第6話 出てきたバケモン
それなりに気合入れて周りに注意していたけど結局何かが現れることもなく、俺たちは無事に会計を終えてスーパーを出た。アサヒさんと話していても周囲から変に思われないように人通りの少ない帰り道を三人で歩きながら(一人は浮遊しながら)隙を見て俺はアサヒさんに小声で話しかけた。
「結局なんもなかったね。アサヒさんの勘違いだったんじゃないの?」
「お前はほんっとにいつまでも俺のことを疑い続けるなぁ。まぁ勘違いだったら勘違いだったで何事もなくて良かったなでいいじゃねぇか。」
「たしかにそれもそっか。」
「二人とも、私に内緒話ですか?」
「うわぁ!?」
急に俺の顔を覗き込みながら声をかけてくる時雨さん。顔が近い!心臓に悪いっ!
「あはは!うわぁってなんですかうわぁって!お化けかなにか見たような反応しないでくださいよ〜。ハッ!私がお化けってことですか…?」
「そんなこと思ってないよ、急に目の前に時雨さんの顔が現れたからびっくりしちゃっただけ。ん?急に目の前に顔が現れるってやっぱりお化けっぽいかもな…。」
「ちょっと、からかわないでくださいよ〜!」
うん、なんか俺たちいい雰囲気じゃない?軽い冗談も飛ばしてるし、いい距離感で会話が続いてるのを実感する。これが幸せってやつか?
「それで結局二人はなんのお話してたんですか?」
「あ、言うの忘れてたね。アサヒさんがスーパーに入ってからなんか変な感覚がする、何かいるって言ってたんだけど、まぁ結局なんにもなかったしアサヒさんの勘違いだったんだろうねって。」
「そうだったんですか!何も起きなくてなによりでしたね!でもできたら私にもその時教えてほしかったなぁって、思ってたりします…。私のことを心配してくれてるのかもしれないですけど、私こう見えて結構メンタル強いので!大丈夫ですよ!」
サムズアップとウインクがセットで力強いお言葉が飛んできた。そうか、勝手に守ってあげなきゃとか変なものから遠ざけなきゃとか思ってたけどこの子は強いんだ。自惚れるな俺。
アサヒさん含めた三人のなかで除け者にしたみたいになっちゃってたし謝らないとな。
「悪かったな時雨。俺がお前に変な緊張をさせたくなかったんだ。夕也がわざと隠したわけじゃねぇってことだけ覚えといてくれ。」
「アサヒさん…!俺からもごめん時雨さん、時雨さんも見える人なんだからしっかり伝えるべきだったよね。」
アサヒさんがこんな素直に謝るのは意外だった。正直こいつには言わねぇ方がいいに決まってんだろくらい言うのかなって思ってたんだけど。時雨さんになんか優しくない?
「いえ!全然大丈夫です!私ちっこいしそういうのに弱そうって考えるのは仕方ないと思いますし!さぁさぁ明るくみんなでお家に帰りましょう!」
「そうだね時雨さん…!?って後ろ後ろ後ろ!」
「なんですか夕也くん、私が大丈夫だよって言った途端すぐに驚かせようとして〜!ってわぁぁぁぁぁぁ!?」
振り向いた時雨さんがめっちゃ驚いてる。そりゃそうだ。なんてったって今俺たちの前には3メートルくらいの真っ黒い影のような大男が立っているからだ。急に現れたなコイツ!アサヒさんが言ってたやつの正体はこれか!?
「だぁからいるって言っただろうが!やーい俺を信じなかったバカ夕也〜!」
この人なんでときどきこんなに子供っぽいんだろう…。そんなことを思いながら大男の一挙手一投足に注意を向ける。もし攻撃でもしてこようものならなにがなんでも時雨さんを守らねばならない。この子には守護霊がいないんだ。今まで多くの霊や妖にぶち当たってきた俺が守らなきゃいけない。さっき自惚れるななんて言ったばかりだけど今は俺しか彼女を守れる人がいないんだ、気ぃ張ってくぞ俺!
「時雨さん!俺の後ろに!」
まずは突然の遭遇に驚いている時雨さんを俺の背後に隠すため声をかける。攻撃されても最悪俺の体で受ければいいからな。今はとにかく時雨さんの安全が最優先だ!ってあれ?時雨さんが動かないんだけど?
「時雨さん?時雨さん!?」
「あばばばばばばばばばば」
ダメだこの子泡吹いてる!あのサムズアップとウインクはなんだったの!?
「時雨ェ!お前メンタル強いっつったのなんだったんだよ!」
アサヒさんが叫ぶ。心の底から同意しながら時雨さんを引っ張って俺の背後に隠す。後ろからずっとあばばばばって聞こえるんだけど大丈夫?バグっちゃった?朝野バグレさんになっちゃった?
「ワ、ワ…」
今は朝野バグレさんに構っている場合じゃない。目の前乃大男がなにか呻いている。攻撃の合図かもしれない。なんだ、なにをしてくる!?
「ワタシ、キレイ…?」
「「それお前のセリフじゃねぇだろ!!!」」
「あばばばばばばばばば」
俺とアサヒさんのダブルツッコミが炸裂した。思わず突っ込んじゃったよ!こんな大男から口裂け女の鉄板セリフが飛び出してくるとは思わないだろ!そもそも真っ黒い影みたいなやつだからキレイもなにもわかんねぇんだよ顔見せろ顔!てか時雨さんはいつまでバグってんの!?このままじゃずっとバグレさんだよ!?
「ワタシ」
「「ん?」」
「キレェェェェェェェェェェ!?!?」
「あっぶね!!」
大男が拳を繰り出してきたのでうまく受け流す。
こんなんまともに食らったら一発で腕が使いもんにならなくなるな。しかたない、出し惜しみしてる場合じゃないか。
「アサヒさん!合体いきますよ!」
「何言ってる夕也!お前今日の合体はもう使っただろ!!」
「え?」
あ、そうだ今朝遅刻しないために合体使ったんじゃん!!さっき三時間寝てたせいで日跨いだような感覚なってたけど、遅刻しそうになって合体使ったのも時雨さんと出会ったのも全部今日のことじゃん!つまり俺はこの大男と生身でタイマンしなきゃいけないってこと?キッツ!まぁ元はと言えば俺が寝坊したのが悪いんだしちょっとがんばりますか!
「霊装!籠手!」
俺が叫ぶと俺の両手に真っ黒い籠手が現れる。籠手というよりはグローブと言ったほうがいいかもしれないが。
俺は霊が見えると言っても基本的に触ることはできない。そんな俺が霊や妖などの人ならざるものに触れる方法は、アサヒさんとの合体の他にこの「霊装籠手」がある。アサヒさんに少しだけ力を貸してもらって、両手に装甲を装着する技だ。合体は一日に一回しか使えないが霊装籠手は一日に何回も使える。といっても手に装備が着くだけで体自体は普段の体と全く変わらないので動きが速くなったり防御が強くなったりするわけじゃない。
それに合体だったらアサヒさんの霊力に守られるので痛みはあまり感じないが霊装籠手は実質生身なのでダメージを受けるとめちゃくちゃ痛い。それに体に感じる疲労も大きいのでできることならやりたくない技である。てかこの技のメリットがあいつらに触れるようになることとちょっとパンチ力上がるくらいしかないんだよな。とはいえ合体できない今、時雨さんを守るにはこれしかない。
「まぁいいや、やるぞデカブツ!!」
「キレェェェェェェェ!!」
「あばばばばばばば」
ちょっとカッコつけたところなんで泡吹くのやめてもらっていいかなぁ…
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