104話。叡智の女神メーティスに魔法の修業をつけてもらう

「よし、そうか! イリーナありがとう」


 僕はイリーナに礼を述べる。

 新しい領民、約100名の受け入れ態勢は、急ピッチで進めていた。

 ゴブリンと村人、エルフたちが協力し合って突貫工事で、住居となる小屋を建てている。

 幸いここは樹海の中なので、木材には事欠かない。

 ベッドなどの最低限の家具は、イヌイヌ族の商人に用立ててもらった。


 村はドンドン人が増えて、もう人口500人くらいになっている。

 もっと範囲を拡張するか、領内に新しい村を建設する時期にさしかかっているかもな。

 樹海の探索範囲を広げて、新しい村を作るのに適した場所を探すべきだろう。


「今夜は歓迎会だな。リリーナ、慌ただしいけど、よろしく頼むよ」


 新しく始めるドラゴン運送業の計画など、財務担当大臣のリリーナには、最近かなり働いてもらっていた。


「お任せくださいアルト様。アルト様のお役に立つのが、リリーナの最大の喜びです。万事滞りなく、歓迎の準備は整っております」


 リリーナは優雅に腰を折る。


「メーティスの歓迎会も兼ねて、パーッとやりましょう!」


 お祭り好きのルディアが、小躍りして喜ぶ。


「おおっ、パーティーか楽しそうなのじゃ。むむっ!?」


 メーティスが、イリーナをジッと見つめる。

 

「……おぬし、これまた激レア娘なのじゃ。エルフとダークエルフのハーフじゃな?」


「はぁ? あなたは……?」


 イリーナは怪訝な面持ちになった。


「わらわは叡智の女神メーティスなのじゃ。しかも、おぬし……魔王ベルフェゴールと精神的に繋がっておるのか? ヤツのスキルを継承しておるとは、実にユニークな存在なのじゃ」


 メーティスはイリーナの素性と能力を一発で見破った。

 そう言えばメリルの生みの親はメーティスだし、【分析(アナライズ)】のスキルが使えるのかも知れない。最初から複数のスキルを持っているとは、さすがだな。


「この娘は、【神様ガチャ】で新たに召喚した叡智の女神メーティスだ」


 僕はイリーナに、メーティスを紹介する。


「メーティスなのじゃ」


「……ま、まさか、そんな。叡智の女神メーティス様と言えば、魔導を志す者にとって崇拝の対象だわ!」


 イリーナは雷に撃たれたようによろめいた。


「魔王ベルフェゴール様は、ガチャは危険なモノだとおっしゃっていたけど……こんな奇跡を可能にするなんて……」


「うむ。おぬしは魔族じゃが、その様子だと、ご主人様と仲が良いのじゃな」


「アルト様と仲が良いなど、恐れ多いです。私はダークエルフの女王イリーナと申します。魔王ベルフェゴール様の命もあり、アルト様に忠誠を誓っています」


「ほう。それはそれは……わらわは魔導の探求者じゃが、戦闘はちと苦手なのじゃ。わらわが開発した魔法を使える者が欲しいのじゃ。おぬし良かったら、わらわの弟子とならぬか?」


「ほ、本当ですか……!? こんな幸運なことはありません。ぜひ、よろしくお願いしますわ」


 イリーナが一にも二もなく頭を下げた。


「メーティス様……」


 メリルが拗ねるかのような視線をメーティスに向ける。


「ふふっ、安心せい。メリルにも後で、追加武装となる魔法をインストールしてやるのじゃ。より効果と発動スピードを改善した新術式も開発した故な。従来の魔法のアップデートもしてやろうぞ!」


「ありがとうございます」


 どうやらメーティスは、自分の叡智を他人に分け与えるのに、あまり抵抗がないらしい。


「メーティス、良かったら僕にも魔法の修業をつけてもらいのだけど、どうかな……?」


「なぬっ! ご主人様も魔法を覚えたいとな? ほほう、それは良いことなのじゃ」


「実はちょっと違う。【神様ガチャ】は召喚スキルだけど、僕は召喚師としての修業を積んできていないんで最大MPが低い。だからメリルやクズハを常に実体化させ続けているのが、結構、大変なんだ。最大MPを上昇させるような修業がしたいんだ」


