129話。ナマケルの更生への道を歩み出す
「聞いたぜ兄貴。オレっちの減刑を陛下に頼んでくれたんだってな……礼を言わせてもらうぜ」
ナマケルは開口一番、僕に頭を下げた。
そんな殊勝な態度を取られるとは思っていなかったので、びっくりだ。
「勝てたのはナマケルの【ドラゴン・テイマー】のおかげでもあるからな。正直助かったよ」
「私からも一応、お礼を言っておくわ。さすがは、アルトの弟ね。なかなかやるじゃないの!」
ルディアも腰に手を当てて、お礼を述べる。
「へっ……まあ、オレっちの命が助かったのは兄貴が人助けをしていたおかげだからな。それに帝国ごときに、王都が滅ぼされるってのも癪に障る話だったしな」
「減刑と言っても。報酬なしで10年間、危険な軍役につく強制労働ですわ。帝国との戦いのために、戦力は少しでも欲しいところです」
アンナ王女がナマケルを汚物を見るような目で一瞥する。
僕はアンナ王女に一礼した。
「ありがとうございます、アンナ王女。弟に更生のチャンスをいただいて。10年間、前線で王国のために貢献すれば、放免ということですよね?」
「……そういうことになりますわ。ただ、もしその間に、何か問題を起こせば刑期は伸びます。せいぜい、王国のために尽くすのですね」
フンと、鼻を鳴らすアンナ王女は、本当にナマケルが嫌いみたいだ。
それがここまで譲歩してくれたのだから、彼女もナマケルの手柄を認めてくれたのだろう。
終身刑に比べれば、だいぶマシな刑罰だ。
「勘違いしてもらっちゃ困るが、オレっちは王国のために尽くす気なんざねぇ。
……ただオレっちを助けてくれた親子は、守ってやりたいと思う。オレっちがこの話を受け入れたのは、そのためだ」
「……なんですって?」
挑発的なナマケルの発言に、アンナ王女が眉を吊り上げる。
「憎まれ口を叩いて。やっぱり人間の性根なんてのは、そう簡単には変わらない物よね……」
ルディアも肩を竦めた。
「いや、そうかな。少なくとも以前のナマケルなら、他人を助けたいなんて絶対に言わなかったハズだ」
これは良い変化だと思う。
ナマケルはこれから変わっていくのじゃないかな?
「へっ。まあ、他人を助けて感謝されるのも悪くないってわかったからな。
それにオレっちの【ドラゴン・テイマー】は他人を救うために使った時だけ、効果を発揮するんだぜ? こんな制約があるんじゃ、悪用なんざできねぇよ」
ナマケルはどこか吹っ切れたように笑った。
「へぇ〜。スキルを与えた創造神様も、粋な制約を付けたものね」
「左様か。だがナマケルよ、もしそなたが王国を害するようなマネをすれば、オースティン卿の弟といえど、容赦なく首をはねるぞ。覚悟しておくのだな」
国王陛下が釘を刺す。
「そうならないように、手柄を立てさせていただきますよ、陛下」
ナマケルは不敵に言って頭を垂れた。
「ではナマケル殿、さっそくの命令ですわ。竜の住処、ドラゴンマウンテンにおもむき、ドラゴンを最低でも3匹テイムしてきなさい。ドラゴンたちを王都上空の守りにつかせます」
「なるほど。帝国の飛空艇に対抗するための空の守りですね。やったなナマケル。重要な任務だぞ」
「はぁ……っ!? いきなりの無理難題だぜ! あの人間が登るのはまず不可能って言われている山頂付近に、ドラゴンの住処があるんだぞ!」
ナマケルは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「登れるだけ登って、山中にキャンプを張ってドラゴンが偶然やってくるのを待てば、良いじゃないか?」
「貴族育ちのオレっちに、そんな危険なことができるか!? オレっちは兄貴とは違って繊細なんだぞ!」
「えっ、そうかな。ドラゴンをテイムできるスキルなんて手に入れたら、僕なら何日でも山中で粘るけどな」
「けっ! これだから天才様はよ。危険なモンスターのウヨウヨいる山にずっとこもったりしたら、オレっちみたいな一般人は死じまうんだよ!」
「簡単にできるようなことなら、罰にはなりませんわ。偉大な兄君であるアルト様の名を汚さぬよう、せいぜい、がんばるのですねナマケル殿」
アンナ王女がしたり顔で告げた。
「なに、逃げ出さぬように見張り兼護衛をつけるが故に安心するが良い。連れて行け」
「ちくしょぉおおおおっ!」
衛兵に引き立てられて、ナマケルは退場させられていく。
ナマケルの更生の道は、なかなか険しそうだ。
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