99話。巨神兵の秘密が知りたい裏切り者を巨神兵で倒す
「くそっおおおお! エリオット王子がどうなっても良いのか!? 逃走用の馬を用意しろ!」
「父上、姉上!」
なんと、男が抱えていたのは幼い少年──エリオット王子だった。
エリオット王子は恐怖に涙をためている。
「マスター、申し訳ありません。スパイを拘束しようとしたところ、近くにいた少年を人質に取られました」
メリルが沈痛な面持ちで告げた。
メリルは『無関係な人を傷つけてはならない』という僕の命令を守ってくれたようだ。
「エリオット!? なんということだ! この者は宮廷錬金術師のイグニスではないか!? オースティン卿、どういうことであるか!?」
国王陛下が声を荒らげた。
「はっ。メリルのスキル【分析(アナライズ)】は、対象のステータスを閲覧できます。そこには、所属する組織まで表示されるのです。それで裏切り者を特定しました」
何度か検証したところ、メリルの【分析(アナライズ)】は、所属する組織や年齢、性別、身分といった情報まで表示された。
これは通常、ステータス画面では表示されない情報だ。メリルの【分析(アナライズ)】は、本人が知ることのできる以上の情報を知ることができた。
これを使えば、王宮に入り込んだスパイを見つけ出せると考えたんだ。
「へ、陛下!? バカな、なぜ陛下が立っておられるのか!? それに近衛騎士団だと!?」
裏切り者のイグニスは、目を剥いている。
彼がここに逃げ込んだのは、おそらく国王陛下の病室に立てこもれば、僕たちが手が出せなくなるとでも思ったのだろう。しかし、その思惑は完全に外れていた。
「エリオット! くぅ……イグニス、信頼していたのに、宮廷錬金術師ともあろう者が、なぜ王国を裏切ったのですか!?」
アンナ王女が一喝するが、イグニスはせせら笑う。
「ハハハハッ! 王女殿下! ヴァルトマー帝国に貢献すれば、帝国に伝わる偉大なる神の遺物【巨神兵】の腕をもらえるのです。俺は錬金術を探求する者として、どうしても【巨神兵】の一部を手に入れたいのですよ!」
えっ。巨神兵?
「神の遺物ですって? そんなことのために仲間と国を売り渡して、あなたは平気なのですか!?」
「当然です。かつて、叡智の女神メーティスが魔王に対抗するために作り上げたという神々の最終兵器! その力の一端でも解明できれば、俺の名は歴史に永遠に刻まれる! これは人生を賭す価値のある偉業なのです」
イグニスは自分に酔っているような恍惚とした顔になった。
「何をバカな……帝国がそんな貴重な遺物を与えるハズがない。お主は騙されておるぞ!」
「フフフッ、国王陛下。錬金術で栄えるヴァルトマー帝国に引き抜いてもらえるというだけで、錬金術師の俺としては、これ以上ない栄達なのですよ。こんな国にいても、未来はありませんのでね」
国王陛下の説得にも耳を貸さず、イグニスはエリオット王子にナイフを突きつける。
「ひっ……!」
エリオット王子は、小さな悲鳴を上げて縮こまった。
「マスター、【スタンボルト】の使用許可を。即座に制圧が可能です」
「メリル、駄目だ。エリオット王子を巻き込んでしまう……!」
「お前は絶対に動くなぁあ! チクショウ! 魔法が一切効かないとか、相当レアなスキル持ちか!?」
メリルに対して、イグニスは怯えた表情で叫んだ。
「……私には巨神兵と同じ【魔法無効化フィールド】が装備されています。Aランク以下の魔法は、私には通用しません」
「はぁ……? 巨神兵と同じだと?」
淡々としたメリルの返事に、イグニスが訝しげな顔になった。
今だ! イグニスの気がそれて隙ができた。
「巨神兵よ、来い!」
「ガガガガガッ! 神々の最終兵器、巨神兵! ノンリーサルモードで起動しました」
どぉおおおおん!
僕はイグニスの足元に、巨神兵を召喚した。
「うわぁああああ!?」
足元から突き上げられて、イグニスとエリオット王子が宙に舞う。
僕はジャンプして、エリオット殿下を空中でキャッチした。
「もう大丈夫です。殿下!」
「ああっ、ありがとうございます。アルト兄上!」
兄上? エリオット王子は、僕に不思議な敬称をつけた。
「ガガガガガ! 巨神兵の秘密を暴こうなど、神への冒涜です【スタンボルト】発射!」
「な、なんだコイツはって、ぎぁああああ!?」
イグニスは巨神兵の電撃に撃たれて、気絶した。
近衛騎士たちが動いて、その身を拘束する。
「ま、まさか巨神兵だと!? 我が帝国に封印されし神の兵器が、なぜここにあるのだ!?」
ダオス皇子も肝を潰した様子だった。
どうやら、緊急事態が発生したために、まだ連行されていなかったらしい。
「巨神兵もメリルも、アルトの召喚獣なのよ」
ルディアが平然と告げる。
「そんなぁバカなぁああああ! 巨神兵は起動することが不可能だと、ずっと言われてきて……どんな錬金術師が挑戦しても無理だったのにぃ!?」
ダオス皇子は素っ頓狂な声を上げた。そのまま近衛騎士に引きずられて退場していく。
「アルト兄上、僕、知っていますよ。兄上は、アンナ姉上と相思相愛で、姉上と結婚なされるのですよね!」
エリオット王子が、僕にキラキラとした尊敬の眼差しを向けてきた。
「えっ、いやエリオット殿下、それはどういう……」
「アルト様、実はわたくしがアルト様に何度も求婚しているという話をしたら、エリオットはすっかりあなたを兄と慕うようになってしまって」
アンナ王女が恥じらった様子で、声をかけてくる。
「し、信じられない。王女様、弟にアルトを兄と呼ぶように仕向けたの?」
ルディアが愕然としていた。
「あら? 幼い王侯貴族が、手本とすべき年上の男性を兄と慕うことは、ままあることですわ」
それはそうだけど……
「今、この子は、アルトと姉上が相思相愛だとか言っていたわよね!? そんなデタラメを吹き込んで、どういうつもり?」
「アルト様はわたくしが困ったら、いつでも駆けつけるとおっしゃってくれています。お互いに慕い合い、想い合っていることに間違いはありませんわ」
アンナ王女はルディアの罵倒を、涼しい顔で受け流す。
「兄上! 僕はアルト兄上のような強い男になりたいです! 兄上はテイマーとして超一流であるだけでなく、剣を使っても無双であるとか。今度、剣の稽古をつけていただけませんか?」
「エリオット殿下、はい、そうですね」
エリオット王子から無邪気な好意を向けられては、嫌とは言えなかった。
「しかし、兄上という呼び名は、いろいろと誤解されるので……」
やめて欲しいと告げようとしたところ、アンナ王女が僕にしなだれかかってきた。
「ああっ、アルト様とエリオットは、まるで本当の兄弟のようですわ。これからも、ぜひ王宮にいらして、エリオットに剣を教えて下さい」
もしかしてアンナ王女は、僕との婚約をまだあきらめていないのか?
国王陛下のご病気が快復した今、こうまでして僕と結婚したがる理由がわからない。
「うむ! まさしくその通り! その時は、ぜひ娘アンナの寝室に泊まると良いぞオースティン卿! ワシはそなたを実の息子のように思っておる!」
国王陛下が、爆弾発言を投げ込んだ。
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