51話。バハムートで敵軍を蹴散らす

 僕は南に巨神兵。西に剣神の娘アルフィン。東に鍛冶の女神ヴェルンドを、それぞれ迎撃部隊の隊長として配置した。


『ガガガガガッ! 巨神兵、敵将を討ち取りました。これより、残敵の掃討に入ります!』


『アルフィンです! こちらも敵将を倒したわ! 敵軍は浮足立っています。全員、剣の錆にしてやるんだからぁあっ!』


『ヴェルンドです。敵将をハンマーで、お空の彼方にカッ飛ばしました。残りの敵は、私のドリルに恐れをなしているようです』


 僕と召喚獣たちは、精神で繋がっているため、離れていても連絡が取れる。

 これは集団で戦う上での圧倒的な優位性だった。


「よし! 予想以上の戦果だ」


 彼らには防衛ではなく、敵将を討つことを優先するように命じていた。


 女神ヴェルンドの作った地下シェルターに、ティオ王女や村人、観光客を避難させてある。


 近衛騎士のシリウスたちが、避難誘導に協力してくれたおかげで、逃げ遅れた者はいなかった。その手際の良さは、さすが正規軍の指揮官だ。


 敵が村に押し寄せてきても、そこに非戦闘員はおらず、エルフの戦士、テイムしたモンスター、冒険者たちが出迎える。


 あとは僕が、北から攻めてきているダークエルフの王ゲオルグを倒せば良い。


 北でもすでに戦端が開かれ、敵のモンスター軍団と、僕のサンダーライオンの群れが激しい戦闘を繰り広げていた。


 サンダーライオンたちは、数は20匹と少ない。だが、クズハの温泉効果、僕のスキル【薬効の湯けむり】とテイマースキルの重ねがけで、全ステータスが12倍近くアップして究極モンスターと化していた。


 ダメージを負う者が現れたら、後衛に配置した魔法使い部隊のリーンや、エルフたちに回復魔法をかけてもらう。


 おかげでサンダーライオンたちは、100倍以上もの敵をまったく寄せ付けていない。安心して見ていられた。


「アルト殿! なぜ戦場にこのような可憐な婦女子を連れて来られたのです!?」


 近衛騎士のシリウスが、僕の傍らで抗議の声を上げる。


「可憐な婦女子!? ふ、ふんっ、人を見る目はあるようだけど、心配ご無用よ。私とアルトは一心同体! いつだって一緒なんだから」


「ワン!(いざとなったら、ボクが守るので大丈夫)」


 ホワイトウルフのシロに乗ったルディアが、微妙に顔を緩ませながら応える。

 僕はルディアも連れて来ていた。可憐な婦女子とは彼女のことのようだ。


「ルディアは豊饒の女神で【世界樹の雫】という究極の回復スキルが使えるんです。だから、いざという時の切り札として来てもらっています」


 死んでも生き返れる、というのは戦略の幅を大きく広げられる。


 また、ルディアは植物操作能力で、木々の根を敵軍の足に絡ませるなどして、援護してくれていた。


 無論、ルディアを失う訳にはいかないので、シロや飛竜たちに護衛を頼んでいる。


 もし危なくなったら、足の早い彼らにルディアを連れて逃げてもらう手筈だ。


「は、はぁ。クズハ殿もおっしゃっていたのですが、女神というのは例えではなく……」


 その時、ダークエルフの軍団がこちらに突撃してきた。


「あそこにいるのが、敵総大将のアルト・オースティンだ。討ち取って手柄にしろ!」


「ほう。美しい娘たちもいるではないかっ!? 生け捕りにしてくれるわ!」


 膠着状態に痺れをきらし、一気に勝負を決めるつもりらしい。

 さすがに、この数はサンダーライオンだけでは抑えきれない。

 奥の手を使うことにする。


「【バハムート】よ。敵を蹴散らせ!」


 バハムートのカードを掴んで召喚する。まばゆい光が弾け、巨大な神竜が出現した。


「承知した!」


 バハムートが翼を広げて、ドラゴンブレスを放つ構えを取る。敵軍に雷に打たれたような動揺が走った。


「バ、バハムートだぁ……っ!?」


「本当に最強のドラゴンを召喚獣にしているぞ!」


 すべてを灰燼と化す【神炎のブレス】が、容赦なく敵軍に撃ち込まれた。

 大地がめくり上がるように爆散する。轟音と共に、ダークエルフの軍団が弾け飛んだ。


「ぉおおおおおお──ッ!」


 味方からは勝利の雄叫びが、敵からは、絶望の悲鳴が上がった。


「驚きました。これが伝説のバハムートですか!?」


 シリウスら近衛騎士団のメンバーたちも、その圧倒的な力に驚嘆していた。


 僕は【魔物サーチ】のスキルで、敵軍にどれだけの被害が出たか調べる。

 ゴッソリと3500近い敵軍の反応が削れていた。


「降伏しろ! お前たちの族長もすべて討ち取ったぞ!」


 僕は声を張り上げて、降伏を勧告する。


「まだ戦うというなら、もう一発、お見舞いしてやる!」


 敵兵たちは、見るからにうろたえた。

 大軍とは維持するのが難しいものだ。

 劣勢となれば、命惜しさに逃げ出す者が続出し軍は瓦解する。


 ダークエルフの王が、降伏を受け入れなくても、もう一発バハムートのブレスを撃ち込めば、逃亡兵が続出しそうな予感がした。


「見事であるな。アルト・オースティン!

 この俺、ダークエルフの王ゲオルグが直々に相手をしてくれるわ」


 ひときわ目を引く威容のダークエルフが飛び出してきた。

 間違いなく、以前戦った族長と同じダークエルフの上位種だ。身にまとった強者のオーラが段違いに強烈だった。


「おおっ! ゲオルグ陛下、バンザイ!」


 落ちていた敵軍の士気が回復する。


「大将同士の一騎打ちか!? 受けて立つ!」


 一騎打ちは数で劣る僕にとって、望むところだった。

 勝てば一気に形勢逆転だし、何よりこれ以上、血を流さなくて済む。


 剣を抜き放って、僕はダークエルフの王の前に進み出た。

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