112話。ヘルズウサギのテイムに挑戦する
「【分析(アナライズ)】!」
僕はメリルから継承したスキル【分析(アナライズ)】で、魔獣のステータスを確認した。
―――――――
名 前:ヘルズウサギ
種 族:魔獣
ランク:S
テイム:可能。難易度S
弱 点:風属性
好 物:ニンジン
○テイムの方法
ヘルズウサギを上回る穴掘り技能を見せる必要があります。ヘルズウサギは穴掘り至上主義者です。
○ユニークスキル
【掘削(くっさく)】
穴掘りスキル。どんは固い岩盤も掘ることができます。金属や土で形成されている敵に対して特大ダメージを与えることができます。
―――――――
「みんな、気をつけろ! このヘルズウサギはランクSの魔獣。1体1体が、ドラゴン並みの強さだぞ!」
「ええっ、このコたちが!?」
メリルのゴーレムが一瞬で壊されたのも納得だ。ヘルズウサギの【掘削(くっさく)】は、ゴーレムの天敵のようなスキルだった。
「マスターお下がりください。迎撃します。【スロウ】連続起動」
メリルの手が魔法の輝きを放つ。新しく覚えた【スロウ】で、群がるヘルズウサギたちの動きを鈍くした。
「きゅきゅう!?(なんだ!?)」
ヘルズウサギたちは、何が起こったか分からず、困惑していた。
メリルは地中にいる大量のヘルズウサギにも【スロウ】をかけたようだ。
【魔物サーチ】のスキルでわかるヘルズウサギたちの移動速度が、明らかに落ちていた。
メリルの魔法の技量は、やはり常人とは隔絶している。
「アルフィンの剣を直すために、オリハルコンを手に入れなければなりません。道を開けないなら殲滅します」
レーザーブレードを出現させて、メリルは構えた。
「きゅきゅう!(なんのこれしき! 侵入者どもをやっつけろ!)」
「きゅーきゅーん!(物量で押しつぶせ!)」
ヘルズウサギたちが、四方八方から襲いかかってくる。
「みんな! ヘルズウサギを殺しては駄目だ。ダメージを与えるだけにしてくれ! テイムを試みる!」
【分析(アナライズ)】で得た情報から、ヘルズウサギをテイムする方法がわかっていた。【分析(アナライズ)】はテイマーの僕と相性抜群だな。
新種のSランクモンスター、ぜひともテイムして連れ帰りたい。
「了解しました。ノンリーサルモードで対応します」
「お任せください。ハンマーでかっ飛ばすだけにします!」
僕はスキル【薬効の湯けむり】で、パーティーメンバー全員のステータスを2倍にアップさせた。
これならシロもヘルズウサギに対抗できるハズだ。
飛び掛かってくるヘルズウサギを、メリルが【スタンボルト】でまとめて叩き落とし、ヴェルンドがハンマーで弾き返す。
僕も剣の腹を叩きつけて、峰打ちで撃退した。
「ワォオオオン!(下がれウサギたち!)」
ホワイトウルフのシロが咆哮で威嚇しながら、ヘルズウサギに体当たりを食らわせる。
「きゅきゅう!?(こいつら、強い!?)」
「きゅきゅん!(弱そな奴から狙らうんだ!)」
「きゃあ!? ちょっと……!」
戦闘に参加していないルディアに、ヘルズウサギたちが殺到した。
「ルディア、伏せろ!【ウインド】」
僕はすかさず、【ウインド】の魔法で強烈な突風を放つ。
ルディアに押し寄せたヘルズウサギは、吹き飛ばされて壁にぶつかった。
「すごいわアルト! もうこれほどの風が出せるようになったのね!」
風に煽られながら、地面にへばりついたルディアが叫ぶ。
リーンの風の魔法を押し返すことを追求した結果、短期間で、ここまでの威力の風を扱えるようになった。なにより地中で暮らすヘルズウサギは風属性に弱い。その効果はテキメンだ。
ここで一気に反撃に出るとしよう。
「メリル、威力を調整して殺さない程度に、風魔法で攻撃してくれ。ルディアは僕の背後に!」
「うん!」
「マスター、了解です。【ウインドカッター】連続起動」
メリルが風の刃を放つ。
ヘルズウサギたちは自慢の毛皮を切り裂かれて、右往左往した。
「きゅきゅーん!?(うわぁあああ!?)」
「きゅきゅん!?(風が強くて、近づくこともできないだと!?)」
よし、このあたりで良いだろ。僕たちの方が圧倒的に強いことは理解してもらえたハズだ。
ここからがテイマーの腕の見せどころだ。まずは話を聞いてもらい、穴掘り対決に持っていく必要がある。
「ヘルズウサギたち。このまま戦っても、君たちの負けは明らかだ。僕の仲間になってもらいたいのだけど、どうだろうか? 君たちの大好物のニンジンをいくらでも食べさせてあげることができるぞ!」
「ああっ、あなたたちニンジンが好きなのね。それなら、話は早いわ! 私の豊穣の力で、あなたたち専用のニンジン畑を作ってあげるわよ!」
