103話。SSR。叡智の女神メーティスをゲット

「ふっふん! さぁアルト【神様ガチャ】に課金しましょう!」


 アルト村に帰ると、休憩もそこそこにルディアが提案してきた。

 まったく元気だな……

 僕たちは、リリーナの淹れてくれた紅茶を飲んでひと心地ついていた。


「わかった、さっそくやってみるか」


「次は、どんな神様が出てくるか楽しみね!」


 確かに。

 このガチャを回す前の高揚感は、病みつきになるものがある。


「ルディア様、どんな結果になろうとも課金は一回、だけですよ」


「わかっているわよ。もうっ!」


 リリーナの忠告に、ルディアは頬を膨らませた。

 リリーナの心配りは本当にありがたい。家計を管理する母親のような存在だと思う。

 課金は経済状況に合わせて、計画的に行うことが大事だ。

 

「100万ゴールド課金、投入! ガチャ、オープン!」


 国王陛下からいただいた金貨が、光に包まれて残らず消滅する。

 僕の目の前に魔法陣が出現した。魔法陣より紫電がほとばしり、光の柱がそびえ立つ。


「今度こそ、SSRよ出ろ! SSRよ出ろ!」


 ルディアが両手を合わせて、天に向かって必死の祈りを捧げた。


「叡智の女神メーティス、参上なのじゃ。おぬしが、わらわのご主人様かの?」


 光の中より現れ出たのは、10歳くらいのおさげ髪の女の子だった。とんがり帽子を被り、分厚い本を小脇に抱えている。

 ビスクドールのように整った顔立ちをしていた。


『レアリティSSR。叡智の女神メーティスをゲットしましまた!』


『メーティスを使い魔にしたことにより、メーティスの能力の一部をスキルとして継承します。

 スキル【禁書図書館(アカシックレコード)】を獲得しました。


 【禁書図書館(アカシックレコード)】は、宇宙のすべての叡智が集まる禁書図書館に入れるようになるスキルです』


―――――――


名 前:アルト・オースティン


○ユニークスキル

【神様ガチャ】


【世界樹の雫】継承元。豊穣の女神ルディア


【神炎】継承元。神竜バハムート


【天空の支配者】


【薬効の湯けむり】継承元。温泉の女神クズハ


【どこからでも温泉宿】


【スタンボルト】継承元。巨神兵


【魔物サーチ】


【オメガサンダー】


【神剣の工房】継承元。鍛冶の女神ヴェルンド


【ドリルトルネード】


【剣神見習いLv552】継承元。剣神の娘アルフィン


【分析(アナライズ)】継承元。神造兵器メリル


【禁書図書館(アカシックレコード)】継承元。叡智の女神メーティス(NEW!)


○コモンスキル

【テイマーLv13】

【精神同調】

―――――――


「よっしゃあああああっ! 待望のSSRがキターァァァッ! 今夜はお祝いね!」


「うわっ」


 ルディアが僕に抱きついて、嬉し涙を流す。

 しかし、驚いた。叡智の女神メーティスといえば、超メジャーな神だ。これはSSRの中でも、格別にレア度が高いと言える。


「なんじゃ、ルディアか。ふむ! わらわが戦力となって、うれしかろう。しかし……相変わらず嫌味なくらいデカい胸じゃのう」


 半眼でルディアを見やるメーティスの胸は、悲しいくらいのツルペタだった。


「……メーティス様!」


 メリルが息を飲んで、メーティスに歩み寄る。


「おおっ、メリル! 今、稼働状態なのじゃな!? 警護任務はうまくこなせておるかの? おぬしはスペック的には最高じゃが、テストが十分ではなかったからの。ちょっと心配しておったのじゃ!」


 メーティスが目をキラキラさせながら、メリルの身体をペタペタと触った。


「はい。問題ありません。トラブルがありましたが、マスターが温かく迎えてくれたおがで、対人関係について学べました」


「対人関係とな……っ!? そ、そんな難しいことを早くも! おおっ! 感無量なのじゃ! さすがはわらわの最高傑作なのじゃ!」


 メーティスは両手を握り、感動に打ち震えていた。


「はじめまして。僕が君を召喚したアルト・オースティンです。君は、叡智の女神メーティス? ヴァルトマー帝国で信仰されている神様だよね?」


 叡智の女神メーティスが、幼女というのは、ちょっと意外だった。

 なんというか、イメージと違う。宗教画などでは、メーティスは【叡智の書】を持ったグラマラスな美女として描かれていた。


「そのヴァルなんとか、というのは良く知らぬが、その通りなのじゃ」


 メーティスが胸を張る。


「えっ。自分を信仰している国のことを知らない?」


 帝国の民が聞いたら、卒倒しそうな事実だった。

 ルディアは信者であるエルフと仲が良いのだが……


「興味が無いのじゃ! わらわは古代の神魔戦争で力を失って以来、【禁書図書館(アカシックレコード)】に意識だけアクセスして、ずっと本を読み漁ってきたからの。信者のことなど知らん……って、んんんん!?」


