64話。留守をモンスターたちが守ってくれる

「ごめんなさい、アルト! 私がもっとしっかりティオを見張っていれば……っ!」


 村の中央広場にやって来たルディアは、意気消沈していた。

 ティオと一緒だったが、魔竜から逃げる途中で、はぐれてしまったらしい。


「あの混乱の中じゃ仕方がない。とにかく、魔王のダンジョンに向かおう」


「うんっ! 絶対、絶対にティオを取り戻しましょう!」


 僕はダンジョン攻略に最適なメンバー集結させていた。僕、ルディア、ヴェルンド、アルフィン、エルンスト、リーンの6名だ。


 ルディアは切り札【世界樹の雫】のクールタイムが終わっておらず、使用ができない状態だ。だが、魔王ベルフェゴールを封印した当人であるため、参戦してもらうことにした。

 

 ガインには村の防衛のために残ってもらう。


「マスター。時間がかかりましたが、完成したミスリルの剣です。神だろうと魔王だろうと両断できる威力を秘めています」


 鍛冶の女神ヴェルンドが、僕に鞘に収まった剣を渡した。

 僕は半ばまで引き抜いて、確認する。


 鏡のように磨き込まれた刀身には一点の曇りもなく、魔性の美しさを宿していた。


「これはすごいな……」


 思わず感嘆のため息が漏れてしまう。


「はい。本来なら、今日の宴でお披露目したかったのですが」


「いいなぁーー! ヴェルンド様の剣!」


 剣神の娘アルフィンが、目をキラキラさせて僕の剣に魅入っていた。


「アルフィンの大太刀も鍛え直したかったのだけど、時間が無かった。穴掘りをいっぱいする必要があったし」


「ぉおおおおおっ! 本当ですかぁ!? じゃあ。戻ったら、ぜひお願いします!」


 アルフィンは喜びを爆発させている。彼女はヴェルンドのことを尊敬しているようだ。

 ヴェルンドも満更でもないようで、頬を弛ませている。


「わかった。剣を極めるのではなく、剣を極めてカッコいいと言われることを目指すアルフィンの生き様が、私は大好きだ」


「やったー! ヴェルンド様に褒められた!」


 いや、それ、褒めているのかな?

 とりあえず、ツッコまないでおこう。


「アルト様、どうかご武運を……っ! 無事のお帰りをお待ちしています」


 侍女のリリーナがやってきて、ダンジョン攻略に必要なアイテムを入れた革袋を渡してくれた。

 回復薬やランタン、水、携行食などが入っている。


「リリーナ、ありがとう。シリウス殿、クズハ、ガイン、留守は任せたよ」


「お任せください。騎士として、この村を守り抜いてみせます!」


「はいですの! 怪我をされた方々は、クズハの湯治で、みんな癒やしますの! マスターは心置きなく戦ってきてくださいの!」


「さっきはヘマやっちまって、すまぇ大将……姫さんを連れ戻して、宴の続きをやろうぜ!」


 3人がそれぞれ、僕に激励の言葉を送ってくれる。


「宴の続か、そうだな。リリーナ、準備して待っていてくれるか?」


「はい。もちろんでございます」


 リリーナは、優雅に腰を折った。

 5体の飛竜が僕の目の前に降りてきた。飛竜に乗って移動すれば、すぐに魔王のダンジョンに到着できる。


「アルト様! ルディア様! どうかティオ姫様をよろしくお願いします!」


「我らが不甲斐ないばかりに、このようなことに……!」


 エルフたちも必死の眼差しで、僕たちを見送る。


「もちろん、必ずティオを取り返す」


「そうよ。大船に乗ったつもりで、任せといて!」


 エルフたちは魔王の復活を阻止するために、最初はティオを殺そうとしていた。思い留まってくれた彼らのためにも、なんとしてもティオを救出せねばならない。


「ティオ様がいなくなったら、ソフトクリームでみんなに笑顔を届けるというボクたちの夢も潰えてしまいますワン! 出血大サービスでエリクサーを提供しますので、姫様をどうか、どうか助け出してくださいワン!」


