115話。超古代兵器をゲットする

「きゅきゅーん(ご主人様。ここが、そのガラクタのある場所なのだ!)」


『おっおおおぅ! やはり思った通りなのじゃ! ここは2000年前に魔王ベルフェゴールとの決戦が行われた場所であったからな!』


 目の前に広がる光景に、メーティスが水晶玉越しに感嘆の声を上げた。

 そこには、破壊された金属製の巨人の残骸がいくつも転がっていた。どれも長い年月が経過しているようだが、今にも動き出しそうな迫力がある。


「まさか、これは巨神兵の残骸なのか……!?」


 その造形には見覚えがあった。僕の召喚獣である巨神兵と同じだ。


『そうなのじゃ! なるほどの、ベルフェゴールの奴め。これらが神々に再利用されぬように、手下を使って封印したのじゃな』


「私がベルフェゴールを封印した時は、メーティスも手伝ってくれたものね」


 ルディアがぽんと手を叩く。

 ベルフェゴールを封印? そう言えば、そんなことを前にも言っていたな。

 もしかすると、かつてのルディアには魔王を封印するような能力が備わっていたのかも知れない。

 【神様ガチャ】でルディアを引き当てて、5段階まで強化すると、その能力が使えるようになるのかも。

 それにベルフェゴールが巨神兵の残骸をわざわざ隠したということは……

 僕はあることを思いついた。


「巨神兵はメーティスが生み出した兵器なんだよね? なら、これらを修理して使えるようにすることはできないか?」


「お待ちください、マスター! この黒光りするボディは【神鉄(アダマンタイト)】です! オリハルコンを超える究極の金属ですよ! 私にこれらを与えてくだされば、天地を斬り裂く最強の剣を作り出すことができます!」


 ヴェルンドがものすごい剣幕で僕に詰め寄ってきた。


「あっ、待って! 【神鉄(アダマンタイト)】を売れば、ものすごいお金になるんじゃないの!? 売ってガチャに課金しましょう!」


 ルディアも負けじとスゴイ形相で叫ぶ。

 そういう使い道もあるな。まさに宝の山だ。


『いや、おぬしたち待つのじゃ! 巨神兵はわらわの所有物じゃぞ! 巨神兵の残骸は、全部わらわが使うのじゃ! 使うと言ったら使うのじゃ! ご主人様もそう申したではないか!?』


 メーティスが大絶叫した。


「……うーん、確かに神鉄(アダマンタイト)の剣も、ガチャへの課金も魅力的ではあるんだけど……メーティスの物なら、メーティスの意見を尊重するべきだよね」


 僕はしばらく考え込んだ後に、結論を下した。


『ありがとうなのじゃ!』


「むぅ~っ! 売ってガチャに課金した方が絶対に良いのにぃ!」


 ルディアが唇を尖らせて不満そうにする。


「いや、神鉄(アダマンタイト)を売ることはリスクが大きいと思う。例えば、神鉄(アダマンタイト)がヴァルトマー帝国に流れて、これを元に兵器なんか作られたら困ったことになるだろ? オリハルコンの武器に関しても、同じ理由で非売品にするべきだな」


『そこまで考えておられるとは、さすがはご主人様なのじゃ! その通り。強力な武器を生む希少金属は独占するに限るのじゃ。うっかりバラ撒いたりしたら、敵に利用される危険があるからの』


「な、なるほど……そういうことなのね」


 ルディアがしぶしぶ頷いた。

 なるほどと言いつつ、よくわかってはいなそうだった。


「強力な武器は、人を戦に駆り立てる側面がありますからね。わかりましたマスター。私の武器屋で売るのはミスリル製の武具までとしましょう」


 ヴェルンドも納得してくれた。


「ありがとう。オリハルコンの武器はもちろん作ってもらいたいけど。信頼できる身内にのみ渡すべきだね」


 ミスリル鉱石はダークエルフが採掘して、毎月献上してくれることになっていた。おかげで高価なミスリル製の武具が、ヴェルンドの武器屋に並ぶようになっている。


 値段は50万ゴールド以上と高めに設定しているので、買い手がつけば相当な利益になるだろう。

 近衛騎士団にもヴェルンドの武具を売り込みたいと思う。すでに試作品の鎧を王都に送っておいた。

 いろいろな新事業も立ち上がっているし、うまくいけば短期間で一気にシレジアが発展するな。


「じゃあ、メーティス。ここにある巨神兵の残骸を全部渡すから、好きに使って欲しい」


『話のわかるご主人様でありがたいのじゃ! わらわが、ずっと構想してきた巨神兵をパワーアップさせる追加武装を開発しようぞ! 巨神兵は【フルアーマー巨神兵】となるのじゃ!』


 メーティスが喝采を上げた。


「えっ? 量産型の巨神兵をたくさん作るのじゃないの? あるいは、新型の巨神兵を作った方が良いのじゃないの?」


 ルディアが小首を傾げる。


『わかっておらんのじゃな。旧型をむりやり強化して使った方が、ロマンがあるのじゃ。量産型も捨てがたいのじゃが、たたった一体のスーパーロボットの方が、わらわは好きじゃ!』


