106話。叡智の女神メーティスの力

 新しい領民たちの歓迎パーティーの準備を開始した。すると温泉の女神クズハが、すごい勢いで僕のところにやって来た。


「マスター、叡智の女神メーティス様が【神様ガチャ】で出現したって、本当ですの!?」


「その通りだけど?」


「おおっ、クズハではないか。わらわはおぬしが大好きなのじゃ。おぬしのように、胸の小さい娘に悪いヤツはおらんのじゃ!」


 メーティスは、腕組みしてウンウンと頷く。

 なんというか、相当、胸にコンプレックスがあるようだ。


「マスターとメーティス様にお願いがありますの。メーティス様の【禁書図書館(アカシックレコード)】の本を、温泉宿の休憩コーナーに置かせて欲しいですの!」 


 クズハはメーティスの言葉を華麗にスルーして頼んだ。

 本? もしかして、メーティスのスキルは本を出現できるモノなのか?

 アルト村には本屋も図書館もないので、本そのものが貴重だった。

 娯楽としても、教育や調べ物のためにも本があれば助かる。


「メーティスのスキルについては、ステータスの説明文を読んでも、良くわからないんだけど。具体的にどういうものなんだ?」


『【禁書図書館(アカシックレコード)】は、宇宙のすべての叡智が集まる禁書図書館に入れるようになるスキルです』

 と、ステータスには表記されている。

 宇宙という単語が、僕には意味不明だった。


「ふふふっ、良くぞ聞いてくれたのじゃ。そもそも『人類が到達した至高の叡智』とは、ご主人様はなんだと思うかの? おぬしたちも神なら答えてみせるのじゃ!」


 メーティスは野外会場の設営をしている女神たちに問いかけた。

 これは難しい質問だな。


「……それはテイマーのコモンスキル。モンスターの生態についての知識だと思う」


 僕はこれほど貴重な技能と知識はないと断言できる。

 モンスターをテイムできるようになったおかげで、人類は飛躍的に発展したんだ。


「決まっているわ、ガチャよ! ガチャのおかげで世界は回っているのよ。ガチャを回すことは、世界を回すことよ!」


「もちろん、ドリルに決まっている。ドリルを回すことは、世界を回すことだ」


「極めし剣の奥義よ!」


「メーティス様の存在そのものです」


「温泉宿こそ、最高の文化ですの!」


 メーティスは頭を抱えた。


「いや、おぬしら『人類が到達した至高の叡智』と、わらわは申したではないか? 何かズレた回答が、混じっておったぞ?」


「ガチャこそ至高の叡智だわ! ガチャを正しく使えば誰もが笑顔に、幸せになれるのよ!」


「ルディアよ。ガチャは、この世界を維持するためのシステムとして優れておるかも知れぬが。それは創造神様が作ったモノなのじゃ……」


 強弁するルディアに、メーティスはため息をついた。


「モンスターの生態知識と答えるご主人様は、さすがなのじゃ。敵を知り己を知れば百戦あやうからず。敵を味方とする技能と知識は、まさに叡智と言えるのじゃ。じゃが、わらわの考えは違うのじゃ」


 メーティスは、そこでもったいつけたように咳払いをした。


「いでよ【禁書図書館(アカシックレコード)】!」


 メーティスの背後に、突如、爆音と共に巨大なレンガ造りの建物が出現した。


「うわっ!? なんだ、この建物は? ……幻影なのか」


 その建物は半透明で、水底にあるかのように揺らめいて見えた。

 元からあった木などが重なっており、蜃気楼のように質感が無い。


「これこそ宇宙開闢より蓄積された叡智が集まる【禁書図書館(アカシックレコード)】じゃ。異次元にある故に、わらわが認めた者しか、この中に入ることはできぬ。ここにはあらゆる書物が集まっておるのじゃ!」


 メーティスがドヤ顔で告げた。

 あまりの壮大さに、一瞬、言われたことが理解できなかった。


「……まさか、世界中の書物が無料でいくらでも、手に入るということか」


「さすがはご主人様、理解が早いの。その通りなのじゃ!」


 もしメーティスの言っていることが本当なら、シレジアは世界の知識と学習の中心地となるかも知れない。

 メーティスの蔵書を求めて、世界中から学者や研究者、著名な魔法使いなどが集まって来るだろう。


「これが噂の【禁書図書館(アカシックレコード)】か。私は実物を見るのは初めてだが……鍛冶に関する本などもあったりするのか?」


「当然じゃ!」


「剣の奥義書なんかも!?」


「もちろんじゃとも!」


 ヴェルンドとアルフィンの質問に、メーティスは大きく頷く。


「次のガチャのキャンペーン情報なんかも!?」


「知らん! それは創造神様に聞いてくれなのじゃ!」


 メーティスは小脇に大事そうに抱えていた書物を開いた。


「そんなわらわの蔵書の中でも最高の書物。『人類が到達した至高の叡智』の答えが……これじゃ!」


 書物の中身は、コマ割りされた絵にセリフがついたモノだった。


「それは何だい? 絵本?」


 僕が初めて見るタイプの本だった。


「違う。漫画じゃ! 漫画こそ、わらわが生涯をかけて探究すべき『至高の叡智』なのじゃ!」


「そう、それですの! クズハの温泉宿に漫画を置かせて欲しいですの! 『漫画読み放題コーナー』でお客さんをガンガン呼びますの!」


 クズハが、我が意を得たりと言わんばかりに叫んだ。

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