128話。アンナ王女からガチャに課金するための恩賞の指輪をもらう
後日、僕はルディアと共に王宮に召し出された。謁見の間で、国王陛下から感謝の言葉を賜る。
「オースティン卿、よくぞ帝国の襲撃から、王都とアンナを守り抜いてくれた! そなたの名は王国の歴史に、伝説として刻まれるであろう。いくら感謝してもしきれん!」
感無量といった様子で、国王陛下が僕の手を握った。僕はその手を握り返す。
「国王陛下。ありがたいお言葉ですが、今回の勝利は、みんなの力を合わせて掴んだモノです。僕だけの手柄ではありません。
なにより、王都は僕の生まれ育った故郷です。守り抜けて、本当に良かったと思います」
「辺境に追放されながらも、王都に対する愛着を失わずにいてくれたとは……! ワシは感動したぞ。できれば、そなたには王宮に戻ってきて欲しいのだが……王宮テイマーとして、このワシを支えてはくれぬか? 王都の民たちも、そなたが戻ってくることを熱望しておる」
「恐れながら、今はシレジアを第二の故郷と思っております。
あそこには、僕の帰りを待つ大勢の仲間がおります。仲間たちと幸せに暮らせる土地を作ることこそ僕の理想です。今回の褒美として、ぜひシレジアの領主を続けることをお許しいただければと存じます」
モンスターにとっては人間の王都よりも、大自然の広がるシレジアの方が、ずっと住みやすい環境だ。
いまさら、彼らを窮屈な檻に押し込めようとは思えなかった。
「なんと、無欲にも程があるぞ! ……では、どうかせめて我が娘アンナとの婚姻について、もう一度、考えてはくれぬか? 無理に王位を継げとは言わぬ。兄としてエリオットの後ろ盾となってもらえれば、ワシも枕を高くして眠れるのだが……」
国王陛下の顔には、疲労と不安が滲んでいた。
今回のことで、国王陛下はヴァルトマー帝国の脅威を痛烈に感じたようだ。
相手は和平交渉中に、攻撃を仕掛けてくるような連中だ。しかも、宰相は魔王ともなれば、もはやまともな話し合いは期待できない。
帝国もそれなりのダメージを受けたため、すぐに再侵攻はしてこないだろうけど……
「お父様、お待ち下さい。今のわたくしでは、とてもアルト様のような英雄とは釣り合いが取れませんわ。もう一度、自分を磨き直したいと思います」
国王陛下の側に控えたアンナ王女が、毅然と告げた。
「今回、わたくしは敵に囚われて人質にされるという失態を犯しました。
帝国がその野望を剥き出しにし、魔王たちが復活しつつある現在は、まさに乱世。わたくしも剣や魔法、兵法を修め、王妃として公私共にアルト様をお支えすることのできる女になりたいと思います」
「えっ……」
「はぁ〜っ。父娘そろって、結局、アルトのことは、まったく諦めていないってことね」
ルディアがため息をついた。
「そういうことですわ。守られてばかりの女では、アルト様の伴侶にはふさわしくないと、貴女(あなた)を見て痛感いたしました。いずれ戦場でもアルト様の力になって、ご覧に入れます」
「……ふーん、言っておくけど。私はアルトと一緒に冒険して、さらに絆を深めているばかりか、どんどんレベルアップしているのよ。追いつけるとは思わないでね」
「ええっ。望むところですわ」
アンナ王女とルディアは、睨み合いながらも、どこかお互いを認め合っている感じがした。
「そうか……アンナよ、わかった。そなたはまだ16歳。それほど性急に結婚する必要もあるまいな」
「その通りですわ。まだスキルも授かっておりませんですしね」
「それよりも、王様。恩賞として、またガチャに課金するお金100万ゴールドが欲しいのだけど?」
「おい、ルディア!」
ルディアが図々しい発言をしたので、慌てて遮る。
「王都は大変な被害を受けたんだぞ。その復興や怪我人の治療に、どれだけのお金がかかると思っているんだ。それに恩賞ならシレジアの領主を続けるってことで、もう話はついたんだ」
今後は王国全体の防衛力強化のための費用もかかってくるだろう。戦争とは、とにかくお金がかかるものだ。
「でもガチャに課金して、戦力アップしたおかげで勝てたのよ。課金は絶対に必要よ!」
「いや、まあ、そうかも知れないけれど……」
確かに、メーティスの貢献は大きかった。
「王様だって、SSRの神様ともっといっぱい会えたら、嬉しいでしょ?」
「それは、そうであるな……叡智の女神メーティスが出現したと聞いた時は、腰を抜かしたぞ。我が国が、神々に護られているというのは、なんとも心強い」
ガチャ信者になりかけている国王陛下は、心が揺れたようだ。
「できればワシも、もっと【神様ガチャ】に課金したくはあるが……先立つ物が。財務大臣を説得せねばな」
「クスッ……わかりましたわ。ルディア様のおっしゃることも当然です。それではアルト様には、わたくしのこの指輪を差し上げます。これひとつで、100万ゴールドほどの価値がありますわ」
アンナ王女は微笑して、赤い宝石がついた指輪を外した。
「アンナよ、良いのか? それは、おぬしの一番のお気に入りではないか?」
「わたくしの身を飾るよりも、アルト様のお役に立つ方が、価値のある使い道と言えますわ。さあアルト様、お手を」
「いえ、しかし、アンナ王女……」
「わたくしはどうしても、これを受け取っていただきたいのですわ」
僕は断ろうとした。だけど、アンナ王女が僕の手を取って、僕の左手薬指に指輪をはめた。
「えっ……これって!」
「婚約指輪の位置じゃないの!?」
ルディアが激怒する。
「ええっ、これがわたくしの気持ちです。どうか受け取ってください。いつかアルト様からも、指輪を贈っていただきたいものですわ」
アンナ王女はうっとりした顔で告げる。
参ったな。
「こんな指輪いらないわよ!」
「いやいやルディア殿。これは王家からオースティン卿への恩賞であるからして、受け取ってもらわねば、ワシの面目が丸潰れだ!」
国王陛下にそのように言われては、王国貴族の僕としては、拒否する訳にはいかなかった。
僕は指輪をそっと外しつつ、臣下の礼を取る。
「ありがとうございます。王国になにかあれば臣下として必ず駆け付け、陛下と王女殿下のお役に立つ所存です」
アンナ王女は顔を曇らせた。
僕のアンナ王女の夫にはならないという暗黙の意思表示が伝わったのだろう。
僕はあくまで王国貴族として、王女殿下をお守りするつもりだ。
「つれないお方。ですが、わたくしは決して諦めませんわ。王家の女は情が強いのです」
アンナ王女から強い意思が宿った瞳を向けられて、ドキリとしてしまう。
これ以上、変なことにならないうちに、退去した方が良さそうだ。
「それでは僕たちはこれにて失礼いたします……帰ろうルディア」
「うん!」
ルディアが僕に腕を絡めてきた。
「お待ち下さい。実は本日、ここにナマケル殿もお招きしておりますわ」
アンナ王女が僕を呼び止めた。すると、背後の扉が開いて、近衛騎士に引き立てられたナマケルが姿を見せた。
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