「メーティス、頼みがあるのだが……神鉄(アダマンタイト)は一切、譲ってもらわなくて構わない。だから、【フルアーマー巨神兵】にドリルの追加武装をつけてもらえないだろうか?」


 ヴェルンドが、何やら頬を上気させて、よくわからないことを頼んだ。


『なんというレトロ兵器! ロマン倍増なのじゃ。この際に、地中を掘って進む機能もつけようぞ! カッコいいぞ!』


「ありがたい! メーティスとは話が合いそうだな! 後で私と酒を酌み交わしながら、ドリルのすばらしさについて語り合おう!」


 ヴェルンドは感無量といった感じで、拳を握りしめた。


『うむ? わらわはどちらかというと、ロマン兵器はパイルバンカーの方が好きなのじゃが……本来なら実用性皆無の粗大ゴミでしかないロマン兵器を、あらゆる技術を駆使して無理矢理、実戦で使えるレベルまでに仕上げるのが好きなのじゃ!』


「なぬっ!?」


 ふたりが専門的な話をしだしたので、僕はモカに向き直った。


「じゃあ、モカ。ヘルズウサギたちに頼んで、この巨神兵の残骸をアルト村まで運んで欲しいんだけど、お願いできるかな?」


「きゅきゅーん!(わかったのだご主人様!)」


「よし、【どこからでも温泉宿】!」


 僕はアルト村までの転移ゲートを呼び出した。クズハ温泉の門がダンジョン内に出現する。


「きゅーん!?(な、なんだこれ!?)」


「マスターのスキルのひとつです。ここと村の空間同士を繋げました。この門を潜れば、一瞬でマスターの本拠地に帰還することが可能です」


 驚くヘルズウサギたちに、メリルがどこか誇らしげに解説してくれた。


「きゅきゅん!(すごいのだ、さすがは穴掘りゴッドの異名を持つご主人様。空間にも穴を開けられるのだ!)」


「……空間に穴。その解釈も間違いではないか」


 モカが指示を飛ばして、ヘルズウサギたちが巨神兵の残骸を運び出す。

 大きな残骸は、スキルで強化した斬撃でふたつに割って、ゲートを通過させた。

 思った通り、僕の剣は神鉄(アダマンタイト)を斬れる域に達しているようだ。


「頼りになるわね。がんばって、ウサギさんたち!」


 ルディアがヘルズウサギを激励する。

 ヘルズウサギは、ルディアを『ニンジンの女神』と呼んで崇拝しているので、ますますやる気を出した。


『ルディアの信者が500匹増えたことにより、ルディアのスキル【世界樹の雫】が進化しました! 対象範囲が、半径500メートルの仲間全員と広範囲化します』


 その時、システムボイスが響いた。

 思わず腰を抜かすほどの【世界樹の雫】のパワーアップだ。

 ヘルズウサギがルディアの信者になったことにより、ルディアの女神としての力が増大したようだ。

 元々、国を滅ぼされたエルフの生き残りが続々とアルト村に集まってきていた。そこに加えて、今回のテイムが決め手となったようだ。


『現在、ルディアの領内における信者数は1032です。3000を超えると、次の進化条件を満たします』


 なるほど……

 どうやら僕の領地内の信者数が条件となるようだ。

 アルト村の住民は、ルディアの豊穣の力を目の当たりにすると、ほぼ間違いなくルディアの信者となる。

 この調子で村の人口を増やしていけば、さらなるパワーアップが果たせるだろうな。楽しみだ。

 

「うわっ! やったわ! これでもっとアルトの役に立てるわね!」


「これは思わぬ成果が得られたな。すごいぞルディア!」


 僕とルディアは手を取り合って喜んだ。

 【世界樹の雫】の進化は、僕の使用スキルにも適用される。

 半径500メートルもの広範囲の仲間を全回復できるとなると、もはや個人戦ではなく戦局を変えうる力だな。


『……うん、なんじゃ? 騒々しいの。今、わらわは【フルアーマー巨神兵】について考えておるのだぞ』


 突然、メーティスの戸惑った声が聞こえてきた。


『アルト様、大変です! 今、王都から緊急の連絡がありました! 王都がヴァルトマー帝国の飛空艇団に強襲されているそうです!』


 代わりにリリーナの切迫した叫びが、水晶玉から響く。

 あまりに予想外のことに、僕はぶったまげた。


「……はっ!? 帝国とは和平交渉が進められていたハズじゃ」


 こちらには捕虜のダオス皇子がいる。弱みであった国王陛下のご病気も治した。帝国が強硬な手段に出るとは、考えにくいのだけど……

 それに飛空艇団? 初めて聞く名前だ。


『しかも、近衛騎士団長様の話によりますと、新しい魔王が……魔王リヴァイアサンが王都に現れたそうです! 至急、お戻りください!』


「なんだって……!?」


 あまりに突然の話だった。

 ……な、何が何だか、訳がわからない。


「わかった! とにかくみんな帰るぞ!」


「「はい!」」


 僕はすぐさまアルト村に戻ることにした。

 アンナ王女や国王陛下が心配だ。すぐに手を打たなければ。

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