50話。【剣神の娘SIDE】物理攻撃が効かない相手を物理攻撃で倒す
「それじゃあ。みんな、行くわよ!」
私──剣神の娘アルフィンは、村の西側に布陣した冒険者たちの前に立った。
ああっ、もう。ダークエルフの大軍がわんさか押し寄せてきていて、めっちゃテンションが上がるわ。
「……って、嬢ちゃん、あんた誰よ? 避難用シェルターならアッチだぜ?」
冒険者たちは、指揮を取ろうとする私にうろんそうな目を向けてきた。
彼らはSランク冒険者の魔剣士エルンスト。つまりは、私の弟子をリーダーとして、戦うべく集結していた。
その目には、勝てないまでも一矢報いてやろうという悲壮な決意が見て取れるわ。
これは、みんなの前で良いところを見せる絶好のチャンスね。
「私は剣神の娘アルフィン! マスター、アルト様よりシレジアの『剣術指南大臣』を仰せつかっている者よ。
これから私が突っ込んでいって、敵将を討ち取るわ! その間、あなたたちは、ここを死守するのよ」
私が背負った大太刀を抜いて宣言すると、冒険者たちは大爆笑した。
「こいつは勇ましいお嬢ちゃんだぜ!」
「剣が地面に着いちまってるじゃねぇか! そいつをどうやって振るっていうんだよ!」
地上最強の剣士である私が加勢しようっていうのに、なんて失礼なヤツラなのかしら?
私は面食らって、次の言葉が出て来なくなってしまう。
……い、今の私がカッコ悪く見えるのは、多少、自覚があるわ。
私の大太刀は2メートル近くあって、私の身長より長い。そして、重い。
だから、抜くと刃先が地面に着いてしまう。
本来、コレって馬上での戦いを想定して作られた武器だから、仕方ないのよね。
でも、そんなお腹を抱えて笑わなくても良いじゃない。
「指揮は私が取ります故、お師匠様は敵将を討つことに集中ください」
「……そう、よろしく頼むわね!」
弟子のエルンストが、私にうやうやしく告げると冒険者たちは目を丸くしていた。
エルンストは師匠を立てる良い弟子だわ。
「エルンストさんのお師匠様? そんなチビ娘が?」
「これから100倍以上の兵力の連中とやり合って時に、何の冗談でさ?」
そんな私の背後に、棍棒を振りかざした敵先鋒のオークたちが、襲いかかってきた。怪力自慢の魔族どもよ。
「おい、バカやっている場合じゃねぇぞ! とっとと下がれ!」
冒険者たちが、私を守ろうと泡を喰って飛び出そうとする。
あら。口は悪いけれど、悪い人たちじゃないみたい。
これは俄然やる気が出てきたわ。
最強の剣士として、この人たちを守ってあげないとね。
「剣神見習いの力、見せてやるわ!」
腰を捻りながら、身体全体で大太刀を振る。疾風のようなその一撃に、巨体のオークたちが一斉に倒れた。
「はぁっ……!?」
冒険者たちが、呆気に取られた顔をした。
オークの群れは猛然と襲いかかってくるが、私の斬撃に数体がまとめて崩れる。
連続で振られる剛剣は、暴風と化して粉塵を巻き上げる。さながら戦場に竜巻が出現したみたいだ。
「す、すげぇ、嬢ちゃん何者だ!?」
くうっうぅ……みんな私の剣技に見惚れているわ。
思わずジーンと、幸せにひたってしまう。
辛く苦しい修行とは、すべてこの瞬間のためにあったのだわ。
「私は今、絶賛、弟子募集中よ!」
そのまま、敵陣に向かって駆け出す。
狙うは敵将の首よ。
「エルンスト! この場は任せたわね」
「はい。お任せください」
エルンストに守りの指揮を任せる。
数で劣る私たちは、敵将をすばやく討ち取って敵を混乱させるしかない。
それがマスターの作戦だわ。
エルンストの持つ剣は、鍛冶の女神ヴェルンド様が鍛えた名剣よ。
他にも何人か、ヴェルンド様から武器を与えられた人がいるわ。
クズハの温泉効果も3倍になったし。これなら、ある程度、持ちこたえられるわね。
ああ、そうそう。
私も温泉効果で全能力値が3倍になっている上。マスターのテイマースキルの支援で、さらに能力値が2倍。合計で6倍に強化されているわ。
今は剣神のお父様にだって勝てそうな気がするくらい、力がみなぎっている。
ダークエルフたちが罵り声と共に、私に魔法を撃ち込んできた。それを剣で斬って消滅させる。
「なにぃい!?」
敵から驚愕の声が上がる。
私の大太刀は、ヴェルンド様に作っていただいた特別製だ。魔法を斬ることのできる力を付与されている。
これぞ、まさに純粋な剣士のための武器よ。
剣士なんか遠距離攻撃で撃ち倒せば楽勝だなんて、舐め腐っている魔法使いをブチのめす快感……っ。
ああっ、思わず口元がニヤけちゃう。
「魔法が、我らの魔法がまったく通用しないぞ!」
悲鳴がアチコチから上がった。
「純粋な剣士の前に、魔法なんか無力であることを思い知りなさい!」
「ほう、おもしろいことを言うではないか? 下がれ下がれ! このワシが相手になってやる!」
私がダークエルフたちを好き放題に叩きのめしていると、大音声が響きわたった。
角の生えた大男が、大剣を手にして近づいてくる。
これが噂のダークエルフの上位種ね。
「我こそは、族長ゾーク! ダークエルフ一の怪力の使い手にして、最高硬度の肉体を持つ者だ。
フハハハッ! 小娘。どうやら剣技が自慢のようだが。神鉄(アダマンタイト)を凌駕する防御力を誇る我の前に、斬撃など通用せぬぞ!」
「ひぃやぁあああっ! まさか、そんな、そんな……っ! 物理攻撃が効かない人なの!? ホントにそうなの!?」
私は狂喜乱舞して、大男に駆け寄って行った。
「その通りだが……?」
私が恐怖するだろうと思っていた敵将は、完全に戸惑っている。
「物理攻撃が効かない敵を、ぶった斬ることこそ純粋な剣士の本懐よ!
いざ、勝負ぅううう!」
私は大太刀を背負った鞘に納めた。
「変移抜刀・二天刃(へんいばっとう・にてんじん)!」
鞘走りを使って超加速させた剣を振り下ろす。敵将の肩に命中するが、硬い手応え。
スゴイ、斬撃が本当に効かない。
私は振り下ろした剣を、地面に着く寸前で跳ね上げる。
「な……なにぃいいい!?」
敵将の顔が歪む。あり得ない機動を描いた剣は、最初の斬撃をぶつけた箇所に2撃目を加えた。
振り下ろしと、斬り上げの超神速の2連撃よ。
本来、硬い鎧を破壊して、刃を届かせる技だけど、どうかしら? これが通用しなければ、もっともっと強い斬撃を……!
「あ、あれ……もう終わり?」
敵将は肩より血煙りを上げて、後ろに倒れた。
思ったより呆気なかったわ。
もっと、ギリギリ追い詰められる中で、究極の斬撃に覚醒するような展開を期待していたのに。
まあ、魔王から仮初めの力を与えられた程度の存在なら、こんなモノよね。
2000年以上、剣神見習いとして地道に修行してきた私とは、地力に差があって当然だわ。
「敵将、討ち取ったわ!」
私が剣を掲げると、味方から大歓声が上がった。
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