ルディアも乗ってきた。
「きゅきゅう!?(勝手に僕たちの縄張りに入ってきて、僕たちをテイムするつもりなのか?)」
「きゅーきゅ!(僕たちは誇り高き【地獄の魔獣ヘルズウサギ】、誰の下にもつかないぞ!)」
「きゅきゅん!(でも、ニンジン食べ放題はすごい。本当にそんなことができるのか?)」
「なにか、きゅうきゅう言っていて、かわいいんだけど、何て言っているの!?」
ルディアが緊張感の無い黄色い声を出す。
凶暴だけど、見た目がかわいいモンスターだからな。
「テイムされる気はない。ニンジン食べ放題という話は本当なのか、だって」
「強がっちゃっているのね。ますますかわいいわ! ほら、ニンジンよ」
ルディアが手をかざすと、天井からボコンボコンと巨大なニンジンがいくつも突き出てきた。
「きゅきゅう!(ニンジンだぁ!)」
ヘルズウサギたちが巨大ニンジンに噛りつく。
「ふむ。おもしろい奴らですねマスター」
ヴェルンドがハンマーを納めつつ、その光景を眺めた。
「ホントだわ! 連れて帰って思う存分、モフモフしたいわね」
「ルディア、彼らはSランクモンスターだぞ。テイムに成功するまでは間違っても頭を撫でたりしないでくれよ。今は、ドラゴン並みの凶悪モンスターに囲まれている状態だ」
これはどんなモンスターにも言えることだけど、油断は命取りだ。
「マスターのおっしゃる通りです。【遅延】の状態異常にさせたとはいえ、ヘルズウサギの戦闘能力は侮れません。決して前に出ないでください」
メリルがルディアを手で制す。
「きゅーきゅう!(ニンジン食べ放題という言葉に、嘘はなさそうだが……我ら誇り高きヘルズウサギは、我らより穴掘りが得意な者以外には従わないのだ)」
ヘルズウサギたちのリーダーと思わしき、立派なヒゲを生やした個体が発言した。
よし、やった。彼らの方から条件を出してきたぞ。
「じゃあ、僕と穴掘り対決で勝負だ。僕が勝ったら、仲間になってもらえるかな?」
僕にはヴェルンドから継承したスキル【ドリルトルネード】がある。どんな物体でも貫き通すエネルギー波を発生させるスキルだ。
このスキルを使えば、穴掘り対決で負けることはないだろう。
「きゅきゅう!(よかろう。ヘルズウサギのリーダー、モカが相手をするのだ。勝負は代表者3名同士の穴掘り競争とするのだ!)」
「きゅーきゅーん!(モカ様に挑もうなど、命知らずな愚か者め!)」
「きゅきゅーん!(モカ様、軽くひねっちゃてください!)」
ヘルズウサギたちは、お祭りのような大騒ぎとなった。
なるほど……さすがはSランクの魔獣だ。人間並みに知恵が回るようだ。僕が自信ありげなのを見て、確実に勝つために3対3の対決を申し出てきた。
「わかった。こっちの代表は、僕とヴェルンドとメリルだ」
「マスター、穴掘り対決ですか? 鍛冶の女神にしてドリルハンマー使いのこの私に勝てる者など、天上天下に誰一人としていません」
ヴェルンドはハンマーを掲げて豪語した。
「マスター、お任せください。全環境対応型兵器である私は、地中での戦いも想定されています」
メリルも無表情だが、勝算がありそうだった。
「きゅきゅう!(どいつも弱そうなのだ。バカめ。もしお前らが負けたら、そこの巨大ニンジンを生み出す能力をもった娘を置いて帰ってもらうのだ!)」
これには少々、驚いた。
「……ちょっとマズいな。負けたらルディアを引き渡せと言ってきている」
「へっ? かわいい申し出だけど、それはダメよ。私はアルトと暮らすんだから!」
「きゅきゅう!(ルディア様は、我らウサギ王国の『ニンジン担当大臣』となるのだ!」)
「きゅきゅーん!(ニンジン、ニンジン! ニンジンの女神ルディア様、バンザイ!)」
白いモフモフのヘルズウサギたちは、飛び跳ねて小躍りしていた。
「……できれば、負けた場合は別のモノを差し出す条件にしたいけれど。ヘルズウサギたちがすっかり盛り上がってしまって……難しそうだ」
ここでノーを突きつけたら、話は御破算。ヘルズウサギとバトル再開となるだろう。そうなれば、もう2度と彼らを仲間にするチャンスはない。
……仕方がない。こちらから申し込んだことだし、この条件でやるしかない。
大丈夫だ、勝算はある。絶対にルディアは渡さないぞ。
「ヴェルンド、メリル頼んだぞ。この勝負、絶対に勝つ!」
「お任せください。マスターに勝利を捧げます。この回転するドリルにかけて!」
「はい。叡智の女神メーティス様の最高傑作である私に、不可能はありません」
ヴェルンドとメリルが自信満々に頷いた。
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