120話。帝国の秘密兵器

 制圧した飛空艇団が、王都郊外に降下していく。

 任務を果たしたドラゴン軍団は、僕と合流するために、こちらに向かってきた。


『見事だな。通常の軍などでは、貴様の配下にはかなわぬか』


 上空から厳かな声が響いたのと同時だった。天から幾条もの光の矢がドラゴン軍団に降り注いだ。


『アルト様!?』


 魔竜に乗ったイリーナの悲鳴が、水晶玉より響く。

 屈強を誇るドラゴン軍団が、一瞬ですべて撃墜された。彼らを貫いた光の矢は地上に突き刺さって、巨大な火柱が立つ。


「なにぃ……!?」


 イリーナは自動的に敵の攻撃から身を守れるスキル【完全自動迎撃(オートマチックファイヤ)】発動させ、いくつもの魔法障壁を展開したにもかかわらず、手も足も出なかった。


「えっ……!? 何!? どこから攻撃されたの!?」


 ルディアが慌てふためく。

 すると雲を割って超巨大戦艦が出現し、王都に不吉な影を落とした。飛空艇の10倍近い大きさの艦だ。


「ま、まさか、あんな巨大な物体が空を!?」


 僕たちは言葉を失って、天を見上げる。


『初めましてだな、アルビオンの英雄アルト・オースティン殿。私はヴァルトマー帝国宰相カール・アインホルンと申す。もっとも私は貴様のことを、貴様以上に良く知っているかも知れんがな。この空中戦艦ゴライアスは、貴様を持て成すために用意したものだ』


 空中戦艦より、含みのある嘲笑が響いた。


「帝国宰相カール……?」


 その名は、聞いたことがあった。しかし、カールの言っていることの意味がわからない。


『ご主人様、マズイのじゃ! あの空中戦艦は人間の造ったモノではないぞ! わらわが、魔王と戦うために造った神造兵器ゴライアスじゃ!』


 メーティスが泡を喰って警告してくる。


「それじゃ、魔王をも倒しうる攻撃力を備えているということか!?」


『そうじゃ! じゃが、わらわが造った兵器は、わらわ以外の者が使えぬように、厳重にプロテクトをかけておったのじゃ! それを破ったとなると……尋常な相手ではないぞ! おそらく、このカールとやらの正体は七大魔王のいずれか!』


