124話。魔王リヴァイアサンとの対決

「最短距離を突破します。レーザーブレード、起動」


 メリルがレーザーブレードで壁を斬り裂いて進む。

 分厚い隔壁が天井から次々に落ちてきて行く手を阻んだが、メリルには関係無かった。

 メリルが通った場所が道になる。


「メリルにかかれば、迷路なんて無意味よね!」


「メリル、そのまま直進だ!」


「了解です」


 途中で、多少敵の妨害に出くわしたが、メリルが蹴散らしてくれた。

 最後の壁を突破すると、そこは艦首付近のブリッジだった。


「バカな! もう突破してきただと!?」


 戦艦を操作していた将兵たちが、色めき立つ。


「アルト様!」


「アンナ王女殿下! 今、お助けします」


 アンナ王女はブリッジの中央で、凶悪な人相の男に拘束されていた。

 雰囲気はかなり変わっているが、その顔はダオス皇子のものだ。


「サタンの手勢を蹴散らしてくるとは……まったく嫉妬を禁じえないぜ。本来の力を封じられたんじゃなかったのかよ?」


 ヤツは余裕の表情で、肩を竦める。人質をとっているため、自分の絶対的な有利を確信しているようだ。


「……お前が魔王リヴァイアサンか?」


「その通りだ。しかし、ぬるい戦い方をしてやがるな。この艦の兵士ですら、命を奪わねぇとは……ここまで腑抜けたとは、驚きだぜ。昔のあんたの強さ残忍さに、俺様は嫉妬してたんだがな」


「なら安心しろ、お前に手加減してやるつもりはないぞ。大人しくアンナ王女を解放して降伏するか、ここで倒されるか選ぶんだな」


 僕は油断なく剣を構えた。


「へぇ。良かったな、お姫様。あんたのナイトが、あんたを助けたいってよ。はっ! 嬉しそうな顔しやがって、俺様に対する当てつけか!?」


 魔王リヴァイアサンは、片手に燃え盛る火炎を出現させる。


「色ボケ王女が! この俺様を振っておいて、ハッピーエンドなんてことには絶対にさせねぇぜ」


 奴は火炎を背後に放り投げた。

 意外に思った次の瞬間、ブリッジの後ろ半分が、将兵たちの悲鳴と共に吹き飛ぶ。

 空が見えて吹きさらしとなったブリッジに、すさまじい突風が押し寄せてきた。


「おわっ!? ちょっとあんた、何を考えているのよ!?」


 ルディアが風に煽られて転倒しそうになる。


「くっ、なんのつもりだ!?」


「ハハハハハッ! 気に入ってもらえたか? これでこの戦艦は操縦不能。おそらく5分もしねえで、王都に墜落するぜ。この艦には自爆用に大量の爆薬が積んである。

 アンナがもっとも愛する男と王都が、まとめて木っ端微塵ってわけだぁ!」


 魔王リヴァイアサンは狂ったようにバカ笑いした。

 その言葉通り、コントロールを失った空中戦艦の床が傾き出す。


「正気か!? お前自身も、吹っ飛ぶんだぞ!?」


「ハッ、知ったことかよ! アンナ、せっかく俺様が好きになってやったのに、俺様を振ったことを、あの世で後悔するんだな! ああっ、いぃいいぜ、最高に嫉妬心が満たされる!」


「くぅっ、まさか、こんなことが……!」


 アンナ王女は顔面蒼白となる。

 魔王リヴァイアサンは、邪悪というより極めつきの愚者だ。

 戦艦が墜落すれば、ヤツ自身も甚大なダメージを受けるだろうに。周りを巻き込んでの破滅的行動に出た。


「……理解しかねます。それは相手を好きになったのではなく、自らの所有物だと見做しているだけでは?」


 メリルが顔をしかめた。


「メリルが鋭いことを!? そうよ、リヴァイアサン、あんたのは愛なんかじゃないわ!」


「そうだ。相手の幸せを願うことが、他人を好きになるってことじゃないのか?」


「はっ! そろいもそろって脳ミソお花畑か!? 俺様は俺様が満足できれば、それで良いんだよ!」


 魔王リヴァイアサンは、アンナ王女の顔を掴んで自らに向けた。


「そうだよなアンナ。お前なら俺様の気持ちがわかるだろう? お前だって、自分に振り向かないアルトが憎いよな。ルディアを殺してやりたいよな? 誰かに奪われるくらいなら、いっそメチャクチャにしてやりたいよな!」


「お生憎様。わたくしは、あなたのような負け犬とは違いますわ。たとえ恋に敗れても復讐なんて恥知らずなことはいたしません!」


 アンナ王女は強気に言い放った。


「そんなことをしたら、アルト様から軽蔑されてしまいもの。リヴァイアサン、いえダオス皇子、あなたは最高に無様でみっともなくてよ?」


「へぇっ、言ってくれるわね……」


 ルディアが感嘆する。

 僕もアンナ王女の気丈さと、その言葉の意味に驚愕した。これは僕に対する愛の告白じゃないか。


「こ、この俺様が、恥知らずだと言いたいのか……!? 上品ぶっているんじゃねえよ! クハハハハッ! なら、すべてを失う瞬間まで気丈でいられるか、試してやるぜ!」


「なら5分でお前を倒して、王都も救ってみせる!」


「抜かしやがったな! 俺様の燃え盛る【嫉妬の炎】(グラッジファイヤー)で、地獄に叩き落としてやる」


 魔王リヴァイアサンの両手から、赤々とした炎が噴き上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る