97話。ダオス皇子、女神の使徒メリルにぶっちめられる
「この俺はヴァルトマー帝国の第2皇子ダオス。アンナ王女を娶る者にして、帝国の次期、皇帝であるぞ! 頭(ず)が高い!」
ダオス皇子は、ふんぞり返って叫ぶ。
いろいろと突っ込みどころの多い自己紹介だった。
帝国の第一皇位継承者は、彼の兄だ。その皇位継承レースに勝つべく手柄を得るために、ダオス皇子は王国を侵略しにきたんじゃないのか?
そして敗北し、現在、捕虜となっている訳だが……
「はぁ……これは、はじめましてダオス皇子。シレジアの領主アルト・オースティンと申します」
僕は呆気に取られてしまった。
「むぎゃあああ! なんだ、その態度は!? 弱小国の辺境領主ごときが、バハムートの主だからと調子に乗るなぁ!」
その時、ドン! ドン! という爆音と共に、ダオス皇子の周囲の地面が盛り上がった。それらは土塊で出来た巨人となって、ダオス皇子を見下す。
「はぁあああ!? なんだ、ゴーレムだとっ!?」
ダオス皇子は腰を抜かした。
「マスターに対する敵意を感知しました。ゴーレムによる制圧を開始します」
僕の警護役のメリルが、冷たい声で通告した。これらのゴーレムは、メリルが生成した下僕だ。
「メリル、待て。怪我をさせたりしては駄目だ!」
どぉおおおおん!
「ひぎゃあああっ!?」
僕が叫ぶと同時に、ゴーレムの剛腕がダオス皇子の眼前に振り下ろされた。爆音と共に地面が陥没する。
ダオス皇子は、ちびってしまったらしくズボンを濡らしていた。
「マスター、問題ありません。威嚇しただけです」
メリルが僕のかたわらに立って、こともなげに告げる。
「いや、ここは仮にも王宮の庭園なんで。できれば穏便にね……」
メリルはやり過ぎてしまうことがあるので、釘をさしておく。
「い、一瞬でゴーレムを作り上げた!? 何者ですか!?」
アンナ王女をはじめ、大臣や近衛騎士たちがア然としていた。
「警告します。次に、マスターに対して敵対的な言動を取った場合、予告なく武力行使に出ます」
「武力行使に出てから警告するなんて……メーティスも好戦的な娘を作ったわよね」
ルディアが呆れ混じりにツッコミを入れる。
「な、なんだ、お前は!? この俺にこんなことをして、タダで済むと思っているのか!? せ、戦争だぞ!? 世界最強のヴァルトマー帝国と全面戦争になるのだぞ!?」
ダオス皇子が泣きわめいた。
「あのアルト様、こちらの方は……?」
アンナ王女が尋ねてくる。
「ご紹介が遅れました。この娘は【神様ガチャ】で新たに召喚した叡智の女神メーティスの使徒メリルです。女神メーティスの子供のような存在です」
「はい。私は叡智の女神メーティス様によって作られた全環境対応型兵器です。この子たちは、私のオプション機となります」
「え、叡智の女神メーティス様の子供だと!?」
ダオス皇子の顔が、怒りでみるみる真っ赤に染まった。
女神メーティスは、そう言えばヴァルトマー帝国で信仰されている神だった。その信仰心は想像以上に強かったらしい。
「許せん! 我が帝国の守護神メーティス様を、き、貴様は愚弄する気かぁあああッ!?」
「メーティス様を愚弄? なんのことか理解しかねます。私はメーティス様より与えられた使命『マスターであるアルト様をお守りせよ』を遂行しているだけです」
メリルは顔を不快げに曇らせた。
「な、何を言うか貴様! メーティス様のご意思が、アルト・オースティンを守ることだとでも言うのか!?」
「肯定です。それがメーティス様より、私に与えられた最優先オーダーとなります」
メリルはあくまでクールに淡々と答える。ダオス皇子は、衝撃のあまり口をパクパクとさせた。
「俺は女神メーティス様の血を引く神人、ヴァルトマー帝国の皇子なるぞ! こ、この俺に対して、よくもそのようなデタラメを申したな!?」
ダオス皇子は、発狂したかのような声を上げてメリルに殴りかかった。完全な自殺行為だ。
「ダオス皇子、危険です。お下がりください! メリルも下がれ!」
僕はメリルを止めようとしたが、一歩遅かった。
「敵対行動を確認。レーザーブレード、起動します」
メリルの右手から青白い光の刃が伸びる。それが振られるとダオス皇子の髪がバッサリ斬られた。彼は頭頂だけを丸刈りにされる。
「ひゃああああっ!? この俺のビューティフルな髪型が!?」
「……2度目の警告です。次は、攻撃を当てます」
メリルは僕の命令通り、後に下がりながら告げる。
「クスっ、ダオス皇子、今の髪型の方が素敵でしてよ」