 メーティスは僕の顔を食い入るように見つめた。

 そして、ぽっと頬を赤く染める。


「おぬし……わらわ好みの美男子なのじゃ」


「はぁ!? ちょっとメーティス。再会していきなり、私のアルトを口説くなんて、どういうつもり!?」


「傲慢の魔王だったころは、張り詰めた空気をまとっていて、近寄り難かったのじゃが、今は違うのう……柔和な感じが、わらわ好みじゃ。もっと近くで観察したい。抱っこして欲しいのじゃ!」


 メーティスはそう言って、僕にしがみつこうとする。


「それじゃ、よっと!」


 僕はメーティスを抱き抱えた。親戚の女の子をあやしているような感覚だな。


「アルト! 何しているのよ!?」


「なにって……相手は子供じゃないか」


「くふふふっ。これが、子供の特権なのじゃ!」


 メーティスはいたずらっ子のように笑う。


「その娘の年齢は、5000歳くらいよ! ぜんぜん、子供じゃないわ!」


「ふむふむ。おぬし……魔王として前世から引き継いだ力に、神々のスキルが合わさっておるのじゃな。興味深い。なるほどの……これが創造神様が魔王サタンに対抗するために考えた秘策というわけじゃな」


 メーティスが僕の顔をしげしげと見つめた。

 間近で見ると、ドキッとするほどかわいい娘だな。


「魔王サタンに対抗するための秘策?」


 確か、サタンは七大魔王のひとりで『憤怒の魔王』だ。

 ルシファーが七大魔王を裏切った後に、ルシファーの代わりに魔王たちを統率した存在だった。


「そうじゃ。その様子では、何も覚えておらんのじゃな? サタンはおぬしの親友だったのじゃがな」


「親友? ルディア、サタンについて知っているか? 僕とサタンの関係について教えてくれ」


 前世の記憶については、まるで残っていない。

 魔王たちのトップと、僕になんらかの因縁があるなら、今のうちに知っておきたかった。


「いいわよ。サタンはね。創造神様の作ったガチャシステムにブチ切れて難癖をつけて、自分の考えた新しいシステムで世界を維持しようなんて考えていたわ。失敗すれば世界が崩壊しかねないし、そんなこと不可能なのにね」


 ルディアが不機嫌そうに腕組みする。


「そのために、アルトの【因果破壊(ワールドブレイク)】のスキルが必要だって。しつこくアルトを連れ戻そうとしていたわ」


 そんなことが……

 【因果破壊(ワールドブレイク)】は、前世の僕のスキルだ。24時間以内に起きた出来事のひとつを無かったことにできる能力だけど、世界の仕組みを変えるほどの力は無いハズだ。


 あれ? だけど魔王ベルフェゴールが最後に気になることを言っていたな。

 確か『願わくは【因果破壊(ワールドブレイク)】で、この世からガチャを……!』とか、なんとか。

 まさか、サタンの計画と何か関連しているのか?


「ふーむ、見れば見るほど、ユニークな存在で興味深いのじゃ。おぬし……と呼ぶのは失礼じゃの。ご主人様と呼ばせてもらうぞ」


「ああっ、よろしく頼むよメーティス」


 思考に没頭していた僕は、現実に引き戻された。

 叡智の女神メーティスにご主人様と呼ばれるとは……他の女神たちからマスターと呼ばれるのに慣れてしまったけど、考えてみればスゴイことだな。


「ご主人様は、ふむふむ。肉体的には……ふつうの人間と変わらぬの」


 メーティスが僕の顔を無遠慮に触る。


「ちょっと……くすぐったい!」


 相手は子供だが、かわいい女の子なので多少気恥ずかしい。


「ご主人様、後で着衣を全部脱いで、すみずみまで身体検査させてもらいたいのじゃ。こ、これはもうしんぼうたまらん。探求心が抑えられんのじゃ!」 


「えっ……?」


 息を荒くするメーティスに、僕はゾクリと悪寒を感じた。


「ちょっとメーティス! 何を調子に乗っているのよ。アルトはあなたのオモチャじゃないんだからね!」


 ルディアがメーティスを掴んで、僕から引き離す。


「なにをするのじゃ!? わらわたち神々の使命のひとつは、魔王どもを倒すことじゃ。ご主人様の身体を調べることは、そのための重要な手段のひとつであるぞ! 神と魔王の力の融合。天上天下に唯一無二の存在なのじゃ!」


「いや、まぁ、さすがにそれは。裸を見せるのは……温泉に一緒に入ったりするのは、良いけどさ」


「なんと、温泉!? そうか、クズハがおるのじゃな。わらわの最高傑作メリルもおるし、なかなか楽しい土地となっておるようではないか!? うむ、気に入ったぞ。わらわも、ここを最高の楽園とするべく、力を貸すのじゃ!」


 メーティスは、瞳を輝かせる。

 叡智の女神は、意外と理性より感情で動くタイプのようだった。というより、神々はみんなそうか……


「アルト様、私の提供した魔竜はお役に立ったでしょうか?」


 その時、ダークエルフの女王イリーナが、魔竜に乗ってやって来た。

 地響きと共に魔竜が着陸すると、イリーナは僕の前に飛び降りる。


「私の使い魔からの知らせです。ヴァルトマー帝国から解放した新しい領民たちが、もうすぐシレジアに到着するようですよ」

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