119話。国王と王子を救う

「あれはアルト様のバハムートだ!」


 空を飛ぶ巨竜を目の当たりにした人々が歓声を上げた。


「シレジアのドラゴン軍団が助けに来てくれたぞ!」


 無数のゴーレムが破壊活動を繰り返していたが、何体かが動きを止めだしていた。

 イリーナたちが、早くもやってくれたようだ。


「ゴーレムにMPを供給している飛空艇団を制圧しています! いずれゴーレムは全部動かなくなるハズです!」


「まことですか!? おおっ、やはりアルト様こそ王国の守護神だ!」


「アルト様、バンザァイイイ!」


 僕が大声で叫ぶと、地上から万雷の喝采が湧き上がる。

 特に苦戦中の兵士たちからの声援は熱烈だった。


「【どこからでも温泉宿】! みんな来てくれ!」


 僕は地上スレスレに降りて、【どこからでも温泉宿】の転移ゲートを出現させた。中からアルト村に待機させておいたモンスター軍団が、どっと飛び出してくる。


「みんな、王都を攻撃している敵を撃退してくれ!」


『ぐぉおおおおん!(わかりました、ご主人様!)』


 約3000匹もの多種多様なモンスターが散って行く。

 もともと、彼らはこの国を守るために育ててきたモンスターだ。王宮を破壊してしまった罪は、これでそそぐことができるだろう。


「助かりました! ご加勢、感謝します!」


 苦戦していた味方の指揮官が歓喜する。


「バハムート、あれが国王陛下の守護隊だ。周りのゴーレムどもを【神炎のブレス】で薙ぎ払え!」


「承知!」


 南門付近に敵のゴーレムが押し寄せ、ひときわ激しい戦闘が起きていた。その渦中にバハムートのドラゴンブレスを浴びせる。


「うぎゃあああ!? ……って、あれ、熱くない?」


 王国の兵たちは、猛火を喰らって悲鳴を上げたが、何事もないことに気づく。

 バハムートの【神炎のブレス】は狙った対象だけを焼き尽くすのだ。


「なんと、敵が一掃されているぞ!?」


 戸惑いは一転して歓喜に変わった。


「おおっ! アルト殿か!?」


「アルト兄上、助けに来てくださったのですね!?」


 壁際に追い詰められていた国王陛下とエリオット王子が、僕を見上げた。

 護衛たちはみな傷だらけで、立っている者より、倒れ伏している者の方が多い。


「国王陛下、遅くなりました! 今、みんなを回復します【世界樹の雫】!」


 スキルを発動させると、半径500メートルにきらめく水滴が降り注ぐ。

 これに触れた者たちは、体力、魔力、四肢の欠損すら回復し、驚きと共に立ち上がった。


「こ、これはまさか、陛下のお命をお救いしたという女神ルディア様の回復スキルですか!?」


「そうよ! 私のスキルがさらに進化したの!」


 ルディアが胸を張る。


「ああっ! 逝ってしまったガイルが目を開けたぞ!?」


 死んだと思った者たちが蘇生されて、あちこちで驚愕の声が上がった。


「このスキルは死後24時間以内であれば、死者の復活もできます!」


「なんと……!? ま、まさに神の御業だ!」


「こんなことは、どんな回復魔法でも不可能ですぞ! 人智を超えている!」


 騎士と魔導師たちは目を輝かせた。一気に形勢逆転だ。

 だけど、油断はできない。恐怖心を持たないゴーレム兵団が、国王陛下を狙って再び押し寄せてくる。


「メリル、バハムート、周囲の敵を殲滅してくれ」


「承知した!」


「マスター、了解しました。敵兵を排除します」


 メリルがレーザーブレードでゴーレムを次々に両断し、バハムートがブレスで一網打尽にする。

 敵の魔導師が遠くから魔法を放ってくるが、メリルの結界が無効化した。

 ゴーレムを前衛とし、魔導師が後衛となって援護するのが、ヴァルトマー帝国の戦術だ。


「すさまじい、これがオースティン卿が保有する戦力か! 圧倒的ではないか! これなら勝てるぞ! 皆の者、奮い立て!」


 国王陛下が激を飛ばす。

 味方から「「おぅ!」」という賛同の雄叫びが上がった。士気も最高潮だ。


 その時、上空の飛空艇から僕たちに向かって大砲が放たれた。

 イリーナのドラゴン軍団も、完全には敵を押さえきれなかったらしい。

 

