72話。4章完結。【因果破壊(ワールドブレイク)】

『レアリティSSR。豊饒の女神ルディアをゲットしました!』


『豊饒の女神ルディアが第3段階まで強化されました。

 ルディアが新スキル【転生回帰(リグレッション)】を獲得しました!


 【転生回帰(リグレッション)】は、前世のスキルを一度だけ使えるようにするスキルです。クールタイム1ヶ月』 


「アルト。あなたの前世のスキルを使えるようにするわ。準備は良い!?」


「常時発動系(パッシブ)スキルじゃないなら、すぐに使えるようにしてくれ!」


 決死の形相で斬りかかってきた魔王の攻撃を防ぎながら、尋ねる。

 ルディアが言っていることが本当なら、僕の前世は『傲慢』の魔王だ。

 スキルの中には意識せずに常に発動しっぱなしになる常時発動系(パッシブ)スキルもある。


 その場合、予備知識なしで手に入れるのは危険だと思う。意図せず周りに甚大な被害を与える可能性がある。


「わかったわ! 【転生回帰(リグレッション)】」


 ルディアが叫んだ。

 身体の内側から、何か強大な力が湧き出てくるのを感じた。


『魔王ルシファーのスキル【因果破壊(ワールドブレイク)】を獲得! 一度だけ使用可能になりました。

 24時間以内に起きたできごとのひとつを無かったことにするスキルです』

 

 システムボイスがスキルの獲得を知らせる。その詳細は驚くべきものだった。


「アルト、【因果破壊(ワールドブレイク)】の使用には気をつけて! 因果を壊し、ガチャの結果さえ覆す能力だったから、創造神様はとても恐れていたわ。

 使い方によっては、取り返しのつかない事態を引き起こすの!」


「よせ兄貴! 兄貴もわかっただろう!? 創造神はガチャの確率を操作して、自分に都合の良い結果を得ることができるんだ!」


 魔王ベルフェゴールと僕の剣が激しくぶつかり合って火花を散らす。


「エルフの中には、無邪気に創造神の言葉を信じて、ガチャに全財産を突っ込んで破滅しちまったヤツもいる! その絶望から生まれたのがダークエルフだ!

 創造神は【神様ガチャ】によって力を取り戻し、この世界に再びガチャを蔓延させようとしているんだぞ!」


「違うわ! ガチャのおかげで世界は繁栄し、みんな幸せになったのよ! あなたにはSSRの精霊を引き当てて喜んでいた人々の笑顔が見えなかったの!?

 ガチャのおかげで、かけがえのない友達を得て、人は孤独から解放されたのよ!」


「バカが! 射幸心を煽って金を巻き上げておきながら、よくそんな世迷言が言えるな!」


 ベルフェゴールはルディアの主張を真っ向から否定する。


「ガチャなんてモンは、この世に存在しちゃならねぇんだ!

 俺たち七大魔王は人間の七つの大罪『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』を司るが……創造神が司る『射幸心』は、それらを上回る悪徳だ!

この世の闇そのものだ!

 ガチャは人を笑顔にするとか真顔で抜かし! 兄貴を堕落させたお前は、最低最悪の邪神だ!」


 女神ヴェルンドの話だと、ガチャとは創造神が作ったお布施集約システムだ。ガチャのおかげで創造神は、人々から効率良く信仰心を得て、世界を維持していたらしい。


 だが、お布施を集めるためにガチャに課金するように人々を煽りまくった結果、廃課金で人生終了してしまう者が続出し、人類は滅びかけた。


「ベルフェゴール、お前の言ってることもわかるけど……

 僕はこの【神様ガチャ】のおかげで、ルディアやクズハたち、かけがえのない仲間たちに出会えた。リーンやティオを救うことができた。

 ガチャは使い方さえ間違えなければ、ルディアの言う通り、人を幸せにする力なんだと思う」


「アルト……っ!」


 ルディアが感激に瞳を潤ませる。


「だけど創造神様が、もし本当に私利私欲のためガチャを復活させようとしているのなら。ガチャが人々を破滅に導くモノでしかないなら……僕は創造神様を全力で止めたいと思う」

 

