77話。アンナ王女からガチャに課金するお金をもらう

「……ご苦労様でしたアルト殿。まさかシレジアの地で、魔王ベルフェゴールが復活を果たそうとしていたとは。思いもよりませんでしたわ」


 僕は魔法の水晶玉を通して、アンナ王女と通信していた。

 水晶に映った美貌の王女は、深く頭を下げる。


「王女殿下、もったいない。頭を上げてくだい」


 王女様にそのような態度をとられると恐縮してしまう。

 それに夜会に参加する予定なのだろうか? アンナ王女は前回より着飾っており、肩を剥き出しにした赤いドレスを着ていた。目のやり場に困ってしまう。


「それにしても、まさか本当にナマケル殿を捕らえ、ダークエルフたちとの和睦も果たしてしまうなんて……驚きですわ。アルト殿の果たした偉業は、我が国で永遠に語り継がれていくでしょう。

 前回、話の途中で腰を折られてしまいましたが、神々を召喚するというあなたのスキルについて、詳しくお聞かせいただけませんか? 正直、かなり気になってましたのよ」


 アンナ王女は熱ぽっい瞳で僕を見つめた。


「わかりました。神を召喚するには、一回につき100万ゴールドを課金する必要があるので、実はおいそれとはできません。

 僕は喚び出した女神たちの力を借りて、魔王ベルフェゴールを倒しました。シレジアの発展も彼女らの力によるものです」


「……なっ」


 アンナ王女が絶句する。

 にわかには信じられない話だよな。


「神を喚び出す対価が、たった100万ゴールド? それで豊饒の女神ルディア、鍛冶の女神ヴェルンドといった破格の力を持った神々の力を永続的に借りられるというのですか?」


 え? たった100万ゴールド?

 辺境領主に過ぎない僕にとって100万ゴールドを捻出するのは大変だが、国家予算を動かせるアンナ王女にとっては違うらしい。


「はい。温泉宿経営やソフトクリーム作りなどでお金を稼ぎつつ【神様ガチャ】に課金しています。シレジアの開拓も進めなくてならないので、正直カツカツです……」

 

 領地経営に役立つ神がガチャで手に入れば良いが、そうとも限らないので課金には慎重にならざるをえない。

 アルフィン、巨神兵などは戦闘では役立つが領地経営に直接、役立つ訳ではないからね。


「アルト殿。実は現在、隣国のヴァルトマー帝国が国境を犯し、略奪を行っています。

 お気を悪くされるかも知れませんが、正直に申し上げますね……テイマーの名門オースティン家が没落し、王宮がモンスターの反乱でめちゃくちゃになったことなどから、帝国は我が国の力が衰えたと見ているようです」


 そ、それはつまりオースティン伯爵家の落ち度ということだよな。

 実際、王国最強の独立遊撃隊『獣魔旅団』が僕を慕ってシレジアにやって来てしまっている。

 これでは諸外国から、アルビオン王国の戦力が落ちたと見られても仕方ない。


「お願いです。神々の力を我が国の防衛にお貸しいただけませんか?」


 僕は王国貴族として、王国の民を守る義務がある。もちろん、イエスと答えたいところだが、ひとつ懸念点があった。


「あくまで防衛のため。戦争の抑止力としてでしたら……バハムートを出撃させたいと思います。

 女神ルディアの話によると、神々が【神様ガチャ】によって地上に降臨したのは、復活を遂げようとしている七大魔王に対抗するためのようです。

 人間同士の争い、特に他国への侵略に神々の力を使うのは、彼女らの了承を得られない可能性があります。その点、ご理解いただきたく存じます」


 防衛なら良いけど、それがエスカレートして、神々の力を侵略戦争に利用されるのは避けたかった。それはルディアたちの本意ではないだろう。

 2万5千のダークエルフの軍団に勝った噂も徐々に広まっているようだし……

 英雄などとおだてられて、調子に乗らないようにしなければならない。


「【神様ガチャ】は魔王に対抗するためのスキル………これは無理を言って申し訳ありませんでしたわアルト殿。

 バハムートを貸していただけるだけで、十分です。かの伝説の神竜の威容を目の当たりにしただけで、敵軍は逃げ出すでしょう」


 アンナ王女は満足そうに微笑んだ。

 僕はホッとする。


「それとこの度の魔王討伐、及びダークエルフとの講和を成し遂げた褒美として、わたくしから100万ゴールドを送らせていただきますわ。どうぞ【神様ガチャ】の課金に使ってください」


「えっ!? よろしいのですか?」


「もちろんです。魔王ベルフェゴールが復活していたら、我が国も無事ではすまなかったでしょう。他の魔王たちも復活する兆しがあるというのでしたら、そのための防衛策を講じておく必要がありますわ」


 アンナ王女はそこで一旦、考え込むように言葉を切った。


「そうですわね。今後、わたくしと3日に一度、定期的に通信し情報交換いたしましょう。王国として【神様ガチャ】に投資するのですから、よろしいですわよね? ヴァルトマー帝国の動きもお伝えする必要がありますわ」


「はい、もちろんです」


 ヴァルトマー帝国の侵略がもし本格化したら、このシレジアも無関係ではいられない。

 なるべく早急に解決したいところだ。

 それにここは辺境すぎて、情報が入ってきにくい。

 アンナ王女を通して、国際情勢が知れるのはありがたかった。


「では宮廷魔導師団の転送魔法によって、早急に100万ゴールドを送らせていただきますわ。次の3日後の通信を楽しみにしておりますわね」


 アンナ王女は華やかな笑顔で告げると通信を切った。



 アンナ王女はアルトとの通信を終えると、思わずほくそ笑んだ。

 これで3日に一度はアルトと顔を合わせて会話することができるようになったのだ。


「……やったわ。ふふっ、ここまでは計画通り」


 ナマケルはゴミでしかなかったが、ナマケルを助命したことでアルトは恩義を感じてくれたようだ。ならあのゴミも多少は役に立ってくれたと言える。


「アルト殿はバッチリわたくしを意識してくれたようですしね」


 アンナ王女は派遣した近衛騎士を使って、アルトの好みの服装や髪型などを調べ上げていた。

 今回はそれに合わせて着飾り、アルトの気を引こうと試みたのだ。


「……シリウス、良くやってくれたわ。引き続きアルト殿についての情報を収集し、報告なさい」


 アンナ王女は水晶玉を使った通話魔法で、近衛騎士シリウスを呼び出して労をねぎらった。


「はっ、お褒めに預かり光栄です。雑談の中で、自然にアルト殿の好みを聞き出すのは、な、なかなか骨が折れました」


 水晶玉に映ったシリウスは慣れないことをしたためか、疲れた様子だった。


「でも安心はできませんわ。わたくしの恋敵は女神ルディアですもの。わたくしに好意を持ってもらうよう、今後もアルト殿にわたくしをそれとなくアピールなさい。良いわね?」


「はっ! このシリウス、身命を賭して遂行いたします」


 シリウスは実直に腰を折る。

 彼らをシレジアに派遣しておいて正解だった。


 アンナ王女は一度、アルトから求婚を断られたが、それが彼女の心に火をつけた。欲しいと思った物は、何が何でも手に入れたくなるのが、彼女のさがだった。


「ふふっ、絶対に逃しませんわよ。わたくしの未来の旦那様……」


 アンナ王女は強い決意を込めた声で呟いた。

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