第2話 ツイてない女の子は隣の席でした。

こんなことってあるのだろうか。

唖然としている俺を不思議そうに見つめる

銀髪美少女、朝野時雨さん。可愛い。

彼女には守護霊が憑いていない。

だから鉄骨が落ちそうになっても一切足が止まらなかったのか。こんな人初めて見た。


ねぇアサヒさん、こんなことってあるんですか?


俺は心の中でアサヒさんに聞いた。

俺の守護霊であるアサヒさんとは心の中で意志疎通がとれる。全部声に出してしゃべっていたら周りから変に思われちゃうからね。


にしても反応がない。あれ、アサヒさん?


「あ、あぁ、わりぃ。まぁ、こんなこともありえなくはねぇんじゃねぇか?」


どこか歯切れの悪そうなアサヒさんだったが、合体のあとだし疲れているのだろう。

などと考えていると、


「よ、宵宮くん!」


天使に名前を呼ばれた。


「は、はい! どうしたの朝野さん!?」


思わず返事の声が上ずってしまう。仕方ないだろう。美少女に名字とはいえ名前を呼ばれたら誰だって照れてしまう。

下の名前で呼ばれたら?

知らんのか

死ぬ。


朝野さんは指を突き合わせてなにか言うべきか言わないべきかというように迷っている。

どうしたのだろう。可愛い。

朝野さんが覚悟を決めたように俺を見る。


そして、


「あ、あの、私のこと、時雨って呼んでくれますか!?」


心臓を撃ち抜かれた。これは銀の弾丸Silver Bulletだ。

俺はもうすぐ死んでしまうだろう。

今までありがとう、父さん、母さん、アサヒさん。近所のケイおじさん、は別にいいか。


そして彼女は死にかけの俺に追い打ちをかける。


「あ、あと! あなたのこと、宵宮くんじゃなくて!夕也くんって呼んでもいいですか!?」


我が生涯に一片の悔いなし!!


これは夢ではないだろうか。ほんとに現実?

ちょっとアサヒさん俺の頬つねってよ。


「つねれるわけねぇだろ俺はお前に触れないんだぞ」


そうでした。


「わ、わかったよ朝...時雨さん。」


「う、うん!よろしくね!夕也くん!」


一度に二回の衝撃を俺に与えた彼女、もしかして山の中で破戒僧に師事して二重の何かを極めました?

なんてふざけたことを考えていた俺に今までの二発を上回る特大爆弾が投下された。


不意に時雨さんが俺の耳元へ顔を近づけて囁く。

あっ、いい匂いする。


「そ、それと、あなたに憑いていらっしゃる方のお名前はなんと言うのでしょうか?」


その言葉は耳元で囁かれてドキドキしていた俺の感情をめちゃくちゃにするのは充分だった。


この子、見える人なの!?






可愛さで俺を殺しかねない朝野時雨さんは、守護霊に憑かれてないけど見える人でした。






「俺が見えんなら話は早い、俺はアサヒだ。よろしくな時雨。」


「アサヒさんですね!よろしくお願いします!」


時雨さんちょっと声大きくないかい?

周りの人に変に思われちゃうよ!?

もしかして時雨さんって、天然? 


可愛い。


そんなことを考えている場合じゃない。あまりのんびりしていると遅刻してしまう。

合体を無駄にするわけにはいかない。


実は合体は一日一回しかできないのだ。

だから合体はとっておきなのである。


もう今日の分使っちゃったけど。


学校に入る前に自分達の教室を確認しなければならない。

アサヒさんの頑張り合体を無駄にしないためにも急がなければ。

俺たちは自分のクラスを知るため、いっしょに学校玄関にある掲示板に張り出されているクラス表を見に行く。


「同じクラスになれたらいいですね!夕也くん!」


「そ、そうだね時雨さん。」


そんなことになったら俺の心臓がもたないのは目に見えている。でもいっしょになれたら嬉しいのも事実だ。


「むぅ、夕也くんちょっと嫌そうじゃないですか?」


「そ、そんなことないよ!!いっしょになれたら俺としては嬉しいけどでも心臓がもたないというかなんというかあのそのゴニョゴニョ」


「ほんとですか?それにしてはなんかしどろもどろですけど...」


「気にすんな時雨、夕也は照れてるだけだ。お前と話してるとドキドキするんだとよ。」


アサヒさぁぁぁぁぁぁん!!!!

なんでバラす!?

なぁ!?なんで!?


