57話。エルフの王女ティオ、ダークエルフと和解しようとする
「我らと和解するなど。エルフの姫ともあろう者が、本気で言っておるのか……?」
「はい。あなた方を解放しますので、イリーナお姉様と話をさせていただけないでしょうか?」
ティオが牢内のダークエルフに真摯に話しかける。
僕はティオとルディアを連れて、さっそくダークエルフの捕虜の元にやって来ていた。
鍛冶の女神ヴェルンドが、急遽、掘って作った地下牢に、ダークエルフたちを閉じ込めていた。
ダークエルフは地下で暮らす種族であるためだ。人道的配慮である。
エルフの中には、復讐とばかりに捕虜を虐待したがる者もいたが、ティオがそれを許さなかった。
そんなことをすれば、和解どころではなくなるからね。
「まさか白混じりのイリーナが、エルフ王の娘だったとはな。どうりでお高くとまっていた訳だ」
「おい! 貴様、我らレーン族の族長を侮辱することは許さんぞ!」
「口を慎め。イリーナ様は、魔王様に選ばれた巫女であられるのだぞ!」
ダークエルフたちは、牢内で険悪なムードになっている。
彼らの中にも、派閥があるらしい。
イリーナは混血ということで、一部のダークエルフからは、嫌われているようだった。
それで族長の地位にまで上り詰めたのだから、侮れない力の持ち主だ。
「お前たちの王とイリーナ以外の族長は、すべて倒れた。この上、無益な争いを続ける意味はないだろう?」
僕の言葉にダークエルフたちは、悔しそうな顔をする。
「僕はダークエルフを全滅させたいとは思っていない。同じ魔族のゴブリンたちは、この村の一員として、仲良くやっている。ここらで手打ちにしてはどうだろうか?
お前たちが、人間やエルフに手を出さないなら。僕たちもダークエルフを攻撃することはないと約束する」
「……しかし、我らは魔王ベルフェゴール様の眷属。ベルフェゴール様は決してエルフを許すなと」
「あのね? アルトは魔王ベルフェゴールの兄。七大魔王の筆頭なのよ。アルトに従うなら、ベルフェゴールも納得するじゃないの?」
「……はっ?」
口を挟んできたルディアに、ダークエルフたちは目を点にする。
僕も魔王呼ばわりされるのは、かなり違和感があるので、正直、微妙だ。
「お前は何を言っているのだ? そもそも、お前は何者だ? エルフの姫が、やけにうやうやしい態度を取っておるが……」
「私はエルフたちが信仰する豊饒の女神ルディアよ! 森と生命を司っているわ」
「はい。このお方は、女神ルディア様です」
ルディアとティオの言葉に、ダークエルフたちは強い衝撃を受けていた。
まあ、目の前にいるのが女神だと言われても、すぐには信じられないだろう。
「い、いや、事実かも知れぬぞ。ゲオルグ陛下の秘技【MPゼロの呪い】が破られたのは【世界樹の雫】の効果だとすれば、納得がいく」
「確かに……」
どうやらダークエルフの中にも、ルディアの力について詳しい者がいたようだ。
「ではアルト・オースティンが、魔王ベルフェゴール様の兄君。創造神に戦いを挑み、この世のすべてを支配しようとした魔王ルシファー様だというのか?」
「それについては、否定したいところなんだけど」
「その通りよ! そして私の恋人なの。わかった!?」
ルディアが嬉々として腕を組んでくる。
「ゴブリンたちが従っているのも、そういった理由からなのか?」
「そうよ。ゴブリンたちが信仰しているのは魔王ルシファーですものね。本能的に何かを感じっているんだと思うわ」
ルディアが頷く。
ダークエルフたちは、あ然とした。
「エルフと和解するのではなく。筆頭魔王様に従うというなら、ベルフェゴール様もお許しなるハズ……」
ダークエルフたちは、何やら相談を始めた。
これで和解が成立するなら。僕の前世が魔王だったという与太話も役には立つか。
「この話について、アルト殿の正体の真偽も含めて、我らだけでは到底判断ができぬ。イリーナ様に話を持っていって、ご判断してもらうとしよう。
あのお方は、魔王ベルフェゴール様と交信できる巫女でもあるのでな」
「で、では……っ!」
ティオが目の色を変えた。
「ダークエルフとエルフの和解。話だけは、イリーナ様に通すとしよう」
「ありがとうございます! これで2000年に及ぶ争いに、ようやく終わりが見えました」
「良かったなティオ」
「はい! これもすべて、アルト様のおかげです! イリーナお姉様と戦わなくてすみそうです」
ティオは僕の手を取って、目尻に涙を浮かべた。
「できればアルトが魔王としての力を見せれば、イリーナや他のダークエルフたちを説得しやすいんだけどね」
ルディアが、空恐ろしいことを言ってきた。
「そんなことが、できるのか?」
「できるわよ? 私を3段階まで強化すれば。そのためにも、【神様ガチャ】に課金しなくちゃね!」
またガチャか。出現率3%のSSRのルディアを当てるのに、どれだけ課金しなくちゃいけないと思っているんだ。
「村の修復と拡張のためにお金を使うから、しばらくガチャに課金するつもりはないぞ。
ログインボーナスの神聖石を貯めて、10連ガチャでSSRを出そうと思う」
「ふーん。要するに、いっぱいお金を稼がないといけない、ということね。私もがんばるわ!」
僕の言葉に、ルディアはにっこり微笑んだ。
ルディアは本当に課金ガチャが好きだな。気持ちは、わからなくもないが。
課金した上で、ガチャを回すスリルと高揚感は、病みつきになりそうになる。
「じゃあティオ。今晩の戦勝パーティーでダークエルフとの和解について、みんなに話してみようか」
「はい!」
怪我人の治療なども一段落したので、今晩は、宴を開く予定だ。新たに仲間に加わった3000匹のモンスターたちの歓迎会も兼ねている。
話はまとまったし、そこでダークエルフと和解する方針であることを、みんなに発表するとしよう。
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