130話。空中戦艦をシレジアに持ち帰る
「うおぉおおおっ! 野菜みたいにスパスパ切れるわ! パワーアップした私の大太刀はやっぱり、すごいぃいいい!」
アルフィンが嬉々とした様子で、空中戦艦ゴライアスの装甲を叩きっている。
王都郊外に不時着させた戦艦は、そのままにしておけないので、バラバラにしてシレジアまで持ち帰ることにした。
分解したパーツは、【どこからでも温泉宿】の転移ゲートを通して運ぶ。後は鍛冶の女神ヴェルンドが、溶接して組み立てる手はずだ。
「おぬし! エンジンとか精密機械の部分は傷つけぬように、わらわの指示通りに斬るのじゃぞ! これは組み立てて再利用するのじゃからな!」
現場監督のメーティスが、口から泡を飛ばして叫ぶ。
「わかっていますよ、メーティス様! 思い切り試し斬りさせてもらっています!」
「いや、わかっておらぬじゃろう、おぬし!?」
「ヴェルンド様が【神鉄(アダマンタイト)】を素材に、さらに私の剣をパワーアップさせてくれるっていうし……うっしし、楽しみだわ」
アルフィンがニンマリと笑う。
ヴェルンドは敵の巨神兵を撃破して手に入れた【神鉄(アダマンタイト)】を使って、武器の制作にもいそしんでいた。
僕のための究極の剣も作ってくれるそうだ。時間はかかりそうだけど、これは楽しみだな。
「ガガガガガッ! 空中戦艦ゴライアスは、巨神兵のいわば空母です。いつか、ここから味方機と共に発進したいです」
空を飛ぶ機能が追加された巨神兵も、運搬作業に加わっていた。
「そんな未来がきたら、シレジアの戦力は神話級になるな……」
「いや、ご主人様、とっくにそうなっていると思うのじゃが。もう魔王も2体倒しておるしのう」
なぜかメーティスから呆れられた。
「マスター、周囲に近づく者はいません。警備は万全です」
「きゅきゅーん!(こちらも異常なしなのだ!)」
警備を担当してれているメリルと、ヘルズウサギのモカが報告してきた。
この戦艦の装甲は希少金属のオリハルコンでできている。誰かにわずかでもオリハルコンを盗られないように、メリルたちに警戒してもらっていた。
「ありがとう、ふたりとも」
僕は戦艦を剣で斬る作業を中断して、ふたりを労う。
オリハルコンを斬ることのできる者は、僕とアルフィンくらいなので、なかなか作業が終わらない。
気がつけば、大量の汗が吹き出していた。
「みんな、差し入れのシュークリームと、蜂蜜ドリンクよ。おやつにしましょう!」
【どこからでも温泉宿】の転移ゲートを潜って、ルディアがやってくる。その背後から、侍女のリリーナも姿を見せた。
「うわっ! やったぁ! シュークリーム大好き!」
「うむ、ここで休憩じゃな。わらわも牧場のシュークリームが気に入ったのじゃ! 脳に糖分を補充するぞ!」
アルフィンとメーティスが、作業の手を止めて突進する。
「こら! これはアルトのために用意したのよ! ちょっと、待ちなさいてば!?」
ルディアはおやつの入った籠を奪われて怒鳴っていた。
「アルト様、お疲れ様です。これが空中戦艦ゴライアス……」
リリーナは戦艦ゴライアスの威容に圧倒されていた。
僕は彼女から、蜂蜜ドリンクを受け取って喉を潤す。
「ありがとうリリーナ。ふぅ~、人心地つけた」
リリーナは僕の汗をタオルで拭ってくれる。実に気持ちいい。
「実物を見て驚きました。これほど巨大な兵器が空を飛ぶとは……もし帝国がこれと同じ物をまだ持っているのだとしたら。他の国はとても対抗できませんね」
「……鋭いなリリーナ、その通りだ。そのために、これを修復して使えるようにしておきたいんだよ」
空中から爆撃ができるというだけで、航空戦力を持たない国は、為す術もなく負けるだろう。飛空艇団だけでも、かなりの脅威だ。
こちらも対抗できるだけの戦力を整えておかなくてはならない。
「さすがはアルト様です。先の先まで見越しておられるのですね!」
そんな風に褒められると照れる。
「それと、帝国の解放奴隷たちの受け入れはうまくいっているかい?」
飛空艇や空中戦艦には、ゴーレムを稼働させるため500人近い奴隷が載せられていた。
僕は彼らの8割近くを、シレジアの領民として迎え入れることにした。
ヴァルトマー帝国の民ならメーティスの信者だろう。これで温泉宿の漫画コーナーもまたかなり充実するな。
「はい。ですが、住居が足りません。食料については、ルディア様のお力で賄えておりますが……王都からの移住を希望している方も多く、村の敷地を早急に広げる必要がございます」
「そうか。そろそろ村の拡張だけでなく、新しい村を領内に作らなくてならないな。
リリーナ、【シレジア探索大臣】エルンストやティオたちと相談して、新しい村を建設するのにふさわしい場所の候補を上げて欲しい」
「かしこまりました」
「いろんな種族や人種が共存している中で、人口が密集するとトラブルも起きやすくなると思う。新しい村の建設は、この問題を解決するのに有効なハズだ」
モンスターの中には、極めて相性の悪い者というのがいる。
例えば、スライムと高熱を発するサラマンダーを一緒にすると、スライムは体内の水分が蒸発して衰弱してしまう。
家を焼かれた王都の民と帝国の解放奴隷も、これと同じだと思う。悪感情を持つなという方が無理だろう。
中にはエルフやダークエルフに偏見を持つ者もいるだろうし……
相性の悪い者は、離れて暮らせるようにするべきだ。
「常に領民のことを考えておられるとは……さすがはアルト様です。リリーナは【財務担当大臣】として、これからもアルト様を全力でお支えします」
リリーナはうやうやしく腰を折った。
「マスター、大変です。約5000人近くの大群衆が、王都よりこの場に押し寄せてきています。私のオプション機のゴーレムが確認しました」
「……なんだって?」
メリルが報告してきた。
この場は立入禁止だと、国王陛下からお触れを出してもらっていたんだけどな。
「現在の警備体制では、武力行使をせずにこの人数を抑えることは不可能です。ご指示をお願いします」
「おおっ! あそこにおられるのがアルト・オースティン様だぞ!」
「アルト様、バンザイ! 俺たちの王都を守ってくれた英雄だ!」
「えっ、ちょっと……!」
怒涛のごとく押し寄せてきた人々に、僕は取り囲まれる。
「私たちは、どうしてもアルト様に直接お礼を言いたくて、やってきました!」
「危ないところを、アルト様のモンスターに助けてもらったんですぜ!」
彼らは目を輝かせながら、口々に僕を褒めそやす。
「この空中戦艦が王都を攻撃しだした時は、もう駄目かと思いましたが……シレジアのドラゴン軍団はまさに王国の守護神ですね!」
「私たちが、今、こうして無事に生きていられるのも、すべてアルト様のおかげです!」
5000もの人々の喝采が、どっと轟いた。
それだけ帝国の襲撃が恐ろしかったのだろう。
「……こ、困ったな」
「もうアルト様は、辺境の一領主とは言えませんね。この国の……いえ、世界の命運を担うお方です」
リリーナが僕を畏敬の目で見つめた。
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