80話。帝国軍に勝利しダオス皇子を捕える
よし、味方の士気は最高潮に上がったな。
次は敵軍に対する降伏勧告だ。
「ヴァルトマー帝国軍は奪ったすべてを置いて、すみやかに退却せよ! さもなくば手痛い教訓を得ることになるぞ!」
バハムートは離れた丘の上に陣取っている帝国軍を睨みつける。
自慢のゴーレム軍団が半壊状態となり、明らかに敵が動揺しているのが見て取れた。
「アルト・オースティンだと!? オースティン家の跡取りはモンスターを御せぬ無能ではなかったのか!? あんな化け物を従えているなど……き、聞いていないぞ!」
「我が軍の被害甚大! 今のブレスの一撃で、ゴーレム兵の39%が大破! 25%が損傷しています!」
「なんだと!? 予備のゴーレム兵を起動しろ! 急げ! あのドラゴンに向けて、全機、魔導砲の照準を合わせろ!」
「ダオス皇子殿下。無念ですが、ここは一時退却すべきかと……あのような敵の存在は想定しておりません。御身の安全が第一です」
「臆したかアイザック! 世界最強のヴァルトマー帝国軍に撤退の二文字はない! 火力を集中させれば、敵が伝説の神竜だろうがなんだろうが……!」
遠く離れた敵軍の声を、バハムートの超感覚が拾う。
抗戦するか撤退するかで、指揮官と副官が揉めていた。
断片的な言葉から察するに、どうやら攻めてきたのはダオス第2皇子みたいだ。小太りで華美な装いをしているので目立っていた。
彼を捕まえれば、この戦争は終わるだろう。
僕は検証も兼ねて、駄目押しの一撃を入れることにした。
『バハムート、敵の本陣に突っ込んでくれ。あの派手な男が指揮官だ』
「承知した!」
巨体とは思えぬ猛スピードで、バハムートが敵本陣の真ん中に突っ込む。
慌てて数々の攻撃魔法がバハムートに放たれるが、鱗に傷一つ付けることができなかった。
「ダメです! 敵ドラゴン、止まりません!」
「皇子殿下、お逃げください!」
『【スタンボルト】発射!』
僕はバハムートと精神を同調させたまま巨神兵のスキルを使った。
バハムートから紫電がほとばしり、周囲の敵兵が麻痺して倒れる。
よし成功だ。バハムートを通して、離れた戦場でスキルを発動できたぞ。
「まさか雷撃とは……? これはおもしろい! バハムートとは炎を司るドラゴンのハズ。何か特別な方法で強化でもしているのか?」
アイザックと呼ばれた敵の副官が、興味深そうな目でバハムートを見つめた。
オースティンはテイマーの一族だ。テイマー能力で、僕がバハムートを強化していると、彼は思い込んでいるようだった。
無論、テイマースキルでの能力値の底上げも行っている。それに加えて、召喚師の特性である【精神同調】を応用して、僕のスキルをバハムートを通して使えるようになったというのが真実だ。
「またとない研究対象だ。少し試してみるか。いでよイフリート!」
アイザックが手を振るうと、炎をまとった巨人が突然現れる。強烈な魔力を帯びた紅い目が、バハムートを睨み据えた。
『なんだ、コイツは……?』
「クククッ……錬金術によって生み出した人造精霊だ。炎の化身であるコヤツには物理攻撃も魔法攻撃も無意味だぞ?」
アイザックは自信ありげに笑う。
「テイマーの名門貴族オースティン殿。どのような方法でバハムートを強化しているかは知らぬが、このアイザックの最高傑作を超えられるかな? なにしろ、これは古代遺跡から発掘した……」
敵の口上の途中だったが、僕は攻撃することにした。
『そうか。なら、こちらも出し惜しみなしだ【ドリルトルネード】!』
バハムートの両手より、回転する渦巻き状のエネルギー派が発生し、イフリートを貫いた。イフリートは驚きの表情を浮かべて、雲散霧消する。
【ドリルトルネード】は鍛冶の女神ヴェルンドの新スキルだ。ヴェルンドいわく『どんな物体でも貫き通す夢の遠距離ドリル攻撃』だそうだ。
「バカな!? い、一撃だと……!」
「神々を従えし我が主の力の前では、児戯に過ぎなかったな」
愕然とするアイザックをバハムートがあざ笑う。
『バハムート、油断しちゃダメだ』
「うむ。獅子はウサギを狩るにも全力を尽くすものであるからな」
バハムートからは、帝国軍がウサギに見えるらしい。
「敵はたった一体だ。ゴーレム兵、一斉にかかれ……! 力で押し潰せぇ!」
ダオス皇子が叫んだ。
本陣を守るゴーレム兵が起動し、何体も同時にバハムートに襲いかかってきた。だが、バハムートを殴ったゴーレム兵の腕が逆に砕け散る。
バハムートはかぎ爪で、ゴーレム兵たちを紙のように引き裂いた。
「なんだと!? ミスリル製の特注ゴーレム兵だぞ!? わ、我が軍、最強の兵器だぞ!?」
「最強の兵器? コレがか? 叡智の女神メーティスの作り上げた巨神兵と比べれば、まるで雑魚だな」
バハムートはダオス皇子を見下ろして鼻で笑った。
ゴーレム兵たちが腕に装着した魔導砲をバハムートに向けて、一斉発射した。極太の光の矢がバハムートを叩くが、神竜の巨体は小揺るぎもしない。
「ぬるいな人間、この程度か?」
「あ、あり得ん! 我が帝国の軍事力は神竜すらしのぐハズだぁ!」
バハムートに威圧されて、ダオス皇子は恐慌状態になった。
『バハムート、ダオス皇子を捕らえるんだ。僕が【スタンボルト】で無力化する!』
「承知した!」
「お前たち、この俺を……この俺を守れ!」
ダオスは転がるように逃げ出した。
だが、多くの敵兵は、恐怖からすでに戦意を失っていた。バハムートが歩を進めると、兵たちは皇子を守ろうとはせず、潮が引くように後退していく。
「逃げられると思ったか? 我が主と敵対した愚かさを悔やむのだな!」
何の障害もなくバハムートは、ダオス皇子の背後に迫った。
「ひっ、ぁああああっ!?」
バチバチバチッ!
その場にヘタリ込むダオス皇子を、僕は電気ショック【スタンボルト】で昏倒させた。
その身をバハムートがヒョイと掴み上げる。
「敵総大将、ヴァルトマー帝国の第2皇子ダオスを捕えたぞ! 全員、武器を捨て、降伏せよ!」
バハムートの大音声が戦場に轟いた。
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