「魔王リヴァイアサン以外にも、魔王が復活していたんだな!」


 しかも帝国宰相の地位にいるとは、驚きだ。帝国はすでに魔王に乗っ取られているということだ。

 だが、呆けている暇はない。僕はすぐに手を打った。


「【どこからでも温泉宿】! 陛下、エリオット王子! この門からアルト村に転移できます! 急いで退避を!」


 出現したクズハ温泉の門に、国王陛下とエリオット王子を押し込める。

 空間転移魔法は敵の魔導士の妨害で使えないが、僕のスキルなら無問題だ。


「わ、わかった。ここにいては、オースティン卿の邪魔になろう」


「アルト兄上、どうか王都と姉上をお願いします!」


 ふたりは僕を振り返って頭を下げた。


「アルト殿! 動きを止めていた敵のゴーレム兵が再び動き出しました!」


 騎士たちが驚愕の声を発した。


『この戦艦ゴライアスにはMP供給用の奴隷も積載している。戦闘再開といこうか』


 ゴーレム兵が、再び僕たちに襲いかかってきた。


「バハムート【神炎のブレス】だ。あの空中戦艦を撃ち落とせ!」


「承知した!」


 中の奴隷を助けてやりたかったが、空中戦艦をこのままにしておけば、王都は壊滅的なダメージを受けるだろう。

 被害を最小化するためにも、ここは最大火力で一気に勝負を決めるべきだ。


『ほう? よいのか? この戦艦ゴライアスにはアンナ王女をお招きしているのだぞ』


「なにぃい!? バハムート、攻撃中止だ!」


 そうか、アンナ王女は戦艦を撃墜されないための人質か。なら、こちらの取る手はひとつだ。


「あの空中戦艦に突入するぞ! メリル、ルディア、一緒に来てくれ!」


「わかったわアルト!」


「了解です」


 僕たちはバハムートに乗って飛び立つ。

 ルディアも怖いなどとは言わなかった。あれをこのままにはしておけない。


「メリル、接近したらレーザーブレードで装甲に穴を開けてくれ。そこから乗りこむ!」


「了解しました」


 あの戦艦にカール宰相と、魔王リヴィアサンが乗っているなら、まとめて叩き潰してやる。


『叡智の女神メーティスは、すばらしい遺産を残してくれた。感謝しかないな。巨神兵マーク2、全機起動。バハムートを撃墜せよ』


 空中戦艦の船底のハッチが開いて、黒光りするボディの巨人が次々に降りてきた。


「まさか、巨神兵!?」


 それは僕の召喚獣である巨神兵と、まったく同じ姿をしていた。

 しかも、空を飛んでいる。


『ぬぅううう!? なんと、わらわの残した巨神兵に飛行能力を付けたのか!?』 


 そういえば裏切り者の宮廷錬金術師が、帝国には巨神兵があると言っていた。動かせないという話だったが、本当は実戦投入できる状態になっていたのか。


『左様。巨神兵は空を飛べぬことが、欠点であったのでな。追加武装と全体的な能力の底上げもしている。我が帝国の切り札だ』


 30体近い巨神兵が、腕に装着した魔導砲を次々に発射してきた。


「ぬぐぅ!?」


 バハムートは回避するが、敵の放った光の弾丸が、その背を追いかけてきた。


「アルト、マズイいわよ!?」


「マスター、これは自動追尾(ホーミング)型の攻撃です。命中するまで追ってきます。回避不能です」


「くっ! 【神炎】!」


 僕は黄金の炎を放ち、敵の弾丸のいくつかを消滅させる。

 メリルが魔法障壁を張って直撃を防いでくれたが、威力を殺しきれずバハムートが苦悶の声を上げた。


「きゃああああっ!?」


 ルディアが衝撃に、バハムートの背中から投げ出される。

 しまった。もっとしっかり、ルディアの手を握っておくのだった。


「バハムート、ルディアを追ってくれ!」


『ほう。さすがに耐えるか? なら一番隊は転落したルディアを狙え。ヤツを倒せば、もう復活の手段はない』


 5体ほどの巨神兵マーク2が、ルディアに突進していく。

 僕たちは敵の射撃に妨害されて、ルディアを追うのが一瞬遅れた。


「やらせるか。巨神兵よ来い! ルディアを守れ!」


「ガガガガガッ! 神々の最終兵器、巨神兵! リーサルモードで起動しました! 【オメガサンダー】!」


 ルディアの隣に出現した巨神兵が、彼女をしっかりと抱き抱える。さらに巨神兵は、迫りくる敵機に雷撃を放った。敵機は黒焦げになって撃墜される。


「ありがとうアルト! すごいわ巨神兵」


「当然です。これがオリジナル巨神兵の力です。量産型など敵ではありません!」


 巨神兵は着地の瞬間、空気を噴射して衝撃を殺した。


『おい、おぬしら! 巨神兵のボディは【神鉄(アダマンタイト)】じゃぞ! 一撃で倒せるとは思わぬことじゃ!』


 メーティスの忠告が飛んだ。

 撃墜した敵機が起き上がり、ルディアたちめがけて突撃していく。


「クソッ、手が足りない!」


 僕は歯噛みした。

 これはさらに援軍を喚ぶべきかも知れないが……

 アルフィンは剣を折られているし、ヴェルンドはその修理に専念している。

 かといって、複数の巨神兵に対抗できるような者は他にいない。


「ガガガガガッ! マスター、お任せを。5段階まで強化された巨神兵は無敵です!」


 どぉおおおおおん!


「って! ちょっと……!?」


 直後、巨神兵は魔導砲の集中砲火を喰らって吹っ飛んだ。敵の攻撃力は相当なものだ。


「メリル! ルディアを助けに行くぞ! バハムートは敵を蹴散らしてくれ」


「マスター、任務了解しました」


 僕とメリルは、バハムートの背から飛び降りた。

 僕はスキル【天空の支配者】を持っているため、空を高速で飛ぶことができる。

 間一髪、僕はルディアの前に降り立った。

 襲いかかってきた敵機を、僕は真っ二つに両断する。


「すごいわアルト!」


 ルディアが拍手喝采した。

 僕は武器の攻撃力を5倍にするスキル【神剣の工房】と剣技の威力を5.52倍に上げる【剣神見習いLv552】を重ねがけしている。たとえ敵が、改造された巨神兵だろうと斬ることができた。


「我が主の邪魔はさせん!」


 バハムートが【神炎のブレス】で攻撃するも、敵は空中で散開してかわす。


「メリル、【スロウ】の魔法でこいつらの動きを遅くできないか?」


「敵は【魔法無効化フィールド】を展開しています。【神鉄(アダマンタイト)】には、そもそも魔法が効きにくいです。近接攻撃で撃破するしかありません」


 メリルが牽制のために【魔法の矢】(マジックアロー)を速射するも、敵機の表面で弾かれて、たいしたダメージを与えられない。


 敵は距離を取って射撃する戦法に出た。接近戦は不利だと悟ったようだ。

 追尾してくる弾丸が厄介だ。

 ルディアを守るために、こいつらに突撃していくことができない。

 イリーナとドラゴン軍団がどうなったかも気がかりだ。


『目標、地上のアルト・オースティン。主砲発射、用意』


 さらに空中戦艦の大砲が、僕たちに向けられた。すさまじいエネルギーがその砲門に収束していく。

 万事休すと思った時だった。

 撃墜された僕のドラゴン軍団が、咆哮を上げながら飛び上がった。


「ぐぉおおおおおん!(ご主人様を守れ!)」


 彼らが一斉に発射したドラゴンブレスが空中戦艦に直撃し、砲門をその熱で飴のように溶かす。


『なに、オリハルコン製の特殊装甲が!? たかが魔竜のブレスごときに!?』


「なんだ!? ドラゴンたちが、パワーアップしているぞ!?」

 

 魔竜も飛竜も、なぜかステータス値が急激に上昇していた。その身体はより大きくなって、威圧感が増している。


 一体何が起きたんだ?

 僕は【分析(アナライズ)】のスキルで、彼らの状態を確認した。そして、驚愕に息を飲むことになった。

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