88話。クリエイト・ゴーレム
救護班として待機していた氷の魔法使いリーンが、アルフィンに回復魔法をかけた。
「良かった。気絶しているだけで、身体のダメージはほとんど有りません!」
リーンがアルフィンの容態を告げる。
メリルは最初の宣言通り、アルフィンを殺傷せずに無力化してくれたようだ。
アルフィンは目を覚ますと、折れた愛刀を目の当たりにして、血の気を失う。
「わ、私の大太刀がぁ!? ヴェルンド様、お願いです! 直していただけませんか?」
アルフィンは跳ね起きて、鍛冶の女神ヴェルンドに詰め寄った。
「酒代が消えてしまった……」
ヴェルンドは賭けに敗れたために放心状態だったが、ハッと我に返った。
「ふむ? これはオリハルコン製の剣だな。素材となるオリハルコンがあれば、何とかなりそう……」
「ダメなんですか!?」
「ヴェルンド、何とかしてあげられないか?」
アルフィンがかわいそうなので、僕もヴェルンドに歩み寄って頼んだ。
「マスター……そうですね。大太刀ではなく、柄の側の刃を加工して、短刀として直すことならできます」
「ええっ!? ソレじゃ、まったく別の武器になっちゃいます! これはお父様からいただいた私の魂なんです!」
アルフィンは必死の形相だった。
「う、うーん。残念だが、ここに素材が無い以上は、いくら私が鍛冶の女神でも完全な修復は無理……っ」
「そんなぁ〜ッ!? おぅうううう!」
アルフィンはヴェルンドに縋り付いて、号泣する。ヴェルンドはアルフィンの頭を撫でてあやした。
「よしよし……かわそうだが、元々、身体に合わない大きさの剣だったのだし……これを機にアルフィンの身体に合うような武器に仕上げてやることもできるが。どうだろうか? そうすれば、今よりも強くなれる」
「嫌です! バカでっかい大剣を振り回して敵を圧倒するのが、ロマンなんです! 剣とは、ただ強ければ良いじゃありません! 剣とは心、剣とはロマンなんです。心無き剣に力は宿りません!」
「何か、若干、間違っているような気がするけど……」
僕はうめいた。
アルフィンは、剣を極めてカッコいいと言われることを目指している異色の剣士だ。強さとは彼女にとって手段であって、到達点ではない。
本人がここまでこだわりを持っているなら、短刀を使うように説得するのも無理があるだろう。
「……お父様からもらった魂。そんな大事な物だったのですか?」
メリルが若干、青ざめたような表情をしていた。
「オリハルコンがあれば、元通りに修復できるんだよね?」
「その通りです。オリハルコンがあれば、アルフィンの剣以外にも、強力な武器が作れて私も大満足です! 鍛冶の女神としての我が力を、存分に振るうことができます!」
ヴェルンドが胸を張った。
「……心当たりなら、あるけど。ナマケルが存在を教えてくれた魔王のダンジョンの隠し階層だ。そこなら、オリハルコンを発見できる可能性がある」
オリハルコンのような希少金属は、高難易度ダンジョンの最下層で、ごく稀に見つかることがあると聞く。
「おおおおぉっ!? マスター、ありがとうございます! その手がありましたね! では、さっそくダンジョン探索に行きましょう!」
アルフィンの顔に希望が灯る。彼女は僕の袖を引っ張った。
「ちょっと、今からというのは……」
試合の直後だというのに、元気が有り余っているようだ。
「お師匠様、残念ですが私は『シレジア探索大臣』として、隠し階層の発見に努めていますが、未だ階段が発見できず……」
魔剣士エルンストが、申し訳無さそうに顔を出した。
「それなら賞金を出して、冒頭者たちをもっと大量に投入して探索してみたら、どうかな?」
「さすがアルト、グッドアイデアね! 最高難易度ダンジョンの隠し階層なら、未だに手付かずの宝が、いっぱい眠っているに違いないわ! もし大金が手に入ったら……くふふふっ! またガチャに課金できるわね!」
ルディアがなにやら妄想して笑みを漏らしている。
彼女の言う通り、投資したお金は隠し階層が見つかれば余裕で回収できるだろう。
「人手を増やすのは良い手ではありますが、魔王との戦いで最下層がだいぶ崩れてしまいましたので。もしかすると、瓦礫に階段が埋まってしまった可能性があります。そうなると、発見にはかなり時間がかかるかと……」
エルンストが苦々しく告げた。
「……それでしたらマスター、私にお任せください。【クリエイト・ゴーレム】」
メリルが両手を地面に付くと、彼女の周囲の土塊が盛り上がった。それは7体の巨大な人型となり、両足で歩き出す。
「これは、ゴーレムか!?」
「すげぇ! 一瞬で、大量のゴーレムを生み出しちまったぞ!」
会場に集まった冒険者たちが、大騒ぎする。
ゴーレムは本来、錬金術師が工房で時間かけて作り上げる兵器だ。
「私には土からゴーレムを作りだし、意のままに操る能力もあります。
マスター、私にダンジョン探索をお命じください。この子たちを使って、隠し階層を必ず発見してご覧に入れます」
メリルはちょこんとお辞儀した。
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