111話。魔王のダンジョンの隠し階層を探索する

「うぁわわわっ、気持ちイイィ! 久しぶりだけど、モフモフね!」


 ルディアがホワイトウルフのシロの背中で、歓声を上げる。

 僕とルディアは、シロの背中に乗って魔王のダンジョンを目指していた。


「……モフモフというのは、それほど良いモノなのでしょうか?」


 その後ろをゴーレムの肩に乗ったメリルと、ヴェルンドが続く。


「モフモフは、世界の共通語よ。シロに乗りながら、アルトに背中から密着! あぁあああっ! 幸せぇ!」


「ちょっとルディア、あまり強く抱き着かれると背中に当たるんで、うぉおう!?」


 豊満な感触がダブルで押し付けられて、否が応でも意識してしまう。


「警告します。ルディア様の行為は、マスターの安全を脅かしている可能性が高いと判断します。マスター、やはり私がそちらに乗った方が安全上、良かったのではないでしょうか?」


「平気よ! 何かモンスターが近づいて来たら、シロがすぐに気づくものね!」


「ワンワン!(その通りだよ)」


「いえ、そういう問題ではありません。ルディア様の行為によって、マスターがホワイトウルフの背中から落ちる危険があるということです」


「それなら、大丈夫だ。僕はモンスターの背中から落ちても受け身が取れるように、訓練してあるからね」


「……了解しました」


 メリルは口ごもる。

 警護役として、少しでも不安の芽を潰しておきたいのだろう。

 なにより、メリルは僕の役に立ちたいという気持ちが強かった。


「メリル、ダンジョン内での僕の護衛は任せた。もし探索に日数がかかるようなら、世話係も頼んだよ」


「はい、マスター。任務了解です」


 僕の言葉に、メリルは満足そうに応える。

 メリルの過剰な警戒心は、ダンジョンのような危険地帯でこそ有用なものだ。


「それにしてもメリルのゴーレムたちが全滅するとは。やはり、相当、強力なモンスターが生息していると考えて間違いないでしょう。私も全力でマスターをお守りします!」


 ヴェルンドが僕に呼びかける。 


「レアなモンスターに出会えると思うと、ワクワクするんだけどね。ヴェルンドも、よろしく頼むよ」


 僕のテイマー魂がひさびさにうずいていた。


「もちろんです。いかなるモンスターが出現しようとも、マスターには指一本触れさせません」


 ヴェルンドが力強く請け合う。

 今回、かなり危険な冒険となるため、パーティーメンバーは少数精鋭にした。


 現在の最強戦力であるメリル。地下での戦闘に強いヴェルンド。究極の回復スキル【世界樹の雫】が使えるルディア。それに、モンスターの接近を鋭敏な嗅覚と聴覚で察知できるシロだ。

 僕も【魔物サーチ】のスキルを持っているけど眠っている間は使えないので、索敵能力を持つ仲間は他にもいた方が良い。


 ルディアは村に置いて来ようかとも思ったけど、『私がいないとログインボーナスの神聖石がもらえなくなるわよ!?』と、必死に訴えられた。


 神聖石は現在、15個ほど溜まっている。10連ガチャを回して確実にSSRの神を手に入れるために、50個溜めるつもりだ。

 今から、その瞬間が楽しみだ。


『うむ、実に興味深いのじゃ。メリルを通して、ご主人様たちの状況は【遠見の魔法】で常に把握しておる故に、安心するのじゃ』


 メリルが首から下げた水晶玉より、叡智の女神メーティスの声が響いてきた。


『メーティス様、アルト様たちはご無事でしょうか? 援軍を差し向ける準備はいつでもできています!』


『だぁあああ! もう過保護なメイドじゃの! まだ、入り口にも到着しておらんのじゃ』


 リリーナが心配する声も聞こえてきた。

 出発する前に、もっと戦力を投入したらどうかとリリーナから進言された。

 だけど、みんなそれぞれ仕事を持っているし、不測の事態に備えて、アルト村にも戦力を残しておきたいのでメンバーを絞った。


「大丈夫だよリリーナ。いざとなれば、【どこからでも温泉宿】で脱出できるから」


『……はい』


 それでもリリーナは、どこか不安そうだ。


『マスター、ヴェルンド様お願いします! 私の大太刀を直すためのオリハルコンを見つけてください! 私はもうしばらく大太刀を握っていないので、禁断症状が出て来てしまっています! ハァハァハァ!』


 剣神の娘アルフィンが息を荒らげている。


「大丈夫かアルフィン……」


 いろんな意味で心配だった。


「アルフィンの武器は必ず直すから、安心して欲しい。我慢ができないなら、私の武器屋に大剣をいつくか並べてあるから、それを振ってくれ」


『ありがとうございます! 今、ちょうど一番デカいのを握って、自分を慰めています! はぅおおおおっ!』


 アルフィンが変な叫び声を出す。大剣をブンブン振っているようだ。


『おい、おぬし、やめぇい! うざったいのじゃ! ……魔王ベルフェゴールのダンジョンの奥底にあるものとなると。もしかすると、ご主人様たちから見ると、ガラクタにしか見えないモノが有るかも知れんのじゃ。注意深く探索して欲しいのじゃ』


