123話。アルフィンの剣が復活する
『まさか、たった3人だけで乗り込んでくるとはな』
カールの小馬鹿にしたような声が響いた。戦艦内の様子も奴に筒抜けのようだ。
狭い通路内に、武装した敵兵がワラワラと姿を見せる。
「くっ……対応が早いな!」
『その者たちは、特別な強化を施した兵だ。実戦テストにお付き合い願おうか』
敵兵が氷結の魔法を次々に撃ってきた。
メリルが【魔法無効化フィールド】を展開するも、それを貫通して通路を凍結させる。
これはSランク以上の魔法か。直撃したら、人間の身体など一瞬で凍りついてしまうだろう。
「マスター、後退してください」
メリルが魔法障壁でガードしながら、【魔法の矢】(マジックアロー)を撃ち返す。
僕も【オメガサンダー】を放って反撃したが、敵兵は脇道に身を隠してやり過ごした。通路内に電撃が跳ね散る。
「さすがに練度が高い兵士だ。ルディア、僕の背中から離れるな!」
「アルト、後ろからも敵よ!?」
「挟み撃ちか……っ!」
ルディアを庇いつつ後退するも、背後からも敵が襲いかかってきた。こちらは分厚い鎧に身を包んだ重騎士たちだ。
僕は剣を抜き放って、応戦する。敵の一撃を受け止めるも、衝撃に骨が軋むのを感じた。
ここで体力と魔力を消耗させられるのは、まずい。
「メリル、ゴーレムを出してくれ!」
「申し訳ありませんマスター。この戦艦の床や壁は特別なコーティングがされており、ゴーレムを生み出すことができません」
メリルが敵兵と魔法の応酬をしながら返事をする。メリルの【クリエイト・ゴーレム】は、周囲の土などを素材にゴーレムを生み出す能力だ。どうやら、それを阻害する力が働いているらしい。
僕に向かって打ち下ろされる敵の剣も速く重く、ひとり打ち倒すのも容易ではない。
敵はひとりがひとりがSランク冒険者級の力を持っており、しかも相互の連帯も取れていた。
『アルトよ、どうだ? もう一度、この私と手を組む気はないか? 我らの力が合わされば、創造神に成り代わることも夢ではない。共にこの狂った世界を正そうではないか』
まるで悪魔の囁きのようなカールの声が響く。
「創造神様に成り代わるですって? ……ダメよ、アルト! そんなことをしたら、この世界が崩壊しかねないわ!」
『笑止。課金ガチャなどに頼らなければ存続できぬような不完全な世界など、いずれは崩壊の憂き目にあうだろう。なら、そのシステムそのものを作り変えた方が良いとは思わぬか?』
「悪いが奴隷を搾取したり、他人の国を土足で踏みにじるような奴が、創造神様より、まともな世界を作るとは思えないな!」
僕は騎士を力任せに弾き飛ばして答えた。
「それに僕はガチャのおかげで、国王陛下やティオたちを救うことができた。要はガチャを正しく使うことができるかどうかだろう?」
なにより、ガチャの無い世界などが到来したら、ガチャによって復活したルディアたちはどうなるのだろうか?
