108話。幕間。2000年前、魔王サタンを倒す
2000年前。ルディアと出会った後
「ちっ……なんで、この俺が女神なんぞ、助けちまったんだろうな。しかも変なあだ名までつけられるし」
天使の軍団を振り切った魔王ルシファーは岩山に降り立って、ため息をついた。
創造神との戦いに敗れて、満身創痍になった身体が全快したのはありがたかったが、妙なことになってしまった。
「ちょっとアルト。ちゃんと名前で呼んでちょうだいよ。私はルディアよ、ルディア!」
ルシファーが小脇に抱えたルディアが、ぷくぅと頬を膨らませる。
ルシファーが正体を隠すためにとっさに使った偽名が、呼び名になってしまっていた。
ルディアはルシファーに魔王を辞めてもらいたいようだが、彼にはそんなつもりは毛頭ない。
「わかった、わかった。とりあえず、家に帰してやるから、それでお前とはオサラバだ」
「えっ!? 私は天使たちに、裏切り者認定されちゃったのよ。家に帰れる訳ないじゃない!?」
ルディアは魔王ルシファーを助けたことにより、天使たちから攻撃を受けた。
ルディアの使い魔である水の精霊マリンも巻き添えを食ったため、ルディアはマリンをカード化して懐に収めていた。
【精霊ガチャ】でゲットした精霊は、カード化して持ち運ぶことができるのだ。
「……お前は大地母神の娘なんだろう? 母親に頼んで、なんとか誤解を解いてもらうんだな」
「それより、もっと良い方法があるわ。それはアルト、あなたを創造神様に帰依させることよ。あなたもガチャのすばらしさに目覚めるべきだわ! 一緒にガチャに課金しましょう!」
ルディアが目をキラキラさせて訴えた。
「いや、お前、少しは懲りろよ! お前は、創造神の思惑を知らないから、そんなことが言えるんだ」
「創造神様の思惑ですって……?」
「俺はかつて、創造神の隣に座することを許された最高位の天使だった。【精霊ガチャ】も、万人を幸福にするモノだと信じて、そのシステム作成に協力した。だが、俺はある時、創造神が残したメモを見つけてしまったんだ。『ユーザーの射幸心を煽ってじゃぶじゃぶ課金させるためのキャンペーン企画』だ!」
ルシファーは煮えたぎる憎悪を込めて叫んだ。
「創造神にとって、この世界に生きる者たちは……天使も神も人間もすべて、課金ガチャによって搾取する対象でしかなかったんだ!」
ルシファーはこの事実を他の天使たちに伝え、創造神に造反した。サタン以外の6人の魔王はルシファーの呼びかけに応え、共に創造神に背を向けた元最高位の天使たちだ。
創造神は自らの被造物を愛していない。ガチャという狂ったシステムが存続すれば、この世は不幸で満ちるだろう。
「だから、あなたは創造神様を裏切って、魔王になったのね? あなたはやっぱり悲しい人ね」
ルディアは悲しそうに頭を振った。
「なんだと……?」
「『ユーザーの射幸心を煽ってじゃぶじゃぶ課金させるキャンペーン?』……ふっ、上等だわ。だから、なんなの? そんな程度で課金をやめるなら、最初からガチャなんか回さないわ! それに私とマリンちゃんの絆は、紛れもなくホンモノで永遠よぉおおおお!」
ルディアは岩山にこだまするほどの叫び声を上げた。
「駄目だこいつ……早くなんとかしないと。いや、もう手遅れか……」
「なにをそんな可哀想なコを見る目で、私を見ているの!? アルトもガチャに課金すれば絶対に世界が変わるわ! 初回限定特典で、今ならSSRの精霊が必ずもらえるのよ!」
ルシファーは、改めてガチャの恐ろしさを思い知った。
ルディアのようなガチャ廃神、ガチャ依存症の者は、ガチャをこの世から消すことなど絶対に許容しないだろう。
「それに、ガチャでお布施を集めて創造神様の力を増さないと、この世界は維持できないのよ!?」
「はっ、ガチャなんぞが存在する前から、この世界は維持されてきた。俺は創造神のその言葉をまったく信用していない」
「むぅ~! アルトのわからず屋!」
唇を尖らせて、ルディアがルシファーを睨む。
「お母様が言っていたわ。ちょっと前までは、世界の一部の地域では砂漠化と生き物の大量絶滅が起きていたけど……今ではそれがストップしているのよ! これは創造神様が世界をメンテナンスしてくれたおかげだわ! ガチャを回すことは世界を回すことなのよ!」
「何? 大地母神が……それは本当か?」
ルディアはバカだが、他人を騙すようなタイプの娘ではない。
ルシファーはふと考え込んだ。
もしやガチャに依存しなければ、この世界は維持できないような状況になっているのか?
