃぐちゃだ。あの大男と戦ったときにどこかしらのタイミングでぐちゃらせてしまったらしい。漢のタイマンの結果がこれだなんて…こんなのってないよ…。
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