「……【因果破壊(ワールドブレイク)】が使えるようになったからと言っても。一回だけなら、まだ俺に勝ち目はある!」


 魔王ベルフェゴールが猛然と突っ込んできた。

 ベルフェゴールを倒すには、攻撃を回避されたという結果を無かったことにするしかない。


 だが、僕が願うのは誰も欠けることなく、一緒に帰れる未来だ。

 イリーナだけでなく、ナマケルも連れて帰る。数々の罪をおかした弟には、ちゃんと罪を償ってもらう。

 だから、ベルフェゴールを倒すためにこの力は使わない。


「ベルフェゴールがイリーナを殺したことを無かったことにする」


 そう宣言した途端、ベルフェゴールは動きを止めた。

 僕の目の前に、光に包まれたイリーナが出現する。


「ハハハハッ……兄貴、この俺を殺すのではなく再度、封印するってか?」


 魔王……ナマケルの身体から、湯気のような靄が立ち昇って、石棺に吸い込まれていく。

 イリーナが生け贄にされた事実が無くなった結果だ。魔王の魂が石棺に戻っていく。


「弟を殺したりしたら、この先、ずっと寝覚めの悪さに悩まされるだろうからな。それが前世の弟であっても」


 僕に前世の記憶は無いが、ベルフェゴールは僕を兄貴と呼んでいた。そんなヤツを殺すのは、ちょっとばかし抵抗がある。


「へっ……なんでも自分の思い通りにしないと気が済まない。そして実際にそうしちまう。さすがの『傲慢』さだぜ。まあ、そこだけは変わってないようで安心した」


 ベルフェゴールは笑った。


「まあ、いい。俺の負けだ。やがて創造神に挑む気があるってんなら……ダークエルフは兄貴が支配して使え。力ある者に従う、それが魔族のルールだ。

 イリーナ……今後は兄貴に仕えろ。俺のスキルは使えるままにしておいてやる。お前はダークエルフの女王となれ……っ!」


「魔王様……?」


 イリーナは目を瞬いた。あまりに意外な言葉だった。


「兄貴がガチャに課金し続け、創造神が力を取り戻したら。おそらく、この世界は再び破滅の危機を迎えるだろう。

 だから、お前がお目付け役となって、課金を阻止するんだ。廃課金バカ女神の好きにさせるな」


「失礼なヤツねベルフェゴール! ガチャはみんなを笑顔にする力だって何度も言ってるでしょ!? 創造神様だって、かつて人類を滅ぼしかけたことは反省しているのよ! だから誠実な運営を心掛けて、ミスがあったらちゃんと認めて、返金に応じたり詫び石をくれるんじゃない!?

 SSRの出現率だって、2000年前は1.5パーセントだったけど。今は3パーセントなのよ!」


 ルディアはさらにまくし立てる。


「なにより、ガチャが失われて2000年も経ったせいで、創造神様は世界をメンテナンスする力を失って、この世界はゆっくり崩壊しているのよ!

 砂漠が広がり、天変地異が各地で起き出しているわ。世界を維持するためにガチャは必要なのよ」


 そうだ。創造神様は、世界を維持するためにガチャシステムを生み出した。ならガチャが人々を破滅に導いたことは不本意だったハズだ。


「はん! まだそんな戯言を抜かしているガチャ信者には何を言っても無駄だな……!」


 ベルフェゴールは吐き捨てるように言った。


「クハハハッ! 兄貴、忠告しておいてやるぜ。創造神は信用するな。課金は絶対にやめておけ!

 願わくは【因果破壊(ワールドブレイク)】で、この世からガチャを……!」


 そう叫んで魔王ベルフェゴールは、ドサリとその場に崩れ落ちた。

 魔王が復活した因果が完全に改変され、再び封印されたのだ。


「やりましたね、マスター!」


 女神ヴェルンドと、アルフィンが僕に歩み寄ってきた。

 水着姿のアルフィンは、喜びを全身で噛み締めているようだった。


「ねっ! ねっ! マスター! 魔王を倒すのに私はお役に立ちましたよね! くっうううぅ! お父様やお兄様たちに思いっきり自慢してやるんだから!」


「ああっ、も、もちろん……」


 肌色成分多めのアルフィンに間近に迫って来られて、思わず視線を逸してしまう。


「アルト……いえ、アルト様。魔王ベルフェゴール様の命令によって、これからダークエルフはあなた様の支配下に入ります」


 イリーナが僕に頭を垂れた。

 僕はイリーナに向き直る。


「……イリーナ、ティオと仲良くな。あの娘は本当に君との和解を望んでいたから」


「はい……っ!」

  

 もう姉妹が骨肉の争いをすることはない。

 今は誰ひとり欠けることなく家に帰れることを喜びたいと思う。

 その時、再度、システムボイスが響いた。


『メンテナンスのお知らせ。

世界の不具合が確認されております。


・特定の地域で洪水がたびたび発生

・レムリア大陸での砂漠化進行


 取り急ぎ修正対応を行います。


【メンテナンス】

本日深夜0:00から朝方6:00までメンテナンスを行います。その間、【神様ガチャ】を回すことができなくなります。

ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いします。


※終了時刻が前後する場合があります。


#創造神』


「やったわ! アルトが課金を繰り返してくれたおかげで、創造神様が世界をメンテナンスする力を取り戻したのよ!

 これで世界は良い方向に向かっていくわ!」


 ルディアが僕に抱きついてきた。

 ガチャは確かに大きな闇を秘めているのかも知れない。

 だが、この世界を維持するために必要であるのなら……

 僕はこの力と、上手に折り合いをつけて行こうと思う。

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