 イヌイヌ族が究極の回復薬エリクサーを渡してくれた。ひとつ30万ゴールドはする高価な薬だ。

 彼らの必死さは、エルフたちに勝るとも劣らなかった。全員が青ざめた顔をしている。


「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」


 その時、ホワイトウルフのシロが、警戒の遠吠えを発した。


「ワォオオオン!(たくさんのモンスターが、この村に向かってきているぞ!)」


 シロだけでなく、優れた索敵能力を持つモンスターたちが騒ぎ出していた。

 僕は慌てて【魔物サーチ】のスキルを起動して確認する。


「なぁっ……!? モンスターの大群が村を包囲しているぞ!」


「なんですとっ!?」


「間違い無い! 1万匹以上のモンスターの群れが押し寄せて来ている!」


 僕の叫びに、どよめきが起こった。

 モンスターが村を襲うことはあったが、こんな組織だっての大規模攻撃は今まで無かった。


 一体、なんだってこんなことに……


「マスター、魔王のダンジョンより、ただならぬ瘴気が溢れてきています。これに当てられたのでは!?」


 ヴェルンドが険しい顔つきになる。


「多分、私たちを足止めするためよ! イリーナが樹海のモンスターをけしかけてきたのだわ。アルト、どうするの!?」


 ルディアが問いかけてきた。

 ここに残って村の防衛をしていたら、ティオの救出が間に合わなくなる。


「ワンワン!(村はボクたちが守るから、ご主人様は行って欲しいワン)」


「ゴォォォオン!(ご主人様に育てられた獣魔旅団の力、みせてやる!)」


「ギャオオオ!(どうか俺たちに任せて!)」

 

 シロだけでなく、僕がテイムした他のモンスターたちも集まって来て告げた。

 3000匹近い仲間モンスターたちが、村を守ると意気をあげている。


「このコたちは、みんなクズハの温泉に入って3倍強化されてますの! 樹海のモンスターが何万と襲ってきても負けませんの!」


 クズハが胸を張って叫んだ。増えたモンスターたちのために、モンスター専用露天風呂も作ったのだ。

 これなら安心して任せられる。


「みんな、僕に力を貸してくれるのか。ありがとう! 頼んだぞ!」


「「「がぉおおっ!(ご主人様、がんばって!)」」


 胸に熱いモノを感じつつ、僕な飛竜の背に飛び乗った。ルディアたちも僕に続く。

 モンスターたちとの絆、これが僕のなによりも尊い宝だ。


「おい、万の大群ってマジかよ! ブルっちまうが、大将が戻って来るまで。なんとかしてみせるぜ!」


 ガインが頬を叩いて気合いを入れている。


「魔王の復活を阻止すれば、モンスターの襲撃も止むはずだ! みんなそれまで持ちこたえてくれ!」


「「はいっ! アルト様のお帰りをお待ちしています!」」


 大勢に仲間に見送られ、飛竜に乗った僕たちは村を後にした。


 冒険者やエルフ、僕のモンスターたちは強いが、圧倒的な物量差で攻められたら、やがて村は陥落するだろう。

 それまでに、すべての決着をつける必要があった。


―――――――


名 前:アルト・オースティン


○ユニークスキル

【神様ガチャ】


【世界樹の雫】継承元。豊穣の女神ルディア。


【神炎】継承元。神竜バハムート。


【薬効の湯けむり】継承元。温泉の女神クズハ。


【スタンボルト】継承元。巨神兵


【魔物サーチ】継承元。巨神兵(強化型)


【神剣の工房】継承元。鍛冶の女神ヴェルンド


【剣神見習いLv385】継承元。剣神の娘アルフィン


○コモンスキル

【テイマーLv13】

―――――――

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