「ああっ、メーティスも何かあったら、助言を頼むよ」


 メーティスと通信が繋がっているなら、不測の事態が起きても安心だ。

 やがて、魔王のダンジョンが見えてきた。


 入り口付近には、屯所が建てられている。魔王のダンジョンは、シレジアの資源のひとつだ。

 冒険者たちがダンジョン探索で得た利益の一割を、アルト村に納めてもらうシステムにしていた。

 その代わりに、もし怪我人などが出たらすぐに救助できるように、屯所に何人か待機してもらっている。


「これはアルト様、ようこそおいでくださいました」


 屯所から救助隊として雇っているダークエルフたちが顔を出した。彼らはうやうやしく頭を垂れる。

 ダークエルフとも同盟を結んだことから可能になったことだ。元々、魔王のダンジョンはダークエルフの聖地だったので適任だ。


「ご苦労様。隠し階層には、人を入れたりしていないよね?」


「はっ! 【禁断の聖域】に入ることは、筆頭魔王様であるアルト様以外には許されないことです」


 ダークエルフたちは、僕を魔王ルシファーの生まれ変わりとして、崇拝していた。

 それについては、もう受け入れているから構わないけど……

 ダークエルフたちは魔王ベルフェゴールは、『女王イリーナではなく、僕に聖域の存在を教えた』と解釈しているようだ。

 そのため、ダンジョン管理にも熱が入っていた。


「地下3階まで降りることのできる昇降機は、問題無く使えます。どうぞお使いください」


「ありがとう」


 屯所の地下には、ダンジョン下層に降りるための昇降機もあった。もともと、ダークエルフが使っていたモノだ。

 今では料金500ゴールドを払えば、ダンジョン探索許可を得た者なら誰でも使えるように開放している。

 これを使って、一気に地下3階までショートカットした。そこから魔王が封印されている地下5階まで歩く。


「マスター、ここが隠し階層の入り口です。封印を解除します」


 メリルが隠し階段のある場所まで案内してくれた。そこは幻影の魔法がかかっていて、一見、何も無いように思えた。だがメリルが地面に手を付けると、階段が出現する。


「おおっ、すごい! ロマンがあるわね。ベルフェゴールの隠し財宝とかあったら、またガチャに課金しましょうね!」


「そうだな。よし、僕が先頭、しんがりはメリル。ヴェルンドはルディアを守ってくれ。シロは索敵を頼む」


 ダンジョン探索というのは、思えばあまり経験がなかった。

 しかも、未踏の地となれば、否が応でも気持ちが盛り上がる。

 もし財宝があったら、課金ガチャを回すのも良いなぁ。

 ここの存在を教えてくれたナマケルには感謝しないとね。


「マスター、先頭は危険です。念のため私のゴーレムを数体、先行させます」


 メリルが申し出た。


「わかった。僕も【魔物サーチ】を使う」


 【魔物サーチ】は半径5キロ以内にいる魔族、モンスターの存在を感知できるスキルだ。

 僕たちは隠し階段を降りる。

 そこには巨大ゴーレムが楽々と通れる広大な空間が広がっていた。そのまま慎重に進んで行く。

 すると、突如、大量のモンスターの反応を感知した。


「うん……!? マズい。どうやら、地中にモンスターの群れが隠れ潜んでいるみたいだ」


 しかも、【魔物サーチ】のスキルにモンスター名が表示されない。これは僕の知識にない未知のモンスターのようだ。


「ぐるるるるぅ!(囲まれているよ!)」


 シロが牙を剥き出して、警戒態勢になる。


「マスター、どのあたりでしょうか? ドリルで先制攻撃をしかけます! 地中ならドリルの出番です!」


 ドリルをぶっ放したくてたまらないヴェルンドが、ハンマー【創世の炎鎚】を構えた。


「いや、天井にも、壁にも後ろにもいる。すごい数と勢いだ!」


 モンスターたちは、驚異的な速度で地中を移動してくる。


「きゅーん!(攻撃開始!)」


「きゅきゅーん!(やっつけろ!)」


 赤い目をランランと輝かせた魔獣が、四方八方から飛び出してきた。

 魔獣たちはゴーレムに襲いかかり、一瞬にして穴だらけにしてしまう。


 ごっごおーん!


 ゴーレムが音を立てて崩れた。

 恐ろしい攻撃力だ。


「あっ! かわぃいいいっ!」


 ルディアが場違いな歓声を上げる。

 現れた魔獣は、モフモフの体毛をした白いウサギだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る