49話。【ダークエルフSIDE】族長、巨神兵にヤラれる

 ファイヤーボールを投げつけてやると、物見櫓が爆散した。その場で警戒にあたっていたゴブリンたちが、悲鳴を上げて落下する。


「フハハハッ! 魔族とはいえ、しょせんゴブリンなど劣等種、脆すぎるな!」


 ダークエルフの族長のひとり、バルコは高笑いする。彼は包囲攻めの南側を担当していた。


 アルト村は丸太塀に囲まれた、貧相な村だった。

 守備役のゴブリンたちが矢を射掛けて来るが、ダークエルフたちは魔法障壁を展開して弾き返す。被害は一切無かった。


「温泉効果とやらで、能力値が2倍になっていたとしても、この程度か!」


 配下に命じて、雷の魔法を一斉に撃ち込んでやると、ゴブリンたちは痛みに転げ回った。


 村の兵力は冒険者、ゴブリン、エルフ、テイムされたモンスターなど合わせても、せいぜいが200くらい。


 対してこちらは、使える戦力をすべて投下し、テイムしたモンスター軍団と合わせれば、総数2万5000近い兵力だ。


 これなら簡単に勝てる。

 強い人間が、多少いようとも、体力、魔力に限界がある以上、数の暴力の前では無意味だ。


 奴らを殲滅したら、美しいエルフの娘たちを捕らえて生け贄とし、さらなる力を手に入れるのだ。


 この場に『白混じり』のイリーナが参加していないのは、実に好都合だった。

 戦利品である娘たちは、すべて戦いの功労者である自分たちで独占できる。


 特にエルフの王女ティオをこの手で捕らえることに成功すれば、魔王ベルフェゴールから格別な力を与えられるだろう。


「アルト・オースティンか。ふんっ! 人間ごときが調子に乗って我らに歯向かうからだ。身の程知らずが」


 アルトは元々がテイマーであるためMPが低く、バハムートのような強大な召喚獣を実体化させ続けるのは困難だと予想された。


 なら恐れるに足りない。


 バハムートが現れたら、配下を時間稼ぎの壁として後ろに下がれば良いのだ。

 

「戦象部隊! 踏み潰せぇええ!」


 像型モンスター、パオパオマンモスの群れをけしかける。パワーなら竜種にも匹敵する戦象部隊だ。


 これであの貧弱な丸太塀を破壊して、一気に村の中になだれ込んでやるとしよう。


「ガガガガガッ! 神々の最終兵器。巨神兵(強化型)、ジェノサイダーモードで起動しました!」


 戦象部隊の前に、全身が黒光りする金属で覆われた巨人が出現した。

 前触れもなく現れたことから、召喚獣であると思われる。


「ガハハハハッ! たった一匹で、何ができる!? 粉砕しろ!」


 族長バルコは敵の巨大さに一瞬、度肝を抜かれたが、すぐに気をとり直した。

 バハムートでないなら、安全策を取る必要もないだろう。


「鎮圧執行!【スタンボルト】発射!」


 バチバチバチッ!


 巨人から、まばゆい雷撃がほとばしった。並外れたタフさが売りの戦象部隊が、パオーン! といななき声を上げて、一斉に地面に倒れる。


「はぁ……っ!?」


 族長バルコは、目を疑った。

 戦象部隊が、次々に突進をしかけていくも、無情に倒される。


 な、なんだ。コイツは?

 バハムート以外にも、こんな強力な召喚獣がいたのか?


「マスターより、モンスターは極力殺すなと、本機は命令を受けております。

 しかし、ダークエルフはその限りではありません。ジェノサイド開始!」


 巨神兵の両目が、ギン! と凶悪な光を放った。

 戦象部隊を倒しきって、逆にこちらに攻めて来ようとしていた。


「おのれ、面妖なヤツ! だが、これでお終いだ」


 族長バルコは、とっておきの魔法を発動させる。

 巨神兵(強化型)の周囲に、いくつもの魔法陣が浮かびあがり、それらが同時に大爆発を起こした。

 

 轟音が鳴り響き、無数の木々が弾け飛んだ。あたりが、もうもうとした煙に包まれる。


「ハーッハッハッハ! 対象を粉微塵にする【爆裂(エクスプロージョン)】の魔法だ! 跡形も残るまい」


「うぉおおおおお! さすがは族長だ!」


 配下からの賞賛に、バルコは気を良くする。

 だが、視界が晴れた時、巨神兵は何事も無かったように立っていた。


 バルコの笑みが固まる。配下たちも声を失った。


「本機は3段階まで強化され、【魔法無効化フィールド】の出力も上がっています」


 巨神兵は誇らしげに語ると、両手をバルコたちに向けた。


「殲滅開始。【ジェノサイド・サンダー】発射!」


 目を開けていられないほどの強烈な光が、あたりに満ちた。

 巨神兵から放たれた雷撃を浴びせられたダークエルフの軍団は、悲鳴もあげられぬまま、倒れ伏す。


「ガァアアアア──ッ!? ば、ばかな!?」


 バルコはかろうじて気を失わずに済んだが、激痛に膝をついた。


 部隊全体に何重もの魔法障壁を展開していたにもかかわらず、今ので一気に1000近い兵力を削られた。

 とんでもない威力の攻撃だった。


「な、なんなのだ、おまえは!? 神竜バハムート以外に、おまえのような召喚獣がいたのか!?」


「ガガガガガッ! 私は神々の最終兵器です。強化された私は、バハムートより強いのです。

 マスター、アルトの敵を殲滅! 殲滅します!」


 巨神兵は無人の野を行くかのごとく、ダークエルフの軍団を蹂躪しだした。

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