「見事だったなルシファー。まさか大地母神の娘を手に入れてくるとは……」
その時、天より声が響いた。
空からルシファーとルディアを見下ろす男、それは憤怒の魔王サタンだ。
「えっ、な、なによ、コイツ……? まさか」
ルディアが絶句してサタンを見上げる。サタンから溢れ出る絶大な怒気と魔力を目の当たりにすれば、何者であるか察しがつくだろう。
「ほう、森と生命を司るだけあって、他の神より圧倒的な生命エネルギーを持っているようだな。これは僥倖(ぎょうこう)だ。その娘の生命エネルギーを利用すれば、お前と私とで創造神に成り代わる計画が現実となるだろう」
サタンは歓喜に震えていた。
サタンは誰よりも創造神を憎み、怒っていた。
神々の結束を強めるためには、神々に敵対する者が必要だ。そのための敵対者、憎まれ役として、創造神は魔王サタンを生み出したのだ。
「いや、待てサタン。コイツは俺の恩人なんだ」
「……なに? まさかその娘を庇うつもりではあるまいな?」
サタンから怒気が膨れ上がる。
神々から忌み嫌われるためだけに生み出されたサタンは、常に神々に対して尽きぬ憤怒を向けていた。
「ルシファー、お前は孤独であったこの私の唯一の友にして理解者。共に創造神を打倒し、奴に成り代わると誓ったではないか?」
「もちろん、そのつもりだが……コイツもいわば創造神のガチャシステムの犠牲者であって敵じゃない。それに、コイツ……ルディアの母親に少し確認したいことができた」
ルシファーの望みは世界の破滅などではない。
「ガチャが本当に、この世界を維持するために必要なら、そのシステムを破壊してしまうのはマズイ」
「信じられんぞルシファー! 新たに魔族となった者たちは、皆、ガチャによって搾取され不幸になった者たちだ! 創造神は自分のことしか考えておらん! この狂ったシステムを破壊することこそ、魔族の悲願だ!」
サタンの周囲の空間が、高まる殺意と魔力に震えた。
「まさか、その娘にたぶらかされたとでも言うのか!? ……少し惜しいが、不安要素は消さねばならん。その娘には、今ここで消えてもらおう」
「きゃあああっ、て、ちょっとなにをする気!?」
ルディアが怯えてあとずさる。
「やめろサタン!」
サタンから黒い稲妻が放たれる。ルシファーはルディアの前に割って入って、雷撃を弾き返した。
弾かれた稲妻は山に激突して、轟音と共に、山を消し飛ばす。
「ひゃあああっ!? なに、この威力、むちゃくちゃだわ!?」
「おのれ! なぜ、邪魔をするのだ!?」
「ちっ! 少しは人の話を聞け!」
ルシファーは舌打ちした。
サタンはさらに強力な魔法を撃ち出そうとしている。
サタンは本気だ。このままではルディアを庇いきれないとルシファーは判断した。
なら初手から切り札を使って、速攻で勝負を決めるしかない。
「【因果破壊(ワールドブレイク)】!『今弾き返した一撃が、サタン以外の場所に命中した過去を無かったことにする』!」
その瞬間、サタンの身体は、一瞬で黒焦げになって墜落した。
ルシファーのスキルによって過去が改変され、『自身の渾身の一撃を受けた事実』がサタンの身に降りかかったのだ。
「そ、創造神だけでなく、この私をも裏切るつもりなのか!? 許さんぞルシファー、裏切り者め……っ!」
サタンは怒声を上げながら、谷底へと落ちていった。防御態勢をとらないまま不意打ちを受けたため、甚大なダメージとなったのだ。
「あ、ありがとうアルト。また、私を助けてくれたのね!?」
ルディアは感激した様子で、口を開く。
「成り行き上、そうなってしまったな……仕方ねえ」
ルシファーは友を撃ってしまったことに罪悪感を覚えたが、割り切ることにした。サタンはあの程度で、くたばるような奴ではない。
まずは、この世界に何が起こっているのか、ガチャの真実を突き止めるのが先決だ。
サタンとは、その後で、話し合いの機会を持つしかない。
「お前の母親と話がしたい。大地母神のところに案内してもらうぞルディア」
「うん、わかったわ、アルト!」
ルシファーはこの時、まだ気づいていなかったが……
この一件を皮切りに、サタンや他の魔王との対立は決定的となっていくのだった。
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