「宮廷魔導師団! 魔法障壁を展開だ!」


「アルト様のおかげで、MPが全快している! いくらでも、かかってこい!」


 宮廷魔導師たちが一斉に手を掲げて、頭上に輝く堅固な魔法障壁を張る。

 砲撃が弾かれるが、敵の飛空艇は味方の巻き添えも気にせず連射してきた。本来なら護衛の魔導師を排除してから行う攻撃だろうが、なりふり構っていられなくなったようだ。


「【神炎】!」


 僕はスキル【神炎】の猛火を放ち、砲弾を消滅させた。

 さらに宮廷魔導師に向かって突進してきたゴーレム兵を、ミスリルの剣で叩き斬る。


「おおっ! ありがとうございますアルト様!」


「近衛騎士団! アルト様だけに活躍させるつもりか!? 敵兵を近づけさせるな!」


 騎士たちが奮起し、猛然と敵を押し返す。


「スキル【薬効の湯けむり】!」


 僕は味方の全ステータスを2倍にアップするバフスキルを使った。もくもくとした湯気が周囲を漂うと、爆発的な歓声が上がる。


「こ、これはスゴイ! 力がみなぎってくるぞ!」 


「もう少しで、ドラゴン軍団による敵の制圧が完了します! それまで耐えてください!」


 イリーナが指揮する白兵戦部隊は、すべての飛空艇に乗り込んだようだ。あとは時間の問題だろう。


「オースティン卿がいれば、我らの勝利は確実であるぞ!」


 国王陛下が皆を鼓舞する。

 僕たちは勢いに乗って、敵を次々に返り討ちにしていった。


「アルト兄上、アンナ姉上が敵に捕らわれています! どうか姉上をお救いください!」


 エリオット王子が僕に走り寄ってきた。


「エリオット王子、もちろんそのつもりです。危ないのでお下がりを!」


「アンナ姉上は、アルト兄上とお話できることを楽しみにしていました。敵国の皇子は、アンナ姉上とむりやり結婚しようとしているようです。そんなのは許せません! 僕の兄上は……アンナ姉上にふさわしいのはアルト兄上だけです!」


 目に涙を溜めて、エリオット王子が叫んだ。


「ワシからも頼む。オースティン卿、どうかアンナを助けてくれ。それができるのは、そなたしかおらん。もしアンナを救ってくれたら……ワシはそなたに何をしてでもむくいようぞ」


 国王陛下が僕に頭を下げる。

 一国の王が、辺境領主に過ぎない僕にこんな態度を取るなんて、信じられない。


「……国王陛下、どうかご安心ください。アンナ王女は必ず、陛下の元にお帰しするとお約束します」


「ありがたい! アンナには苦労をかけてきた。ワシはあの娘に幸せになってもらいたいのだ。オースティン卿、できればアンナと……」


 その時、僕たちを包囲したゴーレムが次々に動きを止めて、ただのオブジェと化した。

 おっ、これは……


『アルト様。飛空艇団のブリッジの占領、及び奴隷の解放が完了しました。敵のゴーレムは沈黙。制空権は完全にこちらのものです』


 僕が懐に入れた魔法の水晶玉より、イリーナの報告が届いた。


「良くやってくれたイリーナ! みんな飛空艇とゴーレムの無力化に成功したぞ!」


「おぉおおおおおおっ! アルト様、万歳!」


 皆が武器を振り上げ、割れんばかりの勝ち鬨を上げた。

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