 SSRの神様以外は、召喚と実体化の維持にMPを必要とした。

 バハムートなどは、特にMPの消耗が激しい。


「うーん、マジックベリーの効果は、食べ続けると、減っていくしね……」


 ルディアが唸る。

 最大MPを上昇させるマジックベリーと、ステータスを3倍にアップさせるクズハ温泉の効果で、今までは保っていた。

 だが、今後も召喚する神様を増やすなら、MPを増やす修業が必要になるだろう。


「なるほどなのじゃ。では、簡単な魔法を覚えて魔力を扱う修業をしてもらおうかの。ご主人様は、前世は傲慢の魔王だった訳であるし……鍛えれば、強力な使い手になりそうなのじゃ」


 メーティスは子供のように目を輝かせた。


「ふふっ、わらわの指導で、最強の魔法使いを育成するのもおもしろいのう!」


「いや、さすがにやることが多くて余裕がないんで、魔法を極める気は無いんだけど。そうだ。できれば、他のみんなにも魔法を教えてくれないかな? 僕のこの領地が飛躍的に発展すると思う」


 魔法には生活に役立つ物もあるし、防衛力も強化できる。

 アルフィンの剣神道場と同じように、メーティスの魔法学校のような施設を作れば、世界中から入学希望者がドンドン集まってくるだろう。


「ふむ。残念じゃが、わらわは普段は、叡智の探求に忙しいのじゃ! ご主人様やイリーナに魔法を教えるのは、ご主人様たちがおもしろい存在だからなのじゃ。そこのところ、よろしくの」


「ちょっとメーティス、さっきは魔王を倒すことが、神々の使命だなんて言っていたんじゃないの? 魔法くらいケチケチしないで、教えなさいよ。アルトの頼みなのよ」


 ルディアが憮然とした口調で言った。


「いや、構わない。メーティスにやりたいことがあるなら、ソッチを優先してもらって大丈夫だ」


 メーティスと僕は、使い魔と召喚師という関係だ。その気になれば強制的に言うことを聞かせられるかも知れないが。

 そういった、相手の人格を否定するようなやり方では、長期的な信頼関係を結ぶことはできない。

 これは僕のテイマーとしてのポリシーだった。


「おおっ。話のわかるご主人様なのじゃ。ますます惚れてしまうの!」


「はい。マスターは慈悲深いお方です。私はマスターにお仕えできることを誇りに思います」


 メーティスは顔を喜色に染め、メリルが同意するかのように深く頷いた。


「……ちょっと、メーティス。なんですって!?」


 ルディアが嫉妬の籠もった目をメーティスに向ける。


「ただ、メーティス様は一度のめり込むと、三度の食事も忘れて叡智の探求をされてしまいます。私がサポートしますが、どうかお気をつけください」


 メリルがやや困ったようにメーティスを諭す。


「ふむ、メリルよ。すまぬが、わらわの健康管理も頼むのじゃ。ああっ、もちろん、ご主人様の警護が第一じゃがな」


 そうかメリルに生活全般のサポート機能がついているのは、メーティスの世話をするためか。


「それとご主人様、安心して欲しいのじゃ。わらわは、わらわなりのやり方で、ご主人様の領地を発展させるのに貢献するつもりなのじゃ。スキル【禁書図書館(アカシックレコード)】の真価を……」


 その時、物々しい音を立てて、騎士に率いられた数台の軍用馬車が村に入ってきた。

 馬車には、アルビオン王国軍の軍旗が立っている。


「シレジアの領主アルト様! お約束通り、ヴァルトマー帝国から解放した民たちをお連れしましたぞ!」


 先頭に立つ騎士が、大声で告げた。

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