おそらく消えてしまうのではないかと思う。そんなことは絶対に容認できない。
「そうよ! ガチャは正しく使えば、みんなを笑顔に幸せにする力なのよ!」
ルディアが瞳を輝かせて叫んだ。
『転生してまで、この私と敵対する道を選ぶというのか……? 良かろう。では遠慮なく叩き潰してくれる。我が憤怒を思い知るがいい!』
カールは地獄から湧き上がるような憤怒の声を上げた。
僕たちを包囲する敵兵の攻撃が、いっそう苛烈さを増す。
このままでは、マズイ……
『マスター、お任せしました! ついにアルフィンの大太刀の修理と強化が終わりました!』
その時、鍛冶の女神ヴェルンドの小躍りせんばかりの声が脳裏に響いた。
『すばらしい剣です。我ながら会心のデキです!』
『ありがとうございます、ヴェルンド様ぁあ! うわぁああああっ! 私の愛刀がさらにパワーアップして返ってきたぁあああ!』
剣神の娘アルフィンも、剣に頬擦りしそうなほど喜んでいる。
グッドタイミングだ。
「よし、ふたりとも来てくれ!」
『『はい!』』
僕の召喚に応じて、ヴェルンドとアルフィンが通路内に飛び出してきた。
ヴェルンドの振りかざしたハンマーが、盾ごと重騎士を弾き飛ばし、数人を巻き添えにする。
「はぁあああああ!」
アルフィンが魔法を斬って無効化しつつ、敵に突っ込んだ。
「なにぃ!? Sランクの魔法を斬っただと!?」
ありえない光景に、敵は動揺する。
「アルフィンの剣には元々、魔法を斬る力を付与していましたが、今回、その力を大幅に強化しました! 『対魔法使いの究極剣』です」
「すごいじゃないか!」
「これこれぇ! 自分が圧倒的に有利だと思い込んでいる遠距離攻撃至上主義の魔法使いをブチ倒す快感は、何ものにも代えがたいわ!」
アルフィンは敵に突っ込んで、峰打ちで次々に昏倒させていく。
とても楽しそうだった。
「この剣は、おそらくメリルのレーザーブレードと打ち合っても折れないハズです!」
「……むっ」
自慢げなヴェルンドの言葉に、メリルがわずかに眉根を寄せた。
『ヴェルンドとオーディンの娘か……くっ、では、これはどうかな? 対人戦闘用の巨神兵だ』
突如、天井を突き破って、黒光りする人形が次々に降りてきた。小型化し狭い屋内でも戦えるように改造した巨神兵らしい。
これがカールの切り札か。強化兵より、数段厄介そうだ。
「おぉおおおっ!? なんという幸運! 神鉄(アダマンタイト)の塊が降りて来たぁあああ! マスター、コレ、もらっても良いですよね!?」
ヴェルンドが歓喜の雄叫びを上げる。
そう言えばヴェルンドは、敵が武器の素材に見えるんだったよな……
「も、もちろん。倒したら、好きに使ってくれ」
「ありがとうございます! やる気倍増です!」
「うぉおおおおお! 神鉄(アダマンタイト)の敵を斬れるなんて、剣士冥利に尽きるわ! 自分は絶対の防御力を誇っているなんて勘違いしている敵をぶった斬るのよ! その瞬間に敵が見せる驚愕の表情! それが何より私を昂ぶらせる!」
アルフィンも嬉々として剣を振るい、小型巨神兵を真っ二つにした。
敵は強烈な雷撃を放つが、ふたりの女神にはかすりもしない。
「アルフィン、後で素材の回収を手伝って欲しい! 報酬に神鉄(アダマンタイト)を素材に使って、さらに剣をパワーアップさせてやるぞ!」
「ホントですか、ヴェルンド様! やったぁ~! ドンドン出てこい、全部、ぶった斬ってやるわ!」
アルフィンとヴェルンドのコンビは、笑いながら、敵を片っ端から破壊していく。
「なにか、普段以上の力を発揮できているような……」
「はい、マスター。おふたりはモチベーションの向上から、スペック以上の力を出しているようです」
メリルが戦闘の手を止めて、冷静な分析を口にする。
「ヴェルンドとアルフィンって、とても相性が良いわよね」
僕たちはあ然と、ふたりの活躍を見つめた。
『なっ!? まさか、いかに試験機とはいえ、まるで相手にならぬだと?』
カールの動揺の声が響く。
「マスター! ここは私とヴェルンド様に任せて、先に行ってください! こいつらを片付けたら、すぐに追い付きます!」
「わかった! 頼んだぞ、ふたりとも!」
「「はい!」」
僕は【魔物サーチ】のスキルで、魔王の位置を探る。
艦首付近に、その反応があった。
脳裏に浮かび上がった簡易地図に、魔王の表示のマーカーが点滅する。おそらく、アンナ王女もその近くにいるだろう。
しかし、魔王の反応はひとつだ。
カールはこの戦艦に乗っていないのか……?
いずれにせよ、やるべきことはひとつだ。
「メリル、ルディア、魔王の居場所がわかった。おそらくアンナ王女もそこにいるハズだ。すぐに向かぞ!」
「わかったわ、アルト!」
僕たちは決戦の場所へと向かった。
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