95話。ダオス皇子、アルトのドラゴン軍団にぶったまげる
「まずい! なんだこの料理は!? これがアルビオン王宮のもてなしか!? こんな物、豚のエサにも劣るわぁ!」
ヴァルトマー帝国第2皇子のダオスは、テーブルを蹴り上げて、出された料理をぶちまけた。
昨晩は浴びるように酒を飲んで、ダオスは昼過ぎまで気持ち良く眠っていた。起きて早々、次期皇帝たる自分がこんな無礼な扱いをされるとは、腹立たしいことこの上ない。
「きゃあああっ!?」
給仕役のメイドが悲鳴をあげる。
「おっ! よく見れば、メイドは上玉ではないか!? 気に入った! お前に俺の奴隷となる栄誉を与えてやる!」
ダオスはメイドの腕を掴んで、舌舐めずりした。
戦で負けた鬱憤を、とにかく晴らさなければ気が済まなかった。
たった一体のドラゴン。アルト・オースティンの下僕だという神竜バハムートにけちょんけちょんにされて、ダオスのプライドはズタボロだった。
「嫌っ! おやめください!」
「ガハハハハッ! この俺がアンナ王女を娶り、皇帝となったあかつきには、この国の民はみな俺の奴隷となるのだ! お前は栄えある第一号であるぞ!」
傷ついたプライドを満たす最良の手段は、弱者をいたぶることだ。
嫌がるメイドの姿は、ダオスの嗜虐心をそそった。
昨日、意気消沈していたダオスは本国の宰相から『ご自由にお振る舞いください。殿下のご威光の前に、アルビオンの腰抜けどもは何もできますまい』という、魔法通信を受けた。
なんとアルビオン王国の国王が倒れたらしい。これは帝国の守護神メーティスが、自分に味方しているのだとダオスは解釈した。
アンナ王女を我が物とし、アルビオン王国を乗っ取ることに成功すれば、その功績で皇帝となる未来が開ける。
「グハハハハッ! やはり、この俺こそ神に愛された者なのだ! 神は兄者より、この俺を選んだのだ!」
メイドに平手打ちを食らわせようとした時、それを邪魔する無粋な声がした。
「ダオス皇子、お立場をわきまえてください。あなたは捕虜として軟禁されている身です」
凛としてダオスを睨みつけるのは、この国の王女アンナだ。
赤いドレスで着飾り、輝くばかりに美しい。この少女を自分のモノにできると思うと、ダオスは興奮に我を忘れそうになる。
「おおっ! アンナ王女か、この俺の妃となる決心がついたか? ぐははははッ! お前もこの国も皇帝となるこの俺が、たっぷりかわいがってやるぞ! うれしかろう!?」
ゲラゲラとダオスは馬鹿笑いする。
「その前に、アルビオン女を何人かつまみ食いだな。アンナ王女、今夜は選りすぐりの美女10人を俺の寝室によこせ!」
「……まったく。あなたのような下劣な方が皇子だなんて。過剰なもてなしが裏目に出てしまいましたわね。
残念ですがダオス皇子、あなたの寝室は地下牢獄に変更になりましたわ。
わたくしの侍女を今すぐ離されなければ、美女の代わりに拷問官が一晩中、つきっきりでお相手差し上げることになりますが、いかが?」
アンナ王女は、気品ある顔に挑発的な笑みを浮かべた。
「なんだと!? 気でも触れたか小娘!? このヴァルトマー帝国第2皇子の俺に向かって! こんな国など、帝国が本気を出せば、いつでも滅ぼせるのだぞ!」
ダオスは激怒した。
「お父様がお倒れになったことで、ずいぶんと強気になられているようですが。それは間違いというものですわ。
料理がお気に召さないということであれば……そうですわね。今日から、豚のエサを召し上がっていただきます」
料理が豚のエサ以下だと評価したダオスへの痛烈な皮肉だった。
「き、貴様は、何を言っているのだ! この俺が食すモノは、料理も酒も女も最上級に決まっておろう!?」
ダオスはアンナ王女の胸ぐらを掴んだ。
だが、アンナ王女はまったく怯えることなく、気丈に告げる。
「この手をお離しなさい、無礼者! 今、こちらに元王宮テイマー、アルト・オースティン様が、神竜バハムートと魔竜5頭、さらには飛竜5頭の戦力を伴って、向かっております。ヴァルトマー帝国のゴーレム兵団にもひけを取らないドラゴン軍団ですわ」
「な、なに!? アルト・オースティンのドラゴン軍団だと!?」
ダオスは驚愕して、アンナ王女を掴む手を離した。ドラゴンを個人で10体以上もテイムするなど、常識では考えられない。
その時、外から人々が熱狂する声が響いてきた。
「うぉおおおお! あれが我が国の新しき英雄アルト・オースティン様のドラゴン軍団か!?」
「スゴイ! 神竜バハムートだけじゃなくて、魔竜まで付き従えているぞ!」
「万歳! アルト様、バンザーイ!」
窓から空を見上げると、黄金に輝く神竜バハムートに率いられたドラゴン軍団が飛んできていた。
それを見た王都の人々が、大歓声を上げる。
「バ、バカな!?」
ダオスは身震いした。
神竜バハムートの力は嫌というほど思い知っている。
さらにこれだけの数のドラゴンをテイムしているとは。その戦力は、まさに脅威と言えた。
「ああっ! アルト様がご到着されましたわ! 神の力をもって、お父様のご病気も快復していただけると、うかがっております」
「はぁ!?」
熱に浮かされたように叫ぶアンナ王女に、ダオスはさらなる衝撃に見舞われる。
「神の力だと!? なんだそれは!?」
「ふふふっ、すぐにわかりますわ。我が国を敵に回すということは、アルト様を敵に回すということであると、肝に銘じください」
アンナ王女はスカートの裾を摘んで優雅に一礼した。
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