125話。魔王からアンナ王女を救い出す

「【嫉妬の炎】(グラッジファイヤー)!」


「【神炎】!」


 魔王リヴァイアサンが放った猛火と、僕の【神炎】が激突して、お互いを打ち消し合った。


「この俺様の煮えたぎる【嫉妬の炎】(グラッジファイヤー)と、互角だと? なんだそりゃ!? ちくしょっおおおおぉ! 嫉妬を禁じえないぜぇ!」


「すごいわ、アルト!」


 ルディアが声援を送ってくれる。

 僕も驚いた。バハムートから継承した【神炎】の威力が、以前よりもはるかに増していた。


 これはバハムートが神竜王に進化したおかげだな。

 心の中で、ナマケルに感謝を送っておく。


「ちっ……! 動くなよ? こっちには人質がいるんだぜ?」


 リヴァイアサンがアンナ王女を盾に取った。

 だが、アンナ王女は勝ち気な笑みを浮かべる。


「アルト様、わたくしに構わず、この痴れ者を攻撃してください。元より、あなた様が敗れれば、わたくしの命も無いのですから」


「……なんだと、この色ボケ王女!?」


「嫉妬に狂って、詰めを誤りましたわね。わたくしを苦しめるために、この艦を落とそうなどとすれば、わたくしの人質としての価値は半減しますわ。そんなことも、わからないのですの?」


 アンナ王女の挑発に、リヴァイアサンの顔が怒りに染まった。

 姫様は、なんて危険なことをするんだ。

 でも、隙ができたぞ。


「【スロウ】起動」


 メリルが敵の動きを鈍らせる【スロウ】の魔法を放った。


「なにぃ、時間の遅滞だと!?」


 魔王リヴァイアサンは、すぐさま魔法を解除しようと魔力を集中する。

 その一瞬の間に、僕は突っ込んだ。


「はぁあああああ──ッ!」


 アンナ王女を掴むリヴァイアサンの腕に一太刀を浴びせる。ヤツが痛みに、アンナ王女を手放した。

 僕はアンナ王女を抱いて、後ろに跳ぶ。


「ああっ、アルト様……っ!」


 アンナ王女は小刻みに震えていた。

 いくら誇り高く気丈に振る舞っていても、彼女も女の子だ。きっと、恐ろしかったに違いない。


「僕を支援してくれるのは、ありがたいですが、魔王をわざと怒らせるようなことは控えてください。僕の方が、肝が冷えます」


「はい、ですが少しでもアルト様のお役に立ちたかったのです。人質などにされてしまい、申し訳ありません」


「ちょっと、ふたりとも何、見つめ合っているのよ。戦闘中よ!」


 ルディアが嫉妬混じりに叫んだので、慌ててメリルにアンナ王女を託す。


「メリル、アンナ王女を護ってくれ」


「了解しました」


 これでリヴァイアサンとの戦闘に集中できるぞ。


「痛えっ……! や、やってくれやがったな! しかも、見せつけてくれやがって。嫉妬の炎がメラメラ燃え上がるぜぇ」


 リヴァイアサンが僕を睨んだ。

 その腕から血が流れているが……違和感を覚える。

 今のは【神剣の工房】と【剣神見習いLv552】を重ねがけした斬撃だ。命中すれば、こんな程度で済まないハズだった。


「マスター、先ほどから魔王に【分析(アナライズ)】を試みているのですが……分析不能です。ステータスを閲覧できません」


「【分析(アナライズ)】が効かないだって?」


「アルト、気をつけて! リヴァイアサンは炎を扱うスキルの他に、もうひとつスキルを持つと言われているわ!」


 ルディアが助言してくれる。

 気になる情報だけど、リヴァイアサンのスキルについて考察している余裕はない。

 今できる最大の攻撃で勝負だ。


「【神炎】!」


 だが僕の噴射した黄金の炎は、リヴァイアサンに届く直前に掻き消えた。

 逆に【嫉妬の炎】(グラッジファイヤー)で反撃されて、僕は慌てて飛び退く。

 それで気付いた。


「これはまさか……スキルが無効化されているのか!?」 


「ヒャハハハハハッ! ご明答! 俺様のスキル【引きずり下ろし】(ドラグダウン)は、俺様に向けられたスキルを打ち消すのさ。どんなに才能があるヤツでも俺様にかかれば、無能にまで引きずり下ろされちまう! どうだ、笑えるだろう?」


「それじゃ、たくさんのスキルを持つアルトの天敵ってこと!?」


「そういうこった廃課金女神! 強力なスキルを持って、調子に乗っているヤツを引きずり下ろす瞬間は最高だぜぇ! 相手が神や神獣なら、なおさらだ!」

 

 リヴァイアサンは大笑いする。


「おぞましい下衆ですわね。他人の足を引っ張ることしか考えていないなんて」


「クハハハハッ、いいねぇ。やっぱあんたは最高だよ、色ボケ王女。そうやって俺様を見下していたヤツが、俺様の足元にひれ伏すかと思うと、ゾクゾクするぜぇ」


「【氷槍(アイスジャベリン)】起動」


 メリルが魔法を発動した。氷結した床から何十本もの氷の槍がリヴァイアサンに向かって伸びた。


「ちっ! メーティスの兵器か。だが、こんなもんで、俺様の嫉妬の炎が消えるかよぉおおお!」


 リヴィアサンが【嫉妬の炎】(グラッジファイヤー)で、氷槍を蒸発させる。

 

「これはまさか……」


 その光景を見て、ピンと来た。

 リヴァイアサンはメリルに対して、防御行動を取った。

 どうやらスキルは無効化できても、魔法は無効化できないらしい。先ほど、【スロウ】も効いていた。


 だとしたら……僕はリヴァイアサンを倒す方法を思いついた。


「メリル、僕は魔法が使えない。魔法で掩護してくれ!」


「了解です、マスター……!」


 メリルに呼びかけると同時に、僕はリヴァイアサンに突っ込んだ。

 今までの戦いで、僕はMPを召喚とその維持に回すために魔法を使って来なかった。

 おそらく、リヴァイアサンは僕が魔法は使えないと思い込んでいるハズだ。

 一か八か、その隙を突いてやる。

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