85話。僕の護衛になりたいメリル

「マスターの護衛ですか、あなたが……? 【分析(アナライズ)】開始」


 神造兵器メリルは、剣神の娘アルフィンを怪訝な面持ちで見つめた。


「解析終了。物理攻撃のみに特化したユニークスキルと、戦闘スタイルです。剣を用いた近接戦闘しかできないという致命的欠点があり、遠距離からの魔法攻撃で制圧できると判断します。マスターの護衛任務に就くには、力不足です」


 メリルのスキル【分析(アナライズ)】は対象のステータスを閲覧できる、というモノだ。

 それによって、アルフィンの情報を丸裸にし、攻略法まで導き出してしまったらしい。

 それはスゴイことだけど、護衛として力不足とまで告げるとは……言葉を選ばなすぎだ。


「あなた誰? ……ふっ、何もわかっていないようね。遠くからの魔法攻撃なんて、この大太刀ですべて弾き返してやるんだから!」


 アルフィンは自慢気に背中の大太刀を叩く。


「理解しかねます。一定距離を保って射撃に徹すれば、私の勝率は94%以上です」


「なんとも、歯に衣着せない評価だな……」


 メリルは、いささかデリカシーに欠けた娘のようだ。


「ちょっとマスター、この娘、誰ですか? 仮にも最強剣士のこの私に、ほぼ確実に勝てると言っちゃうなんて、相当なうぬぼれ屋さんだわ!」


「相当なうぬぼれ屋のあんたが言うと、笑えないわよ」


 ルディアが呆れてツッコミを入れた。


「はぁ? 実力に裏打ちされた自信というヤツよ。何と言っても私は魔王ベルフェゴールとすら、斬り合ったんだからね!」


 それは確かにそうなんだが……

 あの時は、魔王相手に複数人で立ち向かったしな。

 でも上機嫌のアルフィンに水を差すのも悪いので、黙っておく。


「この娘は、新しく【神様ガチャ】で召喚した叡智の女神メーティスの使徒メリルだ。アルフィンも仲良くしてあげて欲しい。メリルも発言には、ちょっと気をつけてくれ」


「叡智の女神メーティスですって!? 剣神のお父様のライバルじゃないの!?」


 アルフィンが素っ頓狂な声を出した。

 そう言えば剣神オーディンは、魔法の探求者である女神メーティスと仲が悪いのだった。

 剣と魔法どっちが強いかで、ふたりは論争を続けたとか。


「発言には気をつける? マスター、私の発言の正確性に何か問題がありましたでしょうか? 私は事実しか申し上げておりませんが」


 メリルは小首を傾げた。

 まさか、ここで火に油を注ぐ発言をするとは……


「はぁ? なんですって!?」


 案の定、アルフィンはカチンと来たようだ。


「メリル、駄目だぞ。アルフィンに謝って」


 僕は他の人に聞こえないように、メリルにそっと耳打ちした。


「謝る? なぜでしょうか? 力不足の者が重要な任務に就いたり、不正確な情報が流れる方が問題では? それはマスターの利益を損ねることに繋がります」


 うん、わかった。どうやら、メリルは重度のコミュ障らしい。

 僕もあまり人と話すのは得意ではないけど、メリルは空気が読めないタイプだな。


「と、とにかくメリルは僕の警護をしてくれることになったんで……親同士のわだかまりは捨てて、ふたりで仲良く協力してくれないかな?」


 僕はいきりたつアルフィンをなだめる。


「はい、マスター。いかなる危険からも、私が24時間、お守りします」


 メリルが自信ありげに請け負った。


「24時間?」


 ルディアが首を捻る。


「私は睡眠も食事も取る必要がありません。マスターからのMP供給のみで24時間、休みなく稼働できます」


「それは確かに警護向きだね」


 僕は驚嘆した。夜襲を警戒してもらえるのは、ありがたい。


「ちょっと待ちなさいよ! マスターの護衛は最強剣士であるこの私の役目よ!」


 アルフィンがメリルに突っかかる。


「理解しかねます。遠距離からの攻撃に対抗できないあなたに、マスターの護衛が務まるとは思えません」


「ふっ、言ったわね! じゃあ模擬戦で試してみる? ハンデをくれてやるわ。最初は一方的にメリルに撃たせてあげる!」


 胸を反らしてアルフィンが豪語した。


「ちょ、ちょっと、仲良くして欲しいと言ったばかりでしょ? 仲間同士で争うのは……」


「マスター! 私の剣技をバカにされては、黙ってはいられないわ! それに本気で剣を交えることで、強敵と書いて友とも呼ぶ関係になれるのよ! 言葉で分り合えないなら剣で分り合う、それが私たち剣神の一族です!」


「そ、それはまた変わった価値観だなぁ」


「マスター、問題ありません。私には敵を殺傷せずに無力化する機能も備わっています」


「ふっ! 我が流派【破神流】にも、峰打ちによって敵を昏倒させる技があるわ!」


 ふたりの少女は、バチバチと視線で火花を散らした。

 メリルもどうやらアルフィンに対して、対抗心があるようだ。静かな闘志を燃やしているように見えた。


「……なんか、これは後々まで揉めそうね」


 ルディアが肩をすくめる。

 そうだな。いずれぶつかり合うなら、当人同士の望む形で、最初にわだかまりを解いてしまった方が良いかも知れない。


「マスター、試合の許可を! 私こそマスターの護衛にふさわしいことを証明してやるわ!」


「同意します。論より証拠です」


 メリルとアルフィンが、同時に僕に詰め寄った。


「わかった。それじゃ、どちらが勝っても遺恨無しという条件で、試合を許可する」


「はい、ありがとうございます、マスター!」


「女神メーティス様の最高傑作メリルの力、マスターにご披露します。その後、マスターの警護は、どうかこの私にお任せください」

 

 ふたりの少女は笑顔で承諾した。

 こうして、僕の護衛を巡っての試合が開催されることになった。

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