絶対時雨さんに引かれる!そんな下心出してまーすみたいなやつと話していたい人なんているだろうか?いないだろう。

恐る恐る時雨さんの方を見ると


「わ、私でドキドキしてくれるんだ...//えへへっ嬉しいなぁ」


よくわかんないけどなんか嬉しそうだった。可愛い。

俺に悪感情は抱いてなさそうでとりあえずひと安心だ。


そんなやりとりをしながらも自分たちのクラスを確認する。


「俺は...1年F組か」


1年F組は男子21人女子19人と男子が一人だけ多い、40人のクラスのようだ。


「夕也くん!いっしょですね!!」


そして時雨さんとクラスが一緒だ。

名簿見たら一瞬で分かった。

春ノ宮高校の出席番号はまず男子の名前が先に並び、その後ろに女子の名前が並ぶ形だ。

俺は宵宮なので、だいたい男子の出席番号で後ろの方になる。

そして時雨さんは朝野だ。女子の出席番号では前の方になるだろう。

そして1年F組では、男子の出席番号一番最後の21番が俺、女子の出席番号一番最初の22番が時雨さんだったため、名簿で俺の名前のすぐ下に時雨さんの名前があったのだ。


この一年、俺無事に生きていけるかな。

などと遠い目をしていると、


「そろそろ教室に入らないといけませんね、いっしょに高校生活楽しみましょうね!」


なんて時雨さんは言ってくる。天使すぎる。


俺たちは1年F組へと向かう。座席はだいたい教室の黒板にでも貼ってあるものだ。


教室は校舎の4階にあるらしい。中学で部活を引退後運動していなかったのが響いているのか階段を上るのが結構つらい。

ようやく教室にたどり着き、扉を開ける。


ん?なんか男女で教室2分割と言っていいくらい半分に分かれてないか?

不思議に思いながらも座席表を見ると、教室2分割の原因が分かった。


座席は二人組で横に3列、縦に6列または7列となっている。

右前方から男子がずらーっと並び、真ん中あたりで男女隣同士の席が一組、そしてその後ろから今度は女子がずらーっと並ぶ。

つまり右サイドの列と中央の列前方に男子、左サイドの列と中央の列後方に女子といった形だ。中央はもうカップル席とでも呼ぼう。


は?なにこの座席?

ふつう男女それぞれ出席番号若い順から隣同士に並んでいくんじゃないの?


そのまま出席番号順に並べるのか!?

そして真ん中の男女隣同士のカップル席、

ここに来るのは男子の出席番号一番最後の人と、女子の出席番号一番最初の人だ。

うわー、大変そうだなぁ。

だってその席以外はみんな同性で隣同士なんだよ?真ん中の席だけだよ異性で隣同士なのは。そこの席の人はメンタルにくるよなぁ。


そこでふと思い出す。





あれ?ここに座るの、俺たちなのでは?






「まさか席が隣同士だなんてすごい偶然ですね夕也くん!もはや運命とも言えます!」


とても元気に現実を突きつけてくる時雨さん。もしかしたら彼女こそが鬼なのかもしれない。

でもこんな可愛い鬼になら食べられてもいいな。


なんて現実逃避を始めようとする俺を叩き起こすかのような声が響いた。


「みんなおはよう!今年一年みんなの担任をさせてもらう、藤田優吾ふじたゆうごだ!担当授業は体育、今年で28歳だ!一年間よろしくな!!いや、訂正しよう。俺はみんなの卒業を見届けるつもりだから三年間よろしくな!」


声デッカ...

体育の先生って声大きい人多いよな。

でも担任が明るくていい人そうでよかった。


「みんな自己紹介とかいろいろやりたいことあると思うけどまずは入学式だな、廊下に並んで行くぞー。」


先生に続いてみんなで大体育館へと向かう。


俺の高校生活がここからスタートするんだ!!





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校長先生の話ってどうあがいても長くなってしまうのか?

校長先生が話す用の本があるなんて聞いたことあるけど本当なんだろうか。

その本に話は短くするべしとかって書いた方いいと思うよ。


なんて考えても仕方ないことを考えながらも教室に戻る。

ただひとつ言いたいことがある。

時雨さん、あなた躓きすぎじゃないか?

教室と大体育館を移動するのに往復で5回も躓く人がいるか?

もしかして守護霊がいないから...?


時雨さんは恥ずかしそうに小声で答える。


「お恥ずかしながら...守護霊は見えてたんですけど、私には憑いてなくて...だから昔から怪我とかも多かったんです。」


そうか、時雨さんも大変だったんだな。


「あ!でもなぜか今日はいつもより躓く回数も少ないし怪我もないですよ!」


え、そうなの?5回も躓いてるのに少ないの?


「夕也くんひどいです!怒りますよ!」


そう言って俺の胸をポカポカ叩いてくる。

可愛すぎでは?


あと、周囲からめっちゃ見られてる。


「入学早々イチャつきやがって...!」

「でも美男美女カップルだよね~。」

「うらやましいっ...!」


なんか嫉妬されたり羨ましがられてる...

俺たちがカップルだと勘違いされてる?

俺は嬉しいけど時雨さんに迷惑がかかってしまう。


「し、時雨さん、ちょっと離れようか!」


「は、はい。私も距離が近すぎました...ごめんなさいぃ...」


「なにやってんだお前らは...」


アサヒさんに呆れられた。



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「みんな、自分の席は分かっているかー?」


藤田先生が言う。


「「「大丈夫でーす」」」


クラスのみんなが答える。

俺も席は分かっている。大丈夫だ。



なんでこんな座席なのだろうか。

時雨さんの言う通り運命として受け入れるしかないのか...


しかたない、クラスで一人だけ異性と隣の席という事実を受け入れてこの一年を生きていくぞ!!





え? 本音?

時雨さんと隣の席になれて嬉しい。

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