アンナ王女が失笑を漏らした。
「はぐぉおおお!? ……いや、待て。レ、レーザーブレード? 青白い光の剣だと? ま、まさかそんな……それは我が皇家のみに伝わるメーティス様がお造りになった聖剣……!」
ダオス皇子はなぜか、メリルのレーザーブレードを凝視して固まった。
「い、いや有り得ん! こんな小娘が、女神メーティス様の娘だなどと、何かの間違いだ!? 我らヴァルトマー帝国の皇族こそが、偉大なるメーティス様の末裔なるぞ!」
「あなたがメーティス様の末裔? ……そのような事実は確認できませんが?」
メリルは首を捻る。
「【分析(アナライズ)】の結果、あなたはいかなる神の血も引いていない、遺伝的に100%人間であることがわかりました」
「な、なっ……なんであると!? ぶ、無礼にも程があるぞぉおおッ!」
ダオス皇子は地団駄を踏んで喚き散らす。
ヴァルトマー皇家の権威付けの根拠を真っ向から否定してしまったのだから、無理もない。
「……メリル、ちょっといいかい? 頼みがあるんだけど」
僕はメリルに耳打ちする。これ以上のトラブルを防ぐためでもあるが、実は王宮に到着したら頼みたいことがあった。
僕の話を聞いたメリルは、コクリと頷く。
「了解しました。マスターの身の安全のためにも、最優先で行うべき任務だと判断します」
「ありがとう。もし見つけたら、僕の元まで連れて来て欲しい。誰かに呼び止められたら、僕の従者だと名乗ってくれれば大丈夫だ。あと、くれぐれも王宮を壊したり、無関係な人を傷つけたりしないようにね」
後半は特に念を押しておく。
「了解です。【分析(アナライズ)】開始……この場に、該当者なし」
メリルは周囲をぐるりと見渡した後、王宮の中へと駆け込んで行った。
「アルト、メリルに何を頼んだの?」
ルディアが不思議そうに尋ねてくる。
「あとで話すよ。多分、すぐにわかると思う。それではアンナ王女殿下、国王陛下の元にご案内いただけますか?」
「ありがとうございます。ただいまご案内いたしますわ。アルト様、よろしければわたくしのエスコートをお願いしても?」
アンナ王女が、しとやかな笑みを浮かべながら腕を絡めてくる。
「ちょっと王女様、アルトは私の婚約者なんですけど?」
ルディアが不快げに眉をひそめた。
慣れないドレスとハイヒールのおかげで、ルディアは僕に手を引かれないと歩きにくそうだ。
「申し訳ありません王女殿下、僕はルディアのエスコートをしなくてはならないのですが……」
「むぎゃあああ!? アンナ王女をはべらして歩くのは、未来の夫であるこの俺の特権であるぞ!」
「お待ちくださいダオス皇子! まずはお召し替えを!」
ダオス皇子が寄ってこようとしたが、近衛騎士らに取り押さえられる。彼は汚れたズボンの着替えのために連れて行かれた。
「ああっ、怖い! あのように野蛮な方がいらっしゃるので、わたくしを守って欲しいのです」
アンナ王女が上目遣いで僕を見つめてくる。
困ったことだが、僕が王国貴族である以上、王女殿下の頼みを強く断るのは難しかった。
「アルトは、私と歩くのよ!」
ルディアが、アンナ王女とは反対側の僕の腕を掴んで叫んだ。
「ルディア様は危険な辺境でもたくましく生活してこられたお方。殿方のエスコートなど必要ないのではなくて?」
「なんですって!?」
ルディアとアンナ王女は、僕を挟んでバチバチと視線で火花を散らした。両手に花だけど、まるで嬉しくはない。
アンナ王女は僕に、グイグイと身体を押し付けてくる。
「あの、王女殿下。その、腕に胸が当たって……」
「はい?」
かわいらしく小首を傾げられて、僕はますます困ってしまった。
「ちょっと王女様、アルトが嫌がっているわよ! それなら、私だって!」
ルディアも対抗して、僕に身体を押し付けてくる。
えっ、ちょっと……
「きゃあ! アルト様、ヒールの踵が折れてしまいましたわ! わたくしをお姫様抱っこで運んでくださらない?」
なぜか偶然にもアンナ王女のヒールが壊れて、彼女は僕に抱き着いてきた。
さっきからアンナ王女は、僕に胸を押し当てようとしてくるように思えるのだけど、気のせいだろうか?
僕はドキドキしっぱなしだ。
「わ、わかりました! アンナ王女を抱えながら、ルディアの手も引きます! どうかご容赦を」
おかげで、かなり難しいことを引き受けることになってしまった。
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