73話。4章エピローグ

「アルト様、お帰りなさいませ!」


 飛竜に乗って村に戻ってくると、目尻に嬉し涙を浮かべたリリーナが出迎えてくれた。


「お言いつけ通り、宴は準備万端、整えておきました!」


 もう深夜だというのに、野外テーブルには食欲をそそる料理の数々が並べられている。


「ありがとう。リリーナも無事でよかったよ。死人は出ていないよね?」


「はい! 冒険者やエルフのみなさん。アルト様のモンスターたちが、がんばってくれたおかげで、怪我人は出たものの死者は出ておりません!」


 村は大挙して押し寄せた樹海のモンスターに襲撃されたが、なんとか防衛できたようだ。


 仲間モンスターたちが、僕の周りに集まってきて、いきなり胴上げされた。


「ええっ! ちょっと、おいおい!」


 完全なお祭りムードである。

 村人や冒険者、エルフたちも、わっと押し寄せてきて、それに加わわる。


「い、いろいろと報告しなくちゃいけないことがあるんだけど……とりあえずルディア頼む!」


「わかったわ! 魔王ベルフェゴールは再度封印されて、ダークエルフの女王イリーナは、エルフとの和睦を約束してくれたの!」


 ルディアが飛竜から飛び降りて告げる。


「誠でありますか!? そんなことが……!」


 驚きわななくエルフたちの前に、イリーナが歩み出る。

 村を襲撃した張本人、しかもダークエルフの女王だというイリーナの登場に、村全体に緊張が走った。


「大丈夫です! ねっ、お姉様……!」


 ティオが笑顔を見せると、張り詰めた様子だったイリーナも顔をほころばせた。


「魔王ベルフェゴール様から、ダークエルフの女王に指名されたイリーナです。

 先ほどは、みなさんの宴を台無しにしてしまって、お詫びのしようもありません。アルト様のご厚情により、私も宴に参加させていただくことになりました。

 もうみなさんには、決して危害を加えないとお約束します」


 イリーナは申し訳無さそうに謝罪した。


「いきなり魔竜をけしかけられたのには、驚いたゴブが……

 この村を襲ったのは、俺たちゴブリンやエルフも同じゴブ。だから、気兼ねなく仲間になれゴブ」


 ボスゴブリンが胸板を叩いた。

 ゴブリンたちは、うんうん頷いて同意する。


「そう言えば最初はエルフたちも、思いっきりこの村をファイヤーボールで燃やそうとしていましたよね……」


 ティオの言葉にエルフたちは、痛いところを突かれてうめき声をあげた。

 これでは一方的にイリーナを非難できないだろう。


「そういう訳だから。みんなイリーナと仲良くしてやって欲しい。ティオのお姉さんなんだ」


「はっ! アルト様がそうおっしゃるのであれば……」


 胴上げから下ろしてもらった僕が促すと、村人たちは同意してくれた。


「ティオ姫様のお姉様であれば、大歓迎ですワン!」


 イヌイヌ族たちも、それに続く。

 エルフたちはイリーナを遠巻きに睨みつけていた。これは致し方ない。

 わだかまりは、これからゆっくり解いていけば良いだろう。


「まさか本当にダークエルフとの和睦を実現されてしまうとは……一体、どのような交渉をされたのですか!?」


 近衛騎士のシリウスがやって来て、僕に尋ねた。


「うーん、それは……」


 あまり詳しいことは、僕の前世や創造神に関わることなので、おいそれとは口にできない。神話や歴史の定説を覆すことになる。


「魔王ベルフェゴールはアルトに負けて、私たちの要求を呑んだ。要するにそういうことよ。細かいことは抜きにして、王女様には、そう報告すれば良いんじゃない?」


「なっ!? ルディア殿。まさか魔王は復活したのですか……!? しかもアルト殿が勝った!?」


 シリウスは感嘆に息を飲む。


「それは詳しいお話をお聞きしなければ、なりません! アルト殿、お疲れでしょうが、よろしいでしょうか!?」


「……ちょっと内密にしたいこともあるので。アンナ王女にだけ後から僕が詳細を報告するので、良いでしょうか?」


「わかました。そうしていただけますとありがたいです」


 シリウスは実直に腰を折った。

 ガチャに関することなど、アンナ王女の耳に入れておいた方が良いだろう。


「マスター。ではいよいよ、宴再開ですね! 今夜は倒れるほど飲むぞぉおお!」


 女神ヴェルンドが、欲望の雄叫びを上げた。


「私も動けなくなるほど、お肉を食べるわ! って、その前に寒いので着替えを……っ!」


 ビキニ水着姿のアルフィンが、寒そうに肩を震わせる。


「お師匠様。そう言えば、なぜ、そのようなお召し物を?」


「私にだってわからないわ! 気がついたら、こうなっていたのよ! んっもう、こんな格好したくないのに……っ!」


 首を捻るエルンストに、アルフィンは八つ当たり気味に叫んだ。

 なにはともあれ、イリーナを迎えての宴が再開されることになった。

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