89話。魔王のダンジョン探索に乗り出す
「ゴーレムを使って、ダンジョンの隠し階層を見つけ出すなんてことが、できるのか!?」
「はい。この子たちは、補給なしで連続72時間稼働します。パワーも並の人間の10倍以上。見聞きしたことは、私にリアルタイムで共有されます。魔法的な偽装も、それによって見破ることが可能です」
メリルが片手を挙げると、7体のゴーレムたちは僕に向かって片膝をついた。これは忠誠を示しているのか?
ゴーレムたちの出現に、集まった人々の中には恐れをなして腰を抜かしている者もいた。3メートル近い巨人は、心理的インパクトが大きい。
「ご安心ください。この子たちはマスター及び、領地の方々に対して、決して危害を加えません。そうプログラムされています」
「ほ、ホントですか……?」
村人たちは顔を見合わせる。
「……えっ? 何これ、すごいんじゃないか? このゴーレムたちがいたら、農作物の世話や収穫も自動化できるかも知れないな」
僕は手を叩いた。
ダンジョン探索以外にも、使い道があるんじゃないか?
「いえ、本来は拠点防衛用ですので、繊細な作業には向きません。ですが、危険地帯の探索や、力仕事などは得意です。もし、ダンジョン下層に繋がる階段が土砂に埋まっていたとしても、掘り起こすことができます」
メリルはゴーレムについて、どこか誇らしげに説明した。
メリルはそのように言うが、植物を操れる女神ルディアがいるので、必要な農作業は種蒔きと、鳥獣害対策くらいだ。それだけで、農作物はすくすくと育つ。
ゴーレムを使った農作業の自動化は、検討の余地があるように思えた。もし収穫と出荷まで自動化できれば、この地は飛躍的に豊かになれる。
あとでルディアとも相談して試してみるかな。
「この子たちは、女神メーティス様が、私のバックアップとして授けてくれたオプション機です。土さえあれば最大7体まで作れる上に、個々の性能は現在地上で運用されている、あらゆるゴーレムを凌駕します」
「この即席ゴーレムは、ヴァルトマー帝国のゴーレム兵より、強いということか…」
なんというか、過剰な戦力だな。やりようによっては、メリルひとりで一国の軍隊を壊滅させることもできそうな気がする……
「わかった。じゃあメリルに、魔王のダンジョンの探索を頼む。下層に通じる階段を探し出して欲しい」
「はい。我が創造主メーティス様の名にかけて、ご命令を必ず遂行いたします。お行きなさい」
メリルが合図を送ると、ゴーレムたちは一斉に村の外に歩き出した。
「メリル、私の剣の修理ために手を貸してくれるの? 良いところがあるじゃない!」
アルフィンが感激した様子で、メリルに歩み寄る。
「……リカバリーは当然です。情報不足で、今回、私は判断を誤りました。アルフィンの剣は、鍛冶の女神ヴェルンド様がいれば、たちどころに修理できると考えていました。
マスター、申し訳ありません。マスターの保有する戦力を低下させてしまいました。この失態は必ず挽回いたします」
メリルは僕とアルフィンに頭を下げた。
割と素直な娘だった。
「そんなに責任を感じる必要はないよ。それより約束通り、今後はわだかまりを捨ててアルフィンと仲良くしてくれないか?」
「はい。もちろんです」
「ふむ? メリルも悪い奴ではなさそうだな。安心した。よし、今日は私と酒を飲もう! あいにくと賭けに負けたのでツケで飲むことになるが……メリルの使う武器について話してくれないか。レーザーブレードだったか? あれは非常に興味深い」
鍛冶の女神ヴェルンドが、メリルの背中を軽く叩く。
ヴェルンドは、僕に対してはしおらしいが、年下の女の子に対しては、面倒見が良い姉御肌だ。
「申し訳ありませんが、これより私は、マスターの警護任務に入ります。また私は飲食の必要がなく、アルコールで酩酊することもありません」
「えっ、酔ったことがない? それ程の酒豪とは驚きだ!」
ヴェルンドは朗らかに笑う。
「死闘の後は、友となる。理想的な関係だわ!」
アルフィンも何やら、うれしそうだった。
「ふう、ようやく一段落ついたわね。正直、私はバトルのこととか、よくわからないけど……それじゃアルト、一緒に温泉で汗を流しましょう!」
ルディアが僕に腕を絡めてきた。
「お待ちください。要人警護の観点から、マスターに密着されるのは困ります。ルディア様が、ルディア様に扮した偽物である可能性が否定できません」
メリルが僕たちの間に割って入てきた。
えっ? 何かめちゃくちゃなことを言っているような。
「ちょ、ちょっと、あなた何するのよ? それに偽物って、言いがかりも良いところだわ!」
「そうだよ、メリル。【分析(アナライズ)】のスキルで、本人かどうかは判別できるじゃないの?」
「申し訳ありません。【分析(アナライズ)】の結果を偽装するなんらかの手段が使われている可能性もあります。魔王やその手の者なら、不可能ではありません」
「えっ? そんな風に仲間を疑い出したら、切りが無いんじゃ……」
「容認できません。まだ、この地の情報収集は十分ではありません。絶対に安全だという確証が得られるまで、警戒レベル最大で対応します」
「えっ?」
メリルが僕にピタリと寄り添った。彼女の柔らかい肌の感触と温もりが、伝わってくる。
「これより、私はマスターと片時も離れず過ごします」
まさか、片時も離れないというのは、文字通りの意味か?
「はぁ!? ちょっとあなた、アルトは私の恋人なのよ!? この私を差し置いて、何をしている訳!?」
ルディアがメリルに喰ってかかる。だが、メリルはまるで相手にしなかった。
「これから入浴ですね。問題ありません。私がマスターのお身体を洗って差し上げます」
「はぁぃいいい!?」
メリルのぶっ飛び発言に、僕は口から心臓が